結節集簇様大腸病変の遺伝子産物の免疫染色からみた特異性
著者:
藤盛孝博
,
湯川雅彦
,
里中和廣
,
平山大介
,
山村由香
,
味木徹夫
,
田畑知巳
,
北沢荘平
,
前田盛
,
埴岡啓介
,
三戸岡英樹
,
杉山茂樹
,
長廻紘
ページ範囲:P.399 - P.407
要旨 内視鏡的に結節集簇様腫瘍と診断された18例の自験例を対象に,これら肉眼的に特異な進展様式をとる病巣が通常の腺腫・癌相関でみられる発癌機序とどのように異なるかを検討する目的で,免疫組織学的にras遺伝子,p53遺伝子産物を染色し検討した.更に,これらの臨床病理学的特徴を検討し文献例と比較した.type B(最大径2cm未満)の腺腫部分でras陽性を示した症例は36%であり,高度異型もしくは粘膜内癌部では71%であった.一方,p53陽性症例は腺腫部分では認められず,癌部で57%に認められた.また,type A(最大径2cm以上)の腺腫部分でras陽性がみられた症例は43%であり,癌部分では50%であり,p53陽性を示した症例はなかった.この結果は通常の腺腫・癌相関から導かれる仮説におけるras陽性結果,p53陽性結果とほぼ同じ傾向と考えられ,陽性率の差は異型度の違いを反映したものにすぎず,形態的特殊性や腫瘍の大きさとは関係なく顆粒集簇様腫瘍は腺腫・癌相関からの癌化機序が関与すると想定できた.また,type Bは水平進展の早期に次のステップへの移行がras遺伝子の異常やp53遺伝子異常で引き起こされ,水平進展を有する腫瘍性格に変化が生じる.一方,type Aでは後期に同様のステップが生じるので水平進展を示す腫瘍性格が長期に維持されたものと推測した.臨床病理学的な特徴としては,比較的大きく(2cm以上),丈の低い隆起性病変で表面が顆粒状を呈するということで十分1つのカテゴリーとすることが可能であると考えられたが,病巣の質的診断にはその病巣内の表面構造が重要であることを示した.また,呼び名については,本症のもつ悪性化,言い換えれば深部浸潤を示さないslow-invasiveな低い隆起の集合した腫瘍として位置付けするには,表面型病変と一線を画する意味で結節集簇様腫瘍がその呼び名として妥当であることを提唱した.