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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸32巻11号

1997年10月発行

雑誌目次

今月の主題 Is型大腸sm癌を考える 序説

Is型大腸sm癌を考える

著者: 西沢護

ページ範囲:P.1411 - P.1412

 早期胃癌の肉眼分類で画期的な成功をおさめたのに,大腸では胃の早期癌分類に追従していたのでは,なぜ納得できる分類ができないのか十分に考える必要がある.

 最も大きな理由は,発生・発育・進展の違いであろう.賢明な先人たちは,初期胃癌の概念を確立させ,それらがm,smからmpに至るまでの過程で,従来の進行癌の肉眼形態にない形を示すことを,いち早く察知したからである.

主題

Is型大腸癌とは―私はこう考える

著者: 渡辺英伸

ページ範囲:P.1413 - P.1416

1.Is大腸癌の問題点

 まず第1の問題は,Is型癌の肉眼的高さが研究者間で一致していない点である(高さは,移行粘膜を除いた正常部粘膜の表面から病変頂部までの高さを指す.粘膜ひだの上に癌がある場合,ひだ上の正常粘膜を用いる).すなわち,“Is型癌は3mmよりも高い病変”1),“1mmよりも高い病変”,“腫瘍の高さが腫瘍の横幅の1/2よりも高い病変”,“高さを規定せず,肉眼感覚で高い隆起性病変”,などと多様な意見がある2)

 更に,Is型癌とは,“肉眼的に無茎性である隆起型癌のうち,腫瘍部分の組織学的粘膜高が正常粘膜のそれの2倍よりも高い癌”との意見もある.粘膜筋板直上から正常粘膜表面までの高さは一般に手術例で0.4~0.6mm.したがって,粘膜筋板直上から垂直方向で測定した癌部分の粘膜高が1mmよりも高いとIs型とされている.腫瘍部分の粘膜高には,腫瘍が粘膜全層を占めている場合と非腫瘍組織が粘膜深層に残存している場合とがある.内視鏡的粘膜切除例では,しばしば正常粘膜が過伸展されて,背が低くなっている.

Is型大腸癌とは―私はこう考える―早期大腸癌の中でIs型が何故に問題となるのか?

著者: 中村恭一

ページ範囲:P.1417 - P.1420

形の分類の問題点

 1.形の分類の原則

 形を分類しようとする場合,その原則となることは相似則である.現在用いられている大腸癌の肉眼型分類はというと,まずはじめに癌の深達度smをもって早期癌0型と進行癌1~4型とに分類している.このようなことがあるために,同じ類に属する形ではあっても癌深達度が異なることによって別の呼び名が付けられている.例えば,隆起性の癌で1型とIs型とⅡa型,そして辺縁隆起を伴う陥凹性の癌で2型とⅡc+Ⅱa型は相似である.形の分類の原則に従うならば,1型とIs型とⅡa型,そして2型とⅡc+Ⅱa型は同じ形の類に属するものとしなければならない.すなわち,形の分類は癌の深達度とは無関係に相似をもってなさなければならない(Fig. 1).

 2.IsとⅡaの形態認識は

 無茎性隆起に対して,規約では正常粘膜の厚さの2倍以下の隆起をⅡa,そしてそれ以上の高まりをIsと定義している.病変が小さな場合には,おおよそにおいてIsとⅡaとを区別することができる.しかし,大きな隆起性病変の場合,一般的にその高さは正常粘膜の2倍以上あり,定義に従うならばIsとしなければならないのであるが,大型のⅡaとしている場合が多い.すなわち,病変の高さに対して相対的に病変が大きいので全体的に見た形は小さなⅡaと相似であると認識しているのである.ここにおいては,形の分類の中でIsに限って高さという量をもって定義していることに問題があるのである,形の分類であるからには高さという量をもって定義してはならず,大きさとは無関係に相似をもって定義しなければならないのである.

