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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸29巻5号

1994年04月発行

雑誌目次

今月の主題 大腸Crohn病―非定型例の診断を中心に 序説

非定型的大腸Crohn病といわゆる“indeterminate colitis”

著者: 飯田三雄

ページ範囲:P.383 - P.384

 Crohn病(CD)の診断は,臨床症状,血液検査所見より本症を疑い,縦走潰瘍や敷石像などの典型的な肉眼形態像をX線あるいは内視鏡によって描出することによってなされる.過去において一時期,腸結核との鑑別が大きな問題となったことがあるが,二重造影法を駆使したX線診断学の進歩と症例の集積と共に,現在両疾患の鑑別に苦慮することはほとんどなくなった.むしろ,最近では,縦走潰瘍や敷石像などの典型像を欠く非定型例の診断が問題となっている.

 その1つは,アフタ様病変のみから成るCDの診断であり,本誌次号の主題として取り上げられる予定になっている.他の1つは,欧米で以前より報告されているいわゆる“indeterminate colitis”1)~3)に相当する病変と非定型的大腸CDとの異同やその診断であり,これが本号の主題である.

主題

大腸Crohn病の臨床―縦走潰瘍,敷石像を欠く症例の診断―X線診断を中心に

著者: 大井秀久 ,   西俣嘉人 ,   寺田芳一 ,   島岡俊治 ,   仁王辰幸 ,   南寛之 ,   小田代一昭 ,   仲淳一郎 ,   武三津彦 ,   中村勇一 ,   西俣寛人 ,   有馬暉勝

ページ範囲:P.385 - P.399

要旨 経過観察しえたCrohn病(以下CD)の大腸にみられる画像所見を整理し,縦走潰瘍や敷石像を欠いた症例のX線診断について検討した.当施設で診断されたCD129例中で画像を十分に検討しうる症例50例(小腸型10例,小腸大腸型30例,大腸型10例)を対象とした.非定型例は全例小腸大腸型で10例だった.画像所見を部位ごとに検討すると上行結腸には,敷石像が多く,肝彎曲,横行結腸,下行結腸には縦走潰瘍が,S状結腸には不整形潰瘍が多かった.アフタ様病変,点状のバリウム陰影(以下BaF),小透亮像(以下FG)はS状結腸を中心とした左半結腸に多かった.敷石像を認める部位は経過中80%が手術された.縦走潰瘍は瘢痕化するもの,再燃・緩解を繰り返すものそれぞれ40%だった.縦走潰瘍,敷石像を認める以前にみられた画像はアフタ様病変のほか,BaF,FGもあり,11例は異常所見のない部位からも生じていた.非定型例では定型例に比べ,全部位でアフタ様病変,BaF,FGが多く,特に下行結腸で出現率が高かった.非定型例10例の中で5例に経過中縦走潰瘍や敷石像を生じた.縦走潰瘍や敷石像のみられた部位には縦軸要素(longitudinal involvement)を示唆する変形が長期間残ることが多く,非定型例の診断にはそれらの変形を参考にして縦軸要素を診断することが重要と考えられた.

大腸Crohn病の非定型例―その頻度と臨床像

著者: 樋渡信夫 ,   島田剛延 ,   鈴木仁人 ,   池端敦 ,   豊田隆謙

ページ範囲:P.401 - P.409

要旨 大腸Crohn病の非定型例を,敷石像も縦走潰瘍も有しない症例と定義して,その頻度と臨床像を検討した.当科初診時,非切除大腸Crohn病29例中5例(17%)が非定型例と判断された.これらは,①種々の形態の潰瘍から成る症例,②区域性びまん性病変,③自然緩解を呈する症例,であった.Crohn病にみられる潰瘍の形態や緩解像のスペクトルを十分に経験すると共に,特殊な経過を示す症例の存在を知っていれば,非定型例といえども積極診断は可能と思われる.

