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文献詳細

雑誌文献

胃と腸3巻7号

1968年06月発行

今月の主題 胃癌の発生

綜説

極小早期胃癌よりみた人の胃癌の発生機転の周辺

著者: 村上忠重1

所属機関: 1順天堂大学医学部第一外科

ページ範囲:P.779 - P.785

文献概要

Ⅰ.緒言

 癌がどのようにして発生するか,という問題は次第に具体的に明らかになりつつある.一昨年の大阪の癌学会では,組織培養中の細胞に癌原物質を上手に接触させると,細胞を変性(恐らく悪性変性)させることができるという報告が行なわれた.ここまでくれば従来の意味における発癌の神秘も,もはや理論的には一段落ついたわけで,次には細胞の増殖のさいに問題になる遺伝という機転,良性の細胞がいかなる遺伝因子の変化によって,悪性の細胞になり,さらにその悪性の細胞の性質がいかにして次の悪性の細胞にうけつがれるかといった次元においての研究に移行することになる.この段階にくると発癌の問題はそれを専門に研究する人達によってのみ論ぜられるが,私どものように形態学の立場から考えるものにとっては,もはや自分の手で触れてみることが出来なくなる憾みが強い.

 しかし振り返って,私どもが日常悩まされたり恐れたりしているヒトの癌の発生機転が,今日全部明らかにされたかというと決してそうではない.診断学の進歩のおかげで,相当に早い時期の癌が人の肺や食道や胃や膀胱などで見つかるようになった.また動物における発癌実験の成功によって,皮膚癌や肝癌などの発生の段階も余程精緻に分るようになってきた.しかしそれは未だ十分に痒い所へ手が届くといった程ではない.組織培養の試験管の中で,癌原物質を与えたら何日目に細胞の性質が変るというように,何時どの細胞から癌細胞が初まったのだという時点や,場を指摘することはできないし,さらにはそこに発生している異型細胞が真の癌細胞なのか,それとも最初は未だそこまでは変性しきっていないで,揚合によっては普通の細胞に後戻りする可能性をもっているものなのか.またそのような異型細胞が生れてくる母なる細胞はどのような性質をもっているかなどの諸点になると,まだまだ決定的なことが言えない点の方が多いのである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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