Is型大腸癌とは―私はこう考える―Is型大腸癌の病理学的問題点

著者: 下田忠和 ,   白須達也

ページ範囲:P.1421 - P.1422

 肉眼的に大腸癌の多くは隆起型で発見される頻度が高い.その中でも無茎隆起性病変(Is)は表面隆起型(Ⅱa)との鑑別が問題となるが,この両者は隆起の高さの違いで区別されている.合意された高さの基準はないが,一般的には周囲粘膜からの高さが2ないし3mm以上のものがIsとされる傾向がある.今回本稿ではこの高さが3mm以上をIsとして検討した.Isで最も重要な問題は,肉眼的にポリープ病変からその粘膜表面に軽度びらんあるいは潰瘍化した隆起性病変まで多彩な像を示し,更に組織学的には主として粘膜内に増殖した腫瘍から粘膜下層に高度浸潤した癌までが含まれていることである(Fig. 1a, b,2a, b)1).これらの点が考慮されずに,無茎性隆起すべてがIsとされているために,臨床治療の面から混乱を来している.そこでIsとしてくくられている病変の病理学的問題点を明らかにして,治療に直結した形態診断を行う必要性が生じてきた.

 肉眼診断の基本は最も特徴的な形態像をもって行うことであるが,しかしその中で深達度診断をも考慮することが大事である.当院でIs型とされた病変はsm大腸早期癌の273例中76例(27.8%)にみられた.これらを癌の粘膜内増殖を主体として隆起成分を形成したpolypoid growth type(PG)と癌の粘膜内増殖とは別な要因で隆起成分を形成したnon-polypoid growth type(NPG)2)に分けると,PGが47病変(61.8%),NPGが29病変(38.2%)であった.このPG,NPG分類は先にも述べたように,組織学的に粘膜内病変の腫瘍増殖態度によってなされたものではあるが,各々肉眼的に特徴像がある.PG型腫瘍は癌の粘膜下層への浸潤の有無にかかわらず,隆起の立ち上がりにくびれを有し,その表面構造は分葉状あるいはそれが一部で融合を示すのが最も大きな特徴である(Table1).それは腫瘍が粘膜内で不規則に隆起性増殖するためで(Fig. 1a, b),癌の異形度が高くなるに従って,その分葉の融合傾向がみられる.分葉構造の消失傾向はsm2,sm3でより多くみられる(Table2).これに対し,NPG-sm癌では隆起の辺縁は正常粘膜で覆われ,なだらかな隆起を形成し,かつ表面構造は失われ,平滑あるいは無構造で,分葉構造は全くみられない(Table1).またsm浸潤度が高くなるにつれ,粘膜破壊を来し,sm癌部分が表面に露出し,潰瘍・びらんの形成または不整な結節性変化の出現がみられる(Fig. 2a, b).すなわち同じIsでもNPG‐typeではその隆起は癌の粘膜下層に浸潤した結果であり,PG-typeのIsとは基本的に異なっている.sm浸潤癌はリンパ節転移が約12%に認められているが3),なかでもNPG-typeでは癌の浸潤量が多いsm2,sm3の頻度が高く,また脈管侵襲の頻度も高く4),リンパ節転移の危険性も高い.またNPG-Isは高度のsm浸潤を来しているにもかかわらず,PG-Isよりは小さい病変(平均径13mm)4)であることも特徴である.同じIsとしてくくられている病変は粘膜内病変を主体としたPG-typeとsm浸潤によって隆起を来したNPG-typeに分類することが可能であり,この両者を十分に鑑別して判定することが臨床的にも重要である.すなわちIs(PG-type)とIs(NPG-type)を分類することがIsの深達度診断にも有用である.

Is型大腸sm癌の成り立ち―無茎性隆起(Is型,Ⅱa型,Ⅱa+Ⅱc型)の大腸sm癌のX線学的特徴

著者: 飯沼元 ,   牛尾恭輔 ,   石川勉 ,   宮川国久 ,   内山菜智子 ,   吉江浩一郎 ,   井手口尚生 ,   横田敏弘 ,   白須達也 ,   落合淳 ,   下田忠和

