コンプライアンスからみた胃潰瘍治療の実態
著者:
丸山雅一
,
藤井彰
,
竹腰隆男
,
馬場保昌
,
清水宏
,
武本憲重
,
加来幸生
,
甲斐俊吉
ページ範囲:P.307 - P.324
要旨 胃潰瘍の治癒動態を明らかにし,胃潰瘍治療の現実をコンプライアンスの面から分析するために,1982年から1991年の間に癌研附属病院で5年以上の投薬(=服薬とみなす)を行った胃潰瘍患者137例について,投薬歴とX線・内視鏡検査歴における潰瘍の治癒・非治癒の関係を時系列的に分析し,以下の結果を得た.①無投薬の期間に行われた検査では,全例において潰瘍は治癒していない確率が有意に高かった.②H2ブロッカー使用群120例のみにおいても,無投薬の期間に行われた検査で潰瘍が治癒していない確率が有意に高かった.③H2ブロッカー使用群と他剤使用群における非治癒率を比較すると,H2ブロッカー使用群における非治癒率が有意に高かった.④全例における非治癒率と非治癒投薬率の関係について有意差検定を行うと,非治癒投薬率が40%未満であっても非治癒率は20%未満にとどまる群と,非治癒投薬率は80%以上の高率が維持されている場合に非治癒率が20~80%の分散を示す群の2群に分かれた.⑤H2ブロッカー使用群のみにおける非治癒率と非治癒投薬率の関係について有意差検定を行うと,非治癒投薬率が80%以上の高率が維持されている状態で非治癒率は20~80%の分散を示した.⑥胃角部の潰瘍は他の部位の潰瘍に比して非治癒の割合が有意に高かった.⑦胃角部の線状潰瘍には全経過において非治癒と判断される例があったが,検査資料が不十分なため,胃角部の潰瘍の中から線状潰瘍の頻度を明らかにすることはできなかった.⑧嚢状胃を呈する胃角部の線状潰瘍においては,胃排出能の低下がH2ブロッカーの吸収を阻害する可能性があり,このことが難治要因の1つと考えられた.