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文献詳細

雑誌文献

胃と腸29巻3号

1994年02月発行

文献概要

特集 早期大腸癌1994 ノート

大腸de novo癌と癌組織診断基準と

著者: 中村恭一1

所属機関: 1東京医科歯科大学医学部第1病理

ページ範囲:P.151 - P.160

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はじめに

 大腸では腺腫が癌化した癌に対して,大腸粘膜から直接発生した癌をcarcinoma de novoと呼んでいる.de novoとはラテン語で,初めからという意味で用いられている.大腸は他臓器に比べて腺腫の発生頻度が高く,腺腫の好発部位は大腸癌のそれと同じであり,そして腺腫のあるものは癌化している.更には,家族性大腸腺腫症の大腸には高頻度をもって癌が発生する.そのような事実があることから,大腸の腺腫―癌関係が論じられていて,現在,大腸癌の組織発生はというと“大腸癌のほとんど大部分は腺腫の癌化したものである”(略,腺腫―癌説)が世界で一般的に受容されている3)10)~12)

 この大腸癌組織発生をいったん認めて人体の各臓器・組織における癌組織発生を眺めてみると,その大部分がde novo癌であり,大腸に発生する癌のみが腺腫由来である.ここにおいて,大腸という臓器はヒトという系の中で癌組織発生に関して特異的な存在であるということになる.胃癌の大部分はde novo癌であり16),同じ消化管の中でBauhin弁を越えたとたんに癌組織発生が突然変わるのであろうか! 自然は整合性を好む,いや,われわれは自然に整合性を与えて自然を理解しようと努めているのである.であるからには,大腸癌の大部分はde novo癌でなければならない.このことは大腸癌の組織発生を論ずるに当たって,強く意識しなければならない重要なことである.また,腺腫―癌説を認めて大腸の腺腫―癌関係の臨床病理学的なことを眺めると,実際とは矛盾する多くのこと“失われた鎖の環missing link”とか“大腸癌,夜の破局nocturnal catastrophe of the colorectal cancer”とかが浮上してくることからも,大腸癌の多くはde novo癌でなければならないのである17)~20)

 自然の要請に応えて大腸癌組織発生“大腸癌の大部分はde novo癌である”(略,de novo癌説)とするためには,癌組織診断基準を見直す必要がある.なぜならば,癌組織診断基準は癌組織発生を導くための前提であるからである17)18).現在,一般的になされている癌組織診断基準を前提として癌組織発生を導くならば腺腫―癌説に近いものとなる9)26)27).つまり,現在一般的に用いられている癌組織診断基準,その基準となる異型度をより客観的に良性寄りにしなければならないということである1)5)17)25)

 表題がde novo癌であるにもかかわらず癌組織診断基準とはと奇異に思われるかもしれないが,大腸癌組織発生の問題の根源をたどれば,それはde novo癌であることのパターン認識,そして大腸の癌組織診断基準の問題なのである.それを避けてde novo癌を論ずることはできない.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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