遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)のサーベイランスとマネージメント
著者:
高見元敞
,
木村正治
,
高田俊明
,
辻仲利政
,
北田昌之
,
塚原康生
,
柴田高
,
室谷昌弘
,
新居延高宏
,
飯原啓介
,
塚本文音
,
小川稔
,
花田正人
,
藤本高義
,
下向博洋
,
大植雅之
,
富田尚裕
,
門田卓士
ページ範囲:P.851 - P.862
要旨 遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)は,常染色体優性遺伝形式をとり,若年発症,多発癌の発生などを特徴とすることから,発端者と同定された患者はもとより,その同胞,子供などに対する幅広いサーベイランスが必要となる.HNPCCはLynch syndrome ⅠとⅡに分けられる.前者は大腸内視鏡検査を中心としたサーベイランスの方法を工夫すればよいが,後者は家系内に発生する様々な癌の発見に留意する必要があり,その方法論を確立するのは容易ではない.また,サーベイランスには患者に対するマネージメントが深く関わっている.ここでは,日本におけるHNPCCの実態を踏まえて,実際の症例を呈示しながら,サーベイランスやマネージメントのあり方を検討し,問題点を明らかにしようと努めた.この中には,遺伝的なミスマッチ修復系の異常が存在していることが証明された症例も含まれる.最近,HNPCCの原因遺伝子が次々と発見され,その発症前診断にも利用されようとしている.遺伝子診断を臨床に応用するためには,まだ様々な問題を解決する必要があるが,近い将来,サーベイランスのあり方が大きく変化することが予想される.しかし,診断技術がいかに進歩したとしても,このような遺伝性の癌を扱う臨床医にとって最も大切なことは,癌患者すべてに対する家系調査を綿密に行うことである.そのうえで,ハイリスクグループ,特に若年発症の癌患者に対する長期間の追跡調査を組織的に行うことが必要であろう.