ページ範囲:P.1423 - P.1436

要旨 無茎性隆起(Is型,Ⅱa型,Ⅱa+Ⅱc型)の大腸sm癌のX線学的特徴を明らかにするため,X線学的に評価可能であった大腸sm癌214病変を対象に,そのX線像と病理組織所見との比較検討を行った.隆起性の病変は195病変(91.1%)あり,これを山田らの隆起分類に従い,中心陥凹の有無にかかわらず隆起I型から隆起Ⅳ型に分類し,更に隆起の表面性状から分葉状(L型)と結節状(N型)に分類した.またpolypoid growth(PG)type,non-polypoid growth(NPG)typeによる検討も行った.隆起Ⅱ型は105病変(49.1%)と半数近くを占め,そのうちN型の比率は62%と,隆起Ⅲ型の31%,隆起Ⅳ型の24%と比較し高かった.更に隆起Ⅱ型においてL型とN型を比較したところ,L型はsm1が35.0%,sm3は12.5%であったのに対し,N型,凹凸明瞭にはsm1はなく,sm3が56.3%と半数以上を占めた.リンパ管侵襲はそれぞれ17.5%,26.2%,静脈侵襲は12.5%,21.5%,リンパ節転移は6.7%,17.9%とN型のほうが高かった.次に隆起Ⅱ型におけるNPGtypeの比率は55%で,隆起Ⅲ型,隆起Ⅳ型と比較し高い割合で,特に隆起Ⅱ型をL型とN型に分類した場合,N型の72%がNPGtypeであった.X線像が隆起Ⅱ型を示す病変で表面が結節状のものは,sm2以上の浸潤癌であり,脈管侵襲,リンパ節転移の頻度も高いので,治療方針を決定する場合,注意を要すると考えられた.また分葉状と結節状に分類することで,X線像から表面型起源とされるNPGtypeの病変を推定することが可能と考えられた.

Is型大腸sm癌の成り立ち―X線の立場から

著者: 小林広幸 ,   渕上忠彦 ,   岩下明徳 ,   中西護 ,   山本一郎 ,   堺勇二 ,   竹村聡 ,   菊池陽介 ,   永江隆 ,   長村俊志 ,   石川伸久 ,   中島穣 ,   吉永英希 ,   宮本竜一

ページ範囲:P.1437 - P.1450

要旨 無茎性早期大腸癌231病変を対象とし,Is型とⅡa型の分類の定義を行いその妥当性について検討した.まず,手術例68病変(m:12,sm:56)について検討を行い,由来肉眼型を考慮に入れ病理学的扁平率(病変の高さ/最大径)20%を超えるものはIs型,20%以下はⅡa型と定義した.この定義は,sm2までは由来肉眼型とよく相関した.この扁平率は,X線扁平率(側面像による高さ/正面像による最大径)とも極めてよく相関し臨床的に応用可能であった.この判定基準を用い無茎性早期大腸癌231病変をIsとⅡaに分類し,臨床病理学的な相違を比較した.病変の内訳は,Is183病変(m:104,sm:79),Ⅱa48病変(m:21,sm:27)であった.ⅡaはIsに比し小さくかつsm高度浸潤例が多く,悪性度が高い病変と考えられた.陥凹を伴う病変は,Ⅱaではm癌からみられたが,Isではすべてsm2以深の浸潤癌であった.また,浸潤度による腺腫成分の有無の比較から,Isは主にadenoma-carcinoma sequenceの発育を,Ⅱaはde novo cancerの発育進展をする可能性が示唆された.以上のように,定義によるIs型とⅡa型を浸潤度別に比較検討してみると,両者には臨床病理学的な相違がみられ,無茎性隆起型癌は発育・進展を考慮する意味でX線で計測可能な扁平率20%で分類する意義は十分にあると考えられた.

Is型sm癌の成り立ち―内視鏡の立場から―特にpit patternによる発育形態分類の有用性の検討を中心に

著者: 鶴田修 ,   河野弘志 ,   藤田三丈 ,   辻雄一郎 ,   宮崎士郎 ,   富安信夫 ,   山脇眞 ,   重松聡江 ,   立石秀夫 ,   中原慶太 ,   藤崎一浩 ,   池田英雄 ,   豊永純 ,   谷川久一 ,   前川隆一郎 ,   井手耕一 ,   長田英輔 ,   森松稔

ページ範囲:P.1451 - P.1459

要旨 Is型大腸sm癌51病変の発育形態を実体顕微鏡的な病変辺縁部腫瘍性pitの有無によりpolypoid growth(PG)とnon-polypoid growth(NPG)に分け,まず発育形態とsm浸潤度との関係について検討し,更に発育形態別にsm浸潤度と関係する組織学的因子の検討を行い,以下の結果を得た.NPGに関しては①Is型のNPGということだけで,まずsm2,sm3のsm massive癌であり,②病変表層部desmoplastic reaction(DR)の存在はsm浸潤度と相関し,③sm2,sm3間の病変の大きさに有意差を認めた.PGに関しては浸潤度と関係のある組織学的因子は指摘できなかった.臨床的にはpit patternによるPG,NPG分類や大きさの測定は通常内視鏡でも可能であり,病変表層部DRの有無は拡大内視鏡下のVA pitの存在により判定可能になってくるものと思われた.