非定型大腸Crohn病―5例の呈示とその診断における問題点

著者: 八尾建史 ,   古川敬一 ,   八尾恒良 ,   松井敏幸 ,   櫻井俊弘 ,   岩下明徳 ,   岡田光男 ,   瀬尾充

ページ範囲:P.411 - P.425

要旨 過去8年7か月間に福岡大学筑紫病院で診断された大腸Crohn病の中で,X線・内視鏡上,アフタ様病変のみから成る例を除き,縦走潰瘍・敷石像を認めない例,潰瘍性大腸炎との鑑別が困難であった例を非典型例とし,その頻度,診断上の問題点を明らかにした.当科の非定型例は3例で全Crohn病患者,大腸Crohn病患者の中に占める割合は,それぞれ1.6%(3/187例),15%(3/20例)であった.更に福岡大学第1内科の非定型例2例を加え計5例を詳細に呈示し検討した.非典型例の臨床的特徴は発症が比較的急激で,5例中4例が下痢・血便を初発症状としており,5例中4例が直腸から連続して病変を認めたことであった.上記所見に加え,再検討により内視鏡上,部分的に介在正常粘膜を伴うアフタ様病変(4/5例)およびX線上縦走潰瘍瘢痕(1/5例)の見落としが明らかになり,病理学的には,手術標本の切り出し不足(2/5例)が,確定診断を迷わせた主な診断上の問題点と思われた.今回の検討に,欧米で報告されている“indeterminate colitis”に重点を置いて文献的考察を加えると,病理材料の検索不足により“indeterminate colitis”に当てはまる例は,十分起こりうることが考えられた.

大腸Crohn病の非定型例の臨床―縦走潰瘍,敷石像を欠く症例の頻度と診断

著者: 飯塚文瑛 ,   長廻紘 ,   佐藤秀一 ,   田中良基 ,   杉山茂樹 ,   石井史 ,   元鍾聲 ,   鈴木麻子 ,   馬場理加 ,   高橋芳枝

ページ範囲:P.427 - P.437

要旨 初診時あるいは診断時に典型像(縦走潰瘍,敷石像)を欠いた大腸Crohn病(CD)(終末回腸または回腸末端部にも一部炎症が及んだ症例も含む)の臨床像,病変像を経時的に分析し,その診断の根拠と確実性について検討した.臨床症状よりCDを疑うが,肉芽腫を得なかった症例において大腸CDと診断するのに役立った事項は,①病変のskip,②縦列する小潰瘍群やアフタ,③同部や炎症性隆起部における炎症の程度が,粘膜層よりも粘膜下層において強いこと(sm>m:disproportionate inflammation)であった.

非定型大腸Crohn病―手術例における肉眼的・組織学的検討

著者: 石黒信吾 ,   辻直子 ,   河田佳代子 ,   寺尾寿幸 ,   建石龍平

ページ範囲:P.439 - P.446

要旨 大腸Crohn病で臨床的に非典型例とされた手術例5例を取り上げ,典型例と肉眼的・組織学的に比較検討した.潰瘍性大腸炎と鑑別が困難であった2例は,全結腸に連続性の病変がみられた.肉眼的には,縦走する潰瘍はみられたが,数が多く,長径が短く,幅が狭く,不整形の潰瘍も多く,典型的なCrohn病にみられる縦走潰瘍とは異なっていた.病変部のcobblestone像も典型的ではなく,非潰瘍性粘膜の炎症が強かった.小さな潰瘍が多発し,周辺粘膜および粘膜下層に炎症を及ぼした結果,Crohn病の特徴である区域性のある線としての病変が明瞭に現れておらず,むしろ面としても病変として認識されるような病変になったために,潰瘍性大腸炎との鑑別が困難になったものと思われた.結核との鑑別を要した3症例は,非連続性の病変で,潰瘍は縦走傾向を示すが長径は短く,幅が広く,また潰瘍瘢痕,横走する潰瘍がみられるなど,典型的なCrohn病にみられる縦走潰瘍とは異なっており,cobblestone像も典型的ではなかった.Crohn病の経過で典型的でない潰瘍がみられた症例で,潰瘍がほぼ同一の時期にあり,瘢痕帯がない点,回盲部の変形がない点などから結核と区別できる病変と思われた.

