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文献詳細

雑誌文献

胃と腸33巻12号

1998年11月発行

文献概要

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書評「上部消化管X線診断ブレイクスルー」

著者: 牛尾恭輔1

所属機関: 1国立病院九州がんセンター

ページ範囲:P.1618 - P.1618

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 本書は疾患の典型例をただ並べた教科書ではない.実際の診療の場でどのように所見をとらえ,どのように解釈し,どのように具体的に診断していくかを示す,いわば道しるべであり,そこに他書と違った価値がある.すなわち,大学病院で実際に医学生や研修医に消化管のX線診断について,教育し指導してきた齋田幸久博士の経験が,必要にせまられてこの単行本にしたものである.その間の事情は著者の「序」の文章に満ち溢れている.“これは何?”→“胃癌ですか”→“じゃあ,なぜ癌なのか?”→“沈黙”.この繰り返しから,著者の齋田先生は次のように考える.“これはたとえ病名や所見の知識はあっても,実際の診断の場で形態学としての画像診断の基礎的なトレーニングが欠けているためである.画像から診断する術を知らず,疾患名が示されたあとで画像を見ることに慣れすぎているのである”と.更に“実際の臨床の場で診断が既に確定している場合には,画像は単なるお飾りにしかすぎない.画像診断を独立して行い,内視鏡所見や組織学的診断との厳密な比較検討によって最終診断を確定して,その後の治療方針を決定するのが本来あるべき姿である”と再確認する.この序の文章には,本書を書くことを思い立った動機と精神が凝縮されており,この精神で書かれたこの単行本の価値が現れている.

 この本は実用書として書かれたものである.それは胃のX線診断の基礎である「胃の立位充盈像の診断」,「二重造影その他の造影像」,「癌の診断学」が中心の章となり,「立位充盈像の読影の実際」と「症例」の章で,胃癌,良性腫瘍,潰瘍性病変,悪性リンパ腫,ポリポーシス,カルチノイドなど20症例が,適時に順序よく配置されていることからわかる.それも各症例のX線写真で,“設問→所見→解説→診断→ポイント”の順でまとめられている.また必要な場合には,「NOTE」欄が設けられている.しかも,原理を理論とわかりやすい“たとえ”の言葉とわかりやすいシェーマを使って説いているから,理解しやすい.重要なところを,蛍光ペンで塗っていったところ,いつの間にかこの本は色だらけになった.これはそれだけ価値があり,重要なことに溢れた本であることを示している.

 私と齋田博士は,国立がんセンター放射線診断部で市川平三郎先生(国立がんセンター名誉病院長)を始めとする諸先輩のもとで,消化管の検査とともに多くのカンファレンスに出席した.齋田先生は消化管癌の術前・術後検討会,切除標本の切り出し会,胃ミクロデモで,常に平静で明晰な頭脳と理論にたった発言をされていた.それは長い間,消化管以外の多くの臓器で,画像診断と教育,指導に携わってこられたためであり,知識が豊富なことに感心したものであった.当時,九州からの研修医が多く,理論よりも感覚で,客観的よりも主観的になりがちなカンファレンスの中で,齋田博士は貴重な存在であった.また,がん中心になりがちな検討会で,がんと間違われやすい炎症性病変などのフィルムを持参し,放射線診断部グループのティーチングファイルとして重要な画像を提供してくれた.今回の本にはこのように,消化管の画像診断を愛着し続けた.また長い間教育者として後輩の指導に従事されてきた齋田幸久博士の思い入れが,随所ににじみ出ている.胃の画像診断に従事している,またこれから従事しようとしている研修医やレジデントの先生方には,必読の本である.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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