今月の主題 大腸腺腫の診断と取り扱い
主題
5mm以下の大腸上皮性腫瘍の診断と取り扱い―病理(分子病理学を含む)からみて
著者:
松田圭二1
渡辺英伸1
味岡洋一1
小林正明1
佐々木正貴1
成澤林太郎2
人見次郎3
所属機関:
1新潟大学医学部第1病理
2新潟大学医学部第3内科
3新潟大学医学部第3解剖
ページ範囲:P.1551 - P.1564
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要旨 5mm以下の大腸癌の組織学的および肉眼的特徴を抽出し,その取り扱いを検討した.対照として,5<X<10mm大の癌を用いた.5mm以下の大腸上皮性腫瘍の2.6%(43/1,685)に癌がみられ,うち69.8%は腺腫内癌,30.2%はde novo癌であった.癌43個のうち,m癌は95.3%(対照群で76.6%),sm癌は4.7%(2個)であった.肉眼型別癌保有率は,IIa+IIc型で27.3%と最も高く,I型で5.9%,IIa型で2.1%であった,しかし,癌43個の分布はIIa型に26個と最も多く,次いでI型14個で,陥凹型(IIa+IIc型)はわずか3個であった.肉眼型別sm浸潤はIIa+IIc型にのみ認められ,その率は66.7%(2/3)であった.これに対し,対照群の肉眼型別癌保有率は,IIc型で100%(2/2),IIa+IIc型で26.7%(4/15),I型で16.5%(51/310),IIa型で12.6%(38/301)であった.5mm以下の癌43個では,低異型度癌が30個(69.8%),高異型度癌が4個(9.3%)で,両者の混在型が9個(20.9%)であった(対照群で,それぞれ47.3,21.1,31,6%).sm癌2個のうち,高異型度癌がm→sm浸潤したもの1個,低異型度癌がsm浸潤したもの1個であった.対照群のsm(以深)癌25個では,高異型度癌がm→sm浸潤15個,高・低異型度混在癌で高異型度癌のみがsm浸潤7個,両者がsm浸潤1個,低異型度癌がm→sm浸潤したものわずか2個(8%)であった.大腸癌のsm浸潤能は,病変の大きさや肉眼型または癌の発生母地にあまり関係なく,粘膜内での高異型度癌の存在と量に相関していた.そして,高異型度癌は低異型度癌に比べて,m癌(腺腫を除く)の面積が小さい時点でsmへ浸潤していた.5mm以下の癌(mとsm癌)ではly,v,nは陰性であった.しかし,対照群では小林らの分類によるsm3c,浸潤度の高異型度癌でのみly(+)21.7%,v(+)13.0%,n(+)15.4%であった.5mm以下の癌のp53蛋白過剰発現は高異型度癌で66.7%(8/12),低異型度癌で23.5%(8/34)であった(p=0.01).高異型度癌は粘膜内全層型発育を示し,肉眼的に陥凹を有する頻度が高かった.以上の結果から,術前に5mm以下の大腸癌が疑われる病変(陥凹や拡大内視鏡によるV型やIV型のpit patternを持つもの)の取り扱いは内視鏡的摘除で十分と考えられた.