大腸Crohn病―非典型例の病理

著者: 渡辺英伸 ,   太田玉紀 ,   味岡洋一 ,   遠藤泰志

ページ範囲:P.447 - P.455

要旨 肉眼的病変を有する大腸Crohn病の外科切除41例(代表的病変数44個)を用いて,その肉眼的典型像・非典型像の診断について病理形態学的に検討した.縦走潰瘍型17病変,玉石敷石(+炎症性ポリポーシス)型19病変(うち,7病変の盲腸Crohn病はすべてこの肉眼型),炎症性ポリポーシス型3病変,不整潰瘍型5病変であった.非典型の不整潰瘍型は,いずれもその一部に縦走潰瘍を有していたことから,縦走潰瘍型の進行した型と考えられた.肉眼的に非典型大腸Crohn病と判断された病変-帯状粘膜萎縮像,潰瘍性大腸炎様像-は組織学的に検査すると,縦走潰瘍型や不整潰瘍型であった.肉眼的非典型像は内科的治療による肉眼像の修飾,感染性大腸炎の合併,虚血や腸管狭窄に伴う二次変化,粘膜下の裂溝が二次感染で迷路状の膿瘍を形成すること,などに起因していた.

主題症例

大腸結核との鑑別が問題となった大腸Crohn病の1例

著者: 髙田興 ,   平田一郎 ,   吉田隆 ,   江頭由太郎 ,   杉和憲 ,   野中親哉 ,   森川浩志 ,   高尾雄二郎 ,   吉村憲治 ,   吉積宗範 ,   中川憲 ,   大柴三郎 ,   川西賢秀

ページ範囲:P.457 - P.462

要旨 患者は66歳,女性.主訴は腹部膨満感と軟便である.前医でCrohn病と診断され治療を受けていた.当科受診時には既に緩解期となっていたが,萎縮した大腸粘膜からの生検で,Crohn病に特徴的な非乾酪性,萎縮性の肉芽腫が認められた.しかし注腸,内視鏡検査では,下行結腸から上行結腸にかけての腸管短縮と炎症性ポリープ,粘膜橋の多発,盲腸変形,回盲部狭窄などが認められ,活動期には一部輪状傾向を有する潰瘍もみられた.更にツベルクリン反応中等度陽性であったことも合わせ考えると,Crohn病よりは,むしろ大腸結核が疑われた.しかし,本症例の場合,前医での十分量のステロイド投与が著効を示したことから,最終的に大腸Crohn病と診断された.

多彩な全身症状を呈した大腸Crohn病の非定型例の1例

著者: 垂石正樹 ,   斉藤裕輔 ,   野村昌史 ,   榮浪克也 ,   小山内学 ,   綾部時芳 ,   蘆田知史 ,   横田欽一 ,   柴田好 ,   谷口雅人 ,   山田裕人 ,   佐藤剛利 ,   宮本光明 ,   並木正義

ページ範囲:P.463 - P.470

要旨 患者は23歳の女性.発熱,下腹部痛,下痢を主訴に入院.S状結腸から横行結腸まで縦走配列傾向を持った不整形潰瘍がみられ,生検で肉芽腫が証明されたため,Crohn病と診断した.経腸栄養療法で緩解が得られたが,約3か月後に発熱,関節痛,結節性紅斑を伴って再燃した.再燃時には潰瘍は一部癒合し縦走潰瘍となっていた.本症例は,初診時はCrohn病としては非定型的な画像所見であったが,潰瘍の分布,性状を詳細に検討することで診断が可能であった.また,Crohn病の病勢に一致して多彩な全身性合併症が出現した興味深い症例であった.

潰瘍性大腸炎との鑑別に難渋した長期経過Crohn病の1例

著者: 北野厚生 ,   押谷伸英 ,   松本誉之 ,   中村志郎 ,   小畠昭重 ,   大川清孝 ,   小林絢三

ページ範囲:P.471 - P.478

要旨 患者は27歳,男性(1983年来院).1980年に1日5行の下痢,腹痛を生じ,その後粘血便(痔出血も伴う)を来した.注腸X線ではS状結腸と下行結腸のびらん性変化を,直腸鏡では直腸部のびらんと易出血性変化を指摘され,潰瘍性大腸炎(UC)と診断された.今回(1983年)は1日10行の下痢,腹痛,発熱を主訴とし精査目的で入院した.入院当初の大腸画像診断では直腸から上行結腸まで連続性にびらん,浮腫性変化,潰瘍性病変を認め,この段階ではCrohn病(CD)と確診される特徴的所見に乏しかった.その後の長期経過における画像では横行結腸,上行結腸に狭窄,縦走潰瘍を主病変とする病変が出現すると共に回腸末端部にもCDにcompatibleな病変が出現した.発症時のdiffuseな病変はUCにcompatibleであったが,約10年間の長期経過と共にCDに特徴的な画像が出現した.