Is型大腸sm癌の成り立ち―内視鏡の立場から―Is型亜分類の提案

著者: 工藤進英 ,   小松泰介 ,   山野泰穂 ,   今井靖 ,   井手口尚生 ,   中嶋孝司 ,   日下尚志 ,   大里雅之 ,   金井俊和 ,   黒田浩平 ,   前川修司 ,   中里勝

ページ範囲:P.1461 - P.1472

要旨 大腸Is型sm癌95病変を通常内視鏡所見,色素内視鏡所見,pit pattern所見,病理組織学的所見について検討した結果,Is型sm癌は明確に2群に分類された.すなわち隆起性に発育する腫瘍全体に腺腫病変に特徴的なⅢL・Ⅳ型pitを有し,明らかな陥凹局面を持たない群〔陥凹局面(-)群:61病変,75.3%〕と,病変内に陥凹局面を有し,I型pitと局面を有する陥凹部のV型pitでのみ構成され,ⅢL・Ⅳ型pitを認めない群〔陥凹局面(+)群:20病変,24.7%〕であった.陥凹局面(+)群は平均腫瘍径において陥凹局面(-)群よりも有意に小さく,ほとんどが腫瘍径10mm台の病変であったが,すべてsm1.以深に高度浸潤していた.この病変群はpit patternおよび組織学的特徴から表面陥凹型腫瘍由来と考えられ,早期のうちに粘膜筋板を破った腫瘍組織が粘膜下層を主座として増殖し,結果として病変全体が隆起を呈したものと考えられた.こうした病変は最初から隆起性発育を示す陥凹局面(-)群とは発生・発育進展様式が全く異なり,両者を鑑別することが適切な治療の選択に際して重要であると考えられた.

Is型大腸sm癌の成り立ち―病理の立場から

著者: 加藤洋 ,   中山剛之 ,   柳澤昭夫 ,   小泉浩一 ,   太田博俊

ページ範囲:P.1473 - P.1478

要旨 進行大腸癌の直前先行病変として注目されているIs型大腸sm癌10例〔内視鏡的摘除(endoscopic resection;ER)6例,手術4例〕をreviewし,Is型sm癌の成り立ちを考察した.これら症例はすべて最大径10mm以上であり,ER例の大きさは10~20mm(平均13mm)であるのに対し,手術例は20~30mm(平均24mm)であった.癌の組織型は,ほとんどが明らかな腺癌(超高分化癌ではない)で,深達度はsm13例,sm26例,sm31例であり,手術例に深い例が多かった.また,下田・池田らのpolypoid growth(PG)は,10例中9例にみられた.腺腫成分は5例(すべてER例)のみにみられたが,陰性の5例中4例はよりサイズの大きい手術例であった.したがって腺腫成分は腫瘍の増大に伴い消失するものと思われた.以上の結果から,Is型大腸sm癌は,その多くがPG由来,腺腫由来であり,non-PG由来,de novo carcinomaはあってもまれと考えられた.

