スキルスの逆追跡による二,三の知見
著者:
川井啓市
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竹腰隆男
,
若林敏之
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角谷仁
,
瀬尾功
,
井田和徳
,
植松寿樹
,
高田洋
,
小林義明
ページ範囲:P.953 - P.964
Ⅰ.はじめに
スキルスの経過を述べるにあたりまず明らかにしておきたいことは,胃癌の経過を観察することはありえないことである.従ってこのような経過の観察は患者が手術を拒否したまま止むをえず経過を観察せざるをえなかった症例や,切除胃でスキルスと診断された症例について,遡って他医でのX線フィルムを積極的に探し出し,ふり返って検討をしたものおよび見落しの症例の検討である.従ってこのような症例は予め一定の経過期間で観察したものではなく,あくまで逆追跡による,したがって検討にたえる症例数も少なく,未だ結論できるほどの普遍的な内容に乏しいことを断っておきたい.まず私達の経験例を供覧し,二・三の問題点にふれてみたいと思うが,スキルスの経過で問題になるのはまず第1にそのX線診断または内視鏡診断の難かしさであり,第2にその臨床症状または各種検査所見の経過,第3にスキルスの発生に関する問題にまとめてみた.
ところで,本文で扱かうスキルスとは概括的に結合織性の変化が強く,びまん性発育をきたした癌と解釈して話を進めるが,ほぼ同義的に扱われるものにボールマンⅣ型癌またはLinitis plastica Carzinomatosaがある.主病巣がびまん性・浸潤性発育を示しておれば,一部潰瘍形成がみられたとしてもスキルスとして扱った.
以前私達はびまん性発育をきたした胃癌例で内視鏡検査を施行したところ,比較的短時日(約1週間)に腹水貯留をきたした数例を経験し,このようなボールマンⅣ型癌例での内視鏡検査では,過剰の空気挿入が胃漿膜側での癌細胞播種をきたす可能性のあることを報告した4).その後このような例での内視鏡検査例で同様の経過をとるものは少ないが,少なくとも経過中に比較的急速な進展を示す症例もあり,臨床的に若年者での頻度が高くかつ次第に本型に増加の徴をみることははなはだ重要な位置を示すものと考える(第1表).