盲腸の限局性病変から全大腸に炎症が波及したCrohn病の1例

著者: 柴峠光成 ,   藤田欣也 ,   伊藤義幸 ,   菅田信之 ,   清水誠治 ,   多田正大 ,   川井啓市

ページ範囲:P.479 - P.483

要旨 盲腸の限局性病変で発見され,その数か月後に全大腸にびまん性にアフタ様病変が拡がる,興味ある経過を示したCrohn病(疑診)の1例を経験した.盲腸に発症したCrohn病の報告は数少ないが,同部位に限局し経過することが多く,外科的治療後の再発・再燃が少ないとされている.しかし,自験例は短期間のうちに全大腸にわたるアフタ様病変の進展・増悪を認めた点で,これまでの報告とは異なっていた.盲腸Crohn病も他部位Crohn病と同様,全大腸に炎症が拡大する可能性があることが明らかになった点で貴重な1例と思われた.

症例

範囲および深達度診断に苦慮したⅡc型早期胃癌の1例

著者: 田中信治 ,   日高徹 ,   春間賢 ,   島本丈裕 ,   吉原正治 ,   田利晶 ,   隅井浩治 ,   梶山梧朗 ,   西山正彦 ,   山下芳典 ,   嶋本文雄

ページ範囲:P.485 - P.490

要旨 患者は50歳,女性.1992年9月,心窩部不快感を主訴に来院.胃内視鏡検査で前庭部後壁のⅡc型早期胃癌と診断した.病理組織学的には最大径4.5cmの印環細胞癌で,深達度はsmであった.しかし,X線・内視鏡像ともにsmを示唆する所見に乏しく,また,病変の拡がりに関しても,mの部分で癌細胞が全層性の場所と,その周囲に既存の腺窩上皮と固有胃腺の間を疎に浸潤する場所がみられ,多彩な像を呈していた.本病変は印環細胞癌の浸潤様式を考えるうえで示唆に富む症例であり,画像診断と切除標本の対比の重要性が改めて認識された.

今月の症例

1.ルーチンX線検査で診断した微小な陥凹型早期大腸癌の1例

著者: 松永厚生 ,   望月福治 ,   安藤正夫

ページ範囲:P.378 - P.379

〔患者〕58歳,男性.現病歴:1991年に内視鏡的大腸ポリープ切除術を行い,1年後のfo1low-upの注腸X線検査で横行結腸に陥凹型病変像が得られた.内視鏡検査で,陥凹型病変と診断したものである.自覚症状は特にない.

〔大腸X線所見〕外来のルーチンX線検査で横行結腸に,周辺に辺縁のシャープさに欠ける淡い透亮像を伴うほぼ円形のバリウム斑を認める(Fig. 1a).大きさはバリウム斑部分が2mm,透亮像部分も含めると5mmである.ちなみに空気量は腸管が十分伸展される量であり,fine network patternが描出されている.Fig. 1bは精密X線像である.病変の同定のため内視鏡的にclippingを施行した.病変は周辺に透亮像を伴う星芒状の不整形のバリウム斑として描出された.空気量は過伸展にならない量で腸管が十分伸展された状態である.fine network patternは描出されていない.

2.0-Ⅱc(sm)型早期食道癌の1例

著者: 中野浩 ,   高濱和也

ページ範囲:P.380 - P.382

〔患者〕62歳,男性.胃潰瘍の経過観察時の内視鏡検査で中部食道に異常所見を発見された.入院時の身体所見,一般検査所見上,異常は認められなかった.

〔食道内視鏡所見〕食道ファイバースコープ像(Fig. 1)では,中部食道右壁に白色調の小顆粒の集まりと,その口側の発赤が認められる.そして,その部に軽度の弧の変形がみられる.