Is型大腸sm癌の成り立ち―腺管構築の病理組織学的解析から

著者: 大倉康男

ページ範囲:P.1479 - P.1488

要旨 Is型大腸sm癌にはその隆起の成り立ちが組織学的に異なるものが混在していることから,組織学的に癌粘膜内進展部分と粘膜下組織浸潤部分を形態分析した.更に,腫瘍の成り立ちを示すと考えられる粘膜部分を高さで分類し,病理組織学的特徴を解析するとともに,その成り立ちについて考察した.粘膜部と浸潤部の組織学的対比では,ほとんどの症例が浸潤部の異型度が粘膜部より高いものの基本的には同じ形態を示した.更に,粘膜部の高さで分けて検討すると,管状腺管を主体とした表面型大腸癌が浸潤して形成されたと推測される組織学的表面型(F型)Is型sm癌と,絨毛状腺管を主体として粘膜部が隆起した組織学的隆起型(P型)Is型sm癌に大別された.病理組織学的特徴は,(1)F型は小さい病変,深達度の深い病変の割合が多く,P型は大きな病変,深達度の浅い病変の割合が多い,(2)F型は深達度が深くなるにつれて中分化が主体となるものが多いが,P型は全体に高分化の割合が高い.また,粘膜部ではF型は大きくなるにつれて高分化の割合が少なくなるのに対して,P型はすべて高分化が主体である,(3)F型には管状腺管が主体の病変が多いのに対して,P型は絨毛状腺管の割合が多い,(4)浸潤部ではF型は高異型細胞から成るが,P型では低異型細胞が混在する割合が高い,(5)F型に粘膜部分が崩れやすい傾向が強く,P型は粘膜の残存傾向が強い,(6)F型はほとんど腺腫部分がなく,P型は約60%に腺腫部分が認められた,(7)脈管侵襲は深達度との関係が深かったが,脈管侵襲に関係すると考えられる小癌胞巣はF型に約半数と多く出現した,である.組織学的にはIs型sm癌の約60%が表面型大腸癌由来と考えられ,Is型sm癌を含めた大腸癌の発育進展過程の検討には,腫瘍の組織構築からみた解析が必要と言えた.

Is型大腸sm癌の治療―内科の立場から―内視鏡治療の適応を中心に

著者: 斉藤裕輔 ,   渡二郎 ,   藤城貴教 ,   谷口雅人 ,   野村昌史 ,   栄浪克也 ,   垂石正樹 ,   綾部時芳 ,   蘆田知史 ,   太田智之 ,   折居裕 ,   横田欽一 ,   小原剛 ,   高後裕

ページ範囲:P.1489 - P.1501

要旨 早期大腸癌の中でIs型早期大腸癌の治療上の重要性を明らかにし,併せて深部浸潤したIs型早期大腸癌のX線,内視鏡における特徴を明らかにすることを目的とした.1990年1月から1996年12月までに旭川医科大学第3内科および旭川厚生病院消化器科で診断,治療した早期大腸癌695病変中,Is型早期大腸癌135病変を対象とした.Is型早期大腸癌の深達度別の治療法の内訳について検討した.また,sm深部浸潤例に特徴的に出現する注腸X線,大腸内視鏡所見について病理組織との対比から検討した.その結果,(1)Is型早期大腸癌のsm浸潤率は42.2%(57/135)で,他の隆起型早期癌と比較して有意に高率であり(p<0.005),深部浸潤例も多かった.(2)sm深部浸潤例に対して内視鏡治療が先行された19病変中,Is型は9病変(47.4%)と多く,その大きさの平均は12.6mmと小さかった.(3)深部浸潤したIs型sm癌の注腸X線検査,内視鏡検査の特徴は,①表面にびらんを有する,②緊満感を有する,③立ち上がりが正常粘膜である,④側面像で弧状変形を認める(注腸X線検査)の4項目であった.結論として,大きさ10mm前後のIs型早期癌のうち,特に,注腸X線,大腸内視鏡検査で隆起表面にびらんを認める病変では深部浸潤例も多く,内視鏡治療の適応決定は慎重に行うべきである.

Is型大腸sm癌の治療―外科の立場から

著者: 高橋慶一 ,   森武生 ,   安野正道 ,   加藤裕昭 ,   猪狩亨 ,   滝澤登一郎 ,   小池盛雄

ページ範囲:P.1503 - P.1510

要旨 外科的切除を受けた大腸sm癌208例中Is型は99例(47.6%)を占め,最も多かった.初回治療時腸管切除例は83例,内視鏡的摘除後腸管追加切除例は13例で,他の肉眼型よりも内視鏡的摘除が選択されやすい傾向にあった.われわれの分類では,sm1は脈管侵襲の有無にかかわらず全例n0で,sm1は内視鏡的にしろ,外科的にしろ局所切除で十分であると考えられた.腫瘍径が小さくてもsm2,sm3の症例は,組織型が高分化腺癌だけよりも高分化腺癌に他の組織型の混在した混在型が多く,リンパ節転移の頻度も有意に高く,術前診断でSM'2以深が疑われる症例は,腫瘍径から安易に内視鏡的摘除をすべきでなく,初回からD2郭清の腸管切除を施行すべきである.

