今月の主題 胃悪性リンパ腫―診断の変遷
主題
胃MALTリンパ腫(low-grade malignant B-cell lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue)32例の臨床像
著者:
末兼浩史1
飯田三雄1
八尾隆史2
中村昌太郎2
江口浩一1
青柳邦彦1
中野元3
藤島正敏1
所属機関:
1九州大学医学部第2内科
2九州大学医学部第2病理
3福岡赤十字病院内科
ページ範囲:P.1039 - P.1051
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要旨 1965年から1993年3月までの間に手術され,病理学的検索にて胃のlow-grade B-cell lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue(胃MALTリンパ腫)と診断された32例(1983年のIsaacsonらの基準に従って見直し診断した症例を含む)を対象とし,臨床および病理学的検討を行った.1965年から1987年までの間に診断された20例の初回診断は,17例がreactive lymphoreticular hyperplasia(RLH),2例がRLH+悪性リンパ腫(ML),1例がMLと診断されていた.一方,1988年以降に診断された12例はすべてMLと初回診断されていた.粘膜下層までに限局した早期MALTリンパ腫の組織診断は,通常生検標本のみでは困難な場合も多く,最近の症例では5例に対しstrip biopsyを行い,確定診断を得た.MALTリンパ腫を早期群(22例)と進行期群(10例)に分けて,その臨床像を比較検討したところ,前者に女性例が多く,後者に病悩期間が長いものが多かった,両群ともX線・内視鏡上いわゆる表層拡大型の形態を呈し,びまん性凹凸顆粒状粘膜,多発びらんおよび小潰瘍,Ⅱc様不整陥凹などが高頻度に認められたが,進行期群でX線上の伸展不良が顕著であった.超音波内視鏡所見では,早期群と進行群期で明らかな差異を認め,両群の鑑別に有用であった.病理組織学的検索の結果,MALTリンパ腫にhigh-grade componentを合併した症例が2例存在した.また,進行期群の3例ではリンパ節転移が認められた.長期経過観察例の検討では進行が遅く長期間胃に限局するが,末期には全層浸潤,リンパ節転移を来すことが示唆された.MALTリンパ腫は臨床的にもlow-grade malignancyとして対応し,できるだけ早期に診断・治療することが予後の向上につながると考えられる.