Coffee Break

「早期胃癌1993」の早期胃癌肉眼分類典型例をみて(4)

著者: 髙木國夫

ページ範囲:P.409 - P.410

 「早期胃癌1993」に提示された早期胃癌典型例に関して,前号まで3号にわたり,種々の問題点を指摘したが,今月は〔Case9~11〕について検討したい.

 〔Case 9〕Ⅲ型の貴重な症例であるが,癌の拡がりの記載が混乱している.固定標本の切り出し図の記載では,Ⅲの潰瘍の幽門側に癌があり,口側には潰瘍の前壁縁にのみ癌を認め,他の部位では癌はないとされているが,その下の割面像の組織所見で,大きな潰瘍の口側にわずかな癌の存在を矢印で示している.この癌の存在を切り出し図に示すことが最も重要なのである.この割面像が切り出し図のどこに当たるかをみると,割面像の潰瘍の大きさ2cm,潰瘍の口側縁から切除断端まで3cmであって,この関係の当てはまる切片は,切り出し図の潰瘍前壁縁の切片から4番目に相当し,おそらく,Ⅲの口側にはほぼ全周性に癌が認められるであろう.

用語の使い方・使われ方

拇指圧痕像(thumbprinting)

著者: 望月福治

ページ範囲:P.438 - P.438

 拇指圧痕像thumbprinting(Boley et al,1963)は,中等度の充満注腸X線像で,あたかも指で圧したような卵円形,または円形の丸味を帯びた隆起が連なるような像として見られる.Fig. 1は頻回の大量血便直後,無前処置のまま注腸造影を行った悪条件下の充満X線像で,典型像が描出されている.内視鏡で見ると凝血塊状が存在し,わずかに観察できる粘膜は浮腫状で潰瘍を伴っていた.二重造影像(Fig. 2)では空気量の多少で像が変わり,また,バリウムの溜まった条件のときに描出されやすい(Marston et al,1966).

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欧文目次

ページ範囲:P.377 - P.377

海外文献紹介「大腸腺腫の内視鏡的切除後のサーベイランス間隔」

著者: 小林世美

ページ範囲:P.399 - P.399

 Randomized comparison of surveillance intervals after colonoscopic removal of newly diagnosed adenomatous polyps: Winawer SJ, et al (N Engl J Med 328: 901-906, 1993)

 大腸腺腫のポリペクトミー後のサーベイランスが,その後の大腸癌コントロールに重要と考えられ,現在の実地臨床では,術後1年間隔で内視鏡検査を行うケースが多い.しかし,これは無作為対照試験で得られた結論ではない.

海外文献紹介「アスピリン使用と大腸癌,大腸ポリープ」

著者: 小野博美

ページ範囲:P.470 - P.470

 Aspirin use,cancer,and polyps of the large bowel: Suh O, et al (Cancer 72: 1171-1177, 1993)

 アスピリンおよび他のNSAIDsによる抗腫瘍効果が動物研究で報告されている.今回人間に対してアスピリンの抗腫瘍効果を検討した.

書評「遺伝子と日常の病気」

著者: 柴田昭

ページ範囲:P.400 - P.400

 この度,わが国を代表する遺伝学者,京都府立医大衛生学教室の阿部達生教授の手になる「遺伝子と日常の病気」が発刊された.遺伝子を抜きにして医学を語ることはもはや不可能となった今日,まことに時宜を得た出版と思う.

 書評に入る前に著者について一言触れなければならない.著者は現在,基礎医学の教授であるが,20年近く内科学教室で研鑽を積まれた.その臨床的実力のほどは188頁にあるメトヘモグロビン血症の症例発見のエピソードに端的に示されている.内科学教室で長い間,血液学-中でも細胞遺伝学(染色体の研究)に携わり,その後必然的に分子遺伝学に進まれ,現在は人類遺伝学に至るまで幅広い活動を続けておられる.その軌跡はハッキリとした1本の太い筋で貫かれている.場当たりの流行を追う研究者ではないのである.この背景を知ることは本書を読む際の大切なキーポイントになる.すなわち,著者は分子遺伝学を語りながら,絶えずその成果の臨床への還元,人類遺伝学への展開応用を意識しているのである.