Is型大腸sm癌のリンパ節転移危険因子に関する病理形態学的検索

著者: 岩下明徳 ,   山田豊 ,   尾石樹泰 ,   大重要人 ,   溝口幹朗 ,   小林広幸 ,   山本一郎 ,   渕上忠彦 ,   八尾恒良

ページ範囲:P.1511 - P.1520

要旨 外科切除Is型大腸sm癌78例79病変について,リンパ節転移危険因子

を中心に病理形態学的立場から検討した.転移率は全癌10.1%,sm1癌5.9%,sm2癌10%,sm3癌119%と深達度別のそれに有意差はなかった.高分化腺癌8.5%よりも中分化腺癌28.6%で高い傾向がみられ,加えて転移陽性癌全8病変の発育先進部に低分化癌部を認めた.リンパ管侵襲程度に比例してly0.0%,ly118.8%,ly2.50%と増加し,lyoと後2者問には有意差が確認された.簇出群19.4%と非簇出群2.4%では前者に有意に高率であった.細胞増殖能Ki-67L.I.および癌抑制遺伝子産物p53,血管内皮増殖因子VEGF,増殖因子受容体蛋白c-erbB-2の発現は転移癌と非転移癌間に差はなかった.以上の結果から,リンパ管侵襲,簇出,組織型特に発育先進部の低分化像の3つが重要な危険因子であることを指摘し,局所切除の絶対的適応となるIs型癌はly0の癌と結論した.

症例からみた読影と診断の基礎

【Case 13】

著者: 半田豊 ,   川口実 ,   斉藤利彦

ページ範囲:P.1522 - P.1525

〔患者〕53歳,男性.主訴:なし(検診胃X線検査で異常を指摘).

【Case 14】

著者: 風見明 ,   小泉浩一 ,   甲斐俊吉 ,   武本憲重 ,   山尾剛一 ,   宇良敬 ,   竹腰隆男 ,   丸山雅一 ,   柳澤昭夫 ,   加藤洋

ページ範囲:P.1526 - P.1530

〔患者〕82歳,男性.便潜血反応陽性.既往歴として,63歳・2型進行食道癌,78歳・口腔底癌,80歳・2型進行大腸癌(S状結腸)の各摘除術が施行されている.

リフレッシュ講座 小腸X線検査・2

読影のポイント

著者: 青柳邦彦 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.1531 - P.1536

はじめに

 上部消化管や大腸と異なり,小腸の病変は内視鏡的観察や生検による組織学的診断が容易ではない.したがって,臨床診断におけるX線検査の重要性は大きく,質的診断に迫る読影が必要である.そこで,本稿では小腸X線検査の読影のポイントについて,筆者らの経験例を基に述べたい.

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欧文目次

ページ範囲:P.1409 - P.1409

書評「標準分子医化学」

著者: 山下哲

ページ範囲:P.1460 - P.1460

 序文によれば,本書の企画は20年前にさかのぼるという.その意味で本書はまさに編者のライフワークである.20年もかけて一冊の教科書を作るにはよほどの意志がないとできないと思われるが,編者の藤田教授は若いとき,クエン酸回路,尿素サイクルの発見で有名なHans Krebsの研究室で勉強して,生化学の基礎を築いた巨人と直接接する機会を持ったことや,Albert Lehningerがあの有名な教科書「Biochemistry」を執筆していたときにポストドクだったことなどが影響しているのではないかと推察する.

 本書は本文だけでも優に900頁を超え,図,表合わせて約1,000枚の大著である.

書評「今日の診断指針 第4版」

著者: 多賀須幸男

ページ範囲:P.1502 - P.1502

 編集責任者をすべて入れ替え,若い医師を執筆者に選び,項目も再検討して5年ぶりに全面改訂された「今日の診断指針」第4版の書評を依頼された.広辞苑にほぼ匹敵するボリュームを持つこの大著を手に取って,その姉妹編である「今日の治療指針」の編集に携わる一人として,充実した内容に大げさではなく驚嘆した.膨大な内容を紹介するのは容易でないが,診療しながらいろいろの頁を開いて得た印象を率直に書いてみる.

