今月の主題 微細表面構造からみた大腸腫瘍の診断
主題
大腸腫瘍の微細表面構造と組織像との比較―病理の立場から
著者:
佐野寧12
藤盛孝博1
市川一仁13
小野祐子1
冨田茂樹1
平林かおる1
瀧本壽郎1
上田善彦1
寺野彰2
酒井義浩3
柏木亮一4
田畑文平4
長廻紘5
所属機関:
1獨協医科大学第2病理
2獨協医科大学第2内科
3東邦大学医学部第3内科
4仁愛会田畑胃腸病院外科
5群馬県立がんセンター
ページ範囲:P.1327 - P.1340
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要旨 本稿は大腸腫瘍を微細観察し,その結果を診断に反映する意義を,病理の立場から組織像と対比し明らかにすることが目的である.大腸腫瘍の実体顕微鏡観察は広く行われているが,走査型電子顕微鏡による表面型大腸腫瘍の検討は少ない.われわれは大腸表面型腫瘍の表面構造を解析し,その特徴から溝型(S),中間型(I),微小管状密集型(H)の3型に分類した.分類には吉井の開発したAH法を用いた.この方法はホルマリン固定標本をアルシアンブルーとヘマトキシリンで染色し,水中下で実体顕微鏡観察する.病理組織学的検討ではⅠ型は異型度が低く,癌はS型かH型であった.H型癌は従来の隆起型癌とは異なる組織像を呈し,その腫瘍高が1.2mm以下で,正常粘膜高に等しいかそれ以下のものが多かった.このような点から,H型を呈する表面型癌はde novo型癌の候補病変と考えられた.一方,この数年の遺伝子工学の進歩に伴い,adenoma-carcinoma sequenceに関与している遺伝子異常の解析は進み,癌遺伝子,癌抑制遺伝子に関する機序が解明されつつあり,この解析結果が表面型癌の解析にも用いられつつある.現状ではH型癌はK-rasの点突然変異の発生率は低く,従来の腺腫起源癌とは異なる癌化機序が想定されている.このように,大腸腫瘍の微細表面構造は腫瘍の診断だけでなく,遺伝子異常との対比や発育進展にも活用可能な時代になり,決して特殊な所見ではなくなったと言える.また,追加的ではあるが小さなⅡa+depressionの発育進展についても走査型電子顕微鏡の観察結果から言及した.