書評「医の道を求めて―ウィリアム・オスラー博士の生涯に学ぶ」

著者: 岡安大仁

ページ範囲:P.478 - P.478

 十数年前になるが,内科誌「medicina」に毎月『オスラー伝』を連載しておられた日野原重明先生に,初めからスクラップにして保存しておけばよかったと申し上げたところ,先生はいずれ本にするつもりだからと言われた.その後,「平静の心-オスラー博士講演集」や復刻版としての「医学するこころ-オスラー博士の生涯」(岩波書店)は出されたが,あの10年間にわたり112回に及んだ『medicina』の先生の労作の完成本をこそ私は心待ちにしていたのである.このような想いは私ばかりではなかったと思う.

 さて,あの連載に多くを追加し,面目を一新した本書を手にして,私は改めてオスラーの偉大な業績とその人格の前に言葉を失った.また同時に,全身全霊をこめてオスラーに傾倒し,オスラーを現代に生かし尽くそうとなさる日野原先生の情熱と絶大なエネルギーと後輩達への奉仕の精神に言葉を失った.先生は冒頭に“日本の医学生と,医師,看護婦,そして医学に関心をもつ一般人にこの書を捧げる”と書いておられるが,オスラーの生涯を学ぶことこそ医の道を求めることだとの先生の生きた信念にほかならないと思うのである.

書評「初期プライマリケア研修―初期臨床研修の活用法と臨床的見識について」

著者: 松村理司

ページ範囲:P.484 - P.484

 この本の執筆者である4人の若手医師たちとは,実は少しばかり面識がある.昨年6月に東京で「新しい医師卒後研修への挑戦」というシンポジウムが開かれ,私もシンポジストの1人として参加した.その仕掛人が,“21世紀の医療をつくる若手医師の会”に集うこれら4人の若手医師たちだった.その数か月前にはそろって私に会いに京都まで来られ,熱っぽい会話を交したのも懐しい.かく言う私も,中年医師ながら,この会に入会してもう何年にもなる.

 そのシンポジウムでの日野原重明先生の特別講演は,ど迫力の連続だった.のっけから,“初期研修のほとんどが行われている大学病院には,良い臨床家を育てるという情熱が基本的にはない.”とぶちあげられたのだ.おかげで,前座のシンポジウムは吹っ飛んでしまった!(他の三人のシンポジストの先生方,ごめんなさい.)

「胃と腸」質問箱

著者: 大高雅彦 ,   藤野雅之

ページ範囲:P.483 - P.483

質問 診療行為が高度になるにつれて,用いる医学用語も複雑になり,それにつれて略語も頻繁に用いられます.ときにはその由来が興味深いこともあります.ところで“大腸内視鏡検査”の略語として,わが国では“CF”という言葉が普及していると思いますが,“CF”の語源は“colonofiberscopy”であると推察します.しかし“大腸内視鏡検査”の英訳は“colonoscopy”であり,はたして“CF”と呼ぶことは適切でしょうか.また,最近はファイバースコープを用いるより,電子内視鏡検査が普及してきていますが,その場合でも“CF”と呼ぶことは適切でしょうか,山梨医科大第1内科・藤野雅之教授にお教え願います.

編集後記

著者: 中野浩

ページ範囲:P.492 - P.492

 大腸Crohn病の中で縦走潰瘍や敷石像が診断時に認められない非定型例の頻度は15~32%であるが,そのうちの多くの例は見直し診断,また経過観察でCrohn病の診断がついている.その診断の拠り所はX線所見では縦の変化であり,内視鏡所見ではアフタ様病変の存在である.このような所見を捉えることは「胃と腸」流の詳細な診断法をもってすれば,そう難しいことではなく,このような症例,また,欧米で言われるindeterminate colitisの頻度はもっと減少するであろう.そして,このような例はCrohn病の発症初期,緩解期,治癒期,また,激しい増悪期に当たる症例に多く,改めてCrohn病の病像の多彩さを知る.

 本号をみると,診断をつける点から,また,病態を解明するうえで厳密な経過観察の重要性を痛感させられる.医師間の交流をはかり,お互いに経過観察の重要性を認識し,資料を整えるといった態度が必要であり,その裏には思いやりに基づく患者との信頼関係の確立が欠かせない.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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