linitis plastica型胃癌の現状―病院受診群の現状
著者:
中野浩
,
高浜和也
,
大橋秀徳
,
渡辺真
,
北川康雄
,
宮地育郎
,
伊藤圓
,
川瀬恭平
,
大橋信治
,
岡村正造
,
江川泰人
,
綿引元
ページ範囲:P.517 - P.523
要旨 近頃,linitis plastica型胃癌(LP癌)の頻度が減少しつつあるのではという見解がある.これはLP癌の早期診断に連なる胃底腺領域のⅡc型早期胃癌の診断される頻度が増加した結果ではないだろうかと考えられている.そこで,LP癌の頻度は本当に減少しているのか,そして,胃底腺領域のⅡc型早期胃癌の頻度は増加しているのかという2点について検討を加えた.対象は1982年から1991年までの10年間に3つの病院を訪れた胃癌患者2,909名(男性1,905名,女性1,004名,平均年齢62歳)である.この10年間を2年ずつに区切り,全進行癌の中でLP癌の占める割合をみると7.4%,5.8%,9.5%,8.2%,8.3%となり,LP癌の全進行胃癌に占める割合は減少を示さず,ほぼ横ばいであった.一方,胃体部のⅡc型早期胃癌の全早期胃癌の中で占める割合をみると9.6%,12.9%,13.1%,12.4%,15.9%となり増加傾向を示した.統計学的にみると,胃体部のⅡc型早期癌の割合は1982,1983年度と比べ1986,1987年度,1990,1991年度で有意に増加していた.3つの病院間で比べると,LP癌の全進行癌に占める割合は集団検診にも力を入れている病院では減少傾向を示したが,大学病院では,むしろ増加傾向を示した.これは,集団検診の場ではLP癌が減少しているのではないかということを予想させ,大学病院には化学療法を必要とする患者が集まっていることを窺わせる.一方,胃体部のⅡc型早期癌の全早期癌に占める割合は大学病院では増加していた.これは早期胃癌に関心を持ち関連する病院から症例を集めてくる結果によるものと思われた.診断技術をより進歩させ,胃底腺領域のⅡc型早期胃癌の診断に関心を持ち続けることが,近い将来,LP型胃癌を減少させることにつながる.