 全科の病気を対象とするこの種の書物は内科系疾患に偏りがちであるが,本書は前からそのほかの領域に多くの紙数を割いてきた.第4版ではそれがいっそう進んで,整形外科,皮膚科,眼科,耳鼻咽喉科,産婦人科などの疾患について,それぞれの専門学会の診断基準や分類まで踏み込んで記載している.様々な病気の相談を受け,あらゆる科から診療情報書を頂く開業医にとって誠にありがたい.総合病院の研修医や医師には学際的知識が更に必要なはずで,どの診療の場でも一度備えると手放せなくなるに違いない.

書評「NIM内分泌・代謝病学 第4版」

著者: 斎藤宣彦

ページ範囲:P.1521 - P.1521

 最近の内分泌学や代謝病学は,そのコアとなる知識の大部分を分子生物学関係の知見が占めている.そのため,このコアの部分における新たな知見の集積は,周辺の学問に多大な影響を与え,飛躍的な進歩をもたらしている.

 20世紀もあと10年というあたりから,この進歩の速度が急加速したように思う.後世の人々は世紀末の大進歩の時代などと呼ぶのかもしれない.それはあたかも,ジャンボ機の離陸のときのように,あのばかでかい銀色の物体が神を恐れる気配など微塵も見せずに,想像をはるかに越えた速度と角度で急上昇していくのにも似ている.そして,油断していると,上昇速度について行けずに振り落とされそうな気持ちにさえなる.評者は,今,この領域の進歩に遅れまいと,新知見という風圧を受けながら,歯をくいしばって尾翼の尻尾のほうにどうにかこうにかしがみついている状態である.

書評「早期胃癌X線診断―撮影法と読影の実践ノート ポイント100」

著者: 新野稔

ページ範囲:P.1537 - P.1537

 「胃と腸」1997年8月号(第32巻9号)に掲載された筆者執筆の書評が,編集担当者により無断で書き直され,加筆修正され,原文にない表現も付け加えられ,筆者の校閲・校正を経ないままで印刷出版となってしまった.しかも,その加筆修正し,書き直した部分が筆者の当初の執筆意図とは反するような表現に変えられ,筆者の文章でなくなり,著者の浜田勉先生に多大なご迷惑がかかる表現であることを,掲載誌を受領して初めて知った次第である。出版社に厳重に抗議するとともに,以下に改めて筆者の書評を掲載する.

 順天堂大学の故白壁彦夫教授の最後の高弟であり,わが国を代表する消化器診断学の泰斗の一人である浜田勉博士の227頁の本書は,自らの貴重な体験の結晶として,最新の成果を踏まえ,X線診断技術を見直し,X線診断の一連の思考過程を教授され,基本的なX線診断技術が身につく,大変充実した内容の著書であることにまず驚かされた,

編集後記

著者: 工藤進英

ページ範囲:P.1540 - P.1540

 従来からIs型の大腸癌に対しては,多くの考え方があり,Ⅱaとの区別を含めて各人によりそれぞれ定義が異なるという状況であった.そもそも内視鏡像は虚像である.特に樽型歪曲収差のある電子スコープではそれが著しい.そのことの十分な把握なくして,内視鏡像だけでIs,Ⅱaを語ることは難しい.本号は,それらの矛盾点を十分に踏まえ,本格的にIsそのものを取り上げた特集号である.それぞれの筆者の考え方とevidenceを十分に楽しまれてほしい.

 早期胃癌のそれを“模倣”した早期大腸癌の現在の肉眼形態分類は,多分に矛盾点があり,それをいかに整理し,正しく修正を加えていくかという点が,今日の内視鏡医を中心とした形態診断学を行う者の責務であろう.超音波内視鏡やpit pattern診断などが行える拡大内視鏡など,先進的な内視鏡が開発され,日常臨床でそれらが,十分に活用される時代である.しかし一方では,Is型そのものの形態の成り立ち,および発育進展が十分に解明されているわけではない.それでも,この数年で更に新しい知見が続々と出されており,隆起型や表面型の腫瘍の解析が成されている.polyp-cancer sequenceをたどるもの(mountain route)と表面陥凹型を起点とするde novo cancerのroute(direct route)の2つはIs型でオーバーラップし,全く異なった形態が,類似しているがためにIs型という1つの形態名で呼称されることになるという分類学上の矛盾である.しかし,診断学の進歩は,それを十分に鑑別できるまで前進したのである.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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