内視鏡的にみた陥凹型早期胃癌の逆追跡
著者:
川井啓市
,
竹腰隆男
,
井田和徳
,
角谷仁
,
瀬尾功
,
赤坂裕三
,
森靖夫
,
永田富雄
,
小林義明
ページ範囲:P.1683 - P.1690
Ⅰ.はじめに
胃癌の唯一の治療法が早期発見と早期胃切除にある現在,早期胃癌といえども経過を観察する機会は極めて少ない.したがってこのような検討の対象は確診のつかぬままにやむを得ず経過を観察した症例と,他には少数例ではあるが遡及的に胃カメラフィルム又はX線フィルムを探し出し,あらためてこれらのフィルムを読みなおした逆追跡例の検討が含まれる.
そのため早期胃癌の経過としてとりあげられる対象は,はじめから一定の規準で観察検討されたものではなく,前にも報告したスキルスの逆追跡1)と同様いわば偶然観察された断面的な所見の組み合わせにすぎず,資料として不完全のそしりを招くことを銘記したい.
その他胃切除を拒否して経過を観察した僅かな症例も含まれているが,この場合切除の時期になお早期胃癌であった症例は少ない.
教室で経験した早期胃癌は昭和42年12月末迄に73例を数えているが,このうち6カ月以上経過の追求できている症例は12例である.その内訳は1年以内:3例,2年以内:3例,3年以内:2例,4年以内:3例,約8年:1例となっている.
これら症例を診断の過程からみると比較的短期間の観察症例は癌と診断しながら患者の都合で胃切除の時期が遅れたものであるのに対し,比較的長期間観察を行なっているものは初回良性と診断し,経過の途中で癌を疑い胃切除にふみきった症例が多い,
経過の観察できた12例を肉眼所見にしたがって型別に分けてみると(Fig. 1),1:1例,Ⅱa+Ⅱc:4例,Ⅱc:3例,Ⅲ+Ⅱc:2例,Ⅲ:2例となり,Ⅱa+Ⅱcを隆起に伴うⅡcと考えて陥凹型に含めれば1型1例を除きほとんどすべてが陥凹型といえる.この陥凹型11例のうち4例(Ⅲ:1例,Ⅲ+Ⅱc:1例,Ⅱa+Ⅱc:2例)は所見にほとんど変化をみていない.ことにⅡa+Ⅱcの1例は3年2カ月の経過にもかかわらずほとんど変化がみられない2).
検査密度,至適条件下でフィルム撮影がなされているかが問題になるが,長期間にもかかわらずほとんど発育をしていないかのようにみえる早期胃癌症例のあることは興味深い.長期間観察された早期胃癌症例のパネルディスカッション(第5回日本内視鏡学会:京都昭38)3)でも既にこのことは指摘され,他にも多くの報告がみられる4)が,注目に値しよう.
このような症例の存在が,また現在私たちの扱っている早期胃癌を進行癌の早期のものと位置づけせずに,別個の発育パターンを示す特殊の癌ではなかろうかと考えさせることにもなる.この問題についての詳細は別紙に記載するので割愛する5)8).
以下陥凹型早期胃癌の経過をⅡaの隆起に伴った陥凹(Ⅱa+Ⅱc)と,Ⅱc,Ⅱc+Ⅲ,Ⅲの経過にわけて,特に臨床的に興味のある問題をとりあげながら述べていきたい.