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文献詳細

雑誌文献

胃と腸33巻5号

1998年04月発行

文献概要

今月の主題 大腸疾患の診断に注腸X線検査は必要か 主題

大腸疾患の診断に注腸X線検査は必要か―私はこう考える

著者: 渕上忠彦1

所属機関: 1松山赤十字病院消化器科

ページ範囲:P.786 - P.786

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 内視鏡検査全盛の時代である.果たして,X線検査は内視鏡検査に凌駕され駆逐されるのであろうか.老健法による大腸がん検診マニュアル1)では,採用されるべき精密検査は理想として全大腸内視鏡検査であり,全大腸内視鏡検査を要精検者すべてに施行することが困難な場合でも,S状結腸までは内視鏡で検査を行うべきである,としている.その理由として,癌の発生部位が直腸・S状結腸に集中し,その部位は注腸X線検査では往々にして腸管同士が重なり合ったり,複雑な屈曲のために盲点となる部位が存在すること,などを挙げている.この記載は一面事実ではあるが,往々とは許容し難い程度のものなのか内視鏡との比較はない.また,X線検査の問題点として指摘すべき最大の要点は診断精度であるとし,3症例のX線写真が提示されている.その写真では圧迫を加えたり,体位を変えたり,造影剤を排除したりしたら病変が描出されており,部位によっては病変の示現が困難なことが多く細心な撮影が要求される,と記載されている.しかし,X線検査でもこれらの点に留意して撮影すれば病変の見逃しが減りますよとは言えても,X線検査の精度が悪いとする理由にはならない.これらの留意点は,X線検査に真剣に取り組んでいる医師にとっては最低限の常識である2).そして,大腸がん検診の精検方法として内視鏡検査が至適方法であることは診断精度の点から異論のないところである,と続き,現時点ではすべての精検対象者に内視鏡検査を施行するだけの処理能力を有する地域は少なく,注腸X線検査との併用状態が当分続くことになろう,とし,経過措置として注腸X線検査を採用した,とある.X線の欠点と内視鏡の利点は随所に出てくるが,X線と内視鏡の診断精度を比較した記述はどこにも出てこない.筆者らは,このマニュアルに触発されX線検査はそれほどまでに診断学的価値を失ったのかを検証してみた.その結果は,X線と内視鏡における大腸癌の拾い上げ診断能に差はなく3),またX線で描出不可能とされていた平坦・陥凹型大腸腫瘍も高率に描出できるとの成績4)を示した。このマニュアルは,今から消化管診断学を始めようという若い医師,また学生にX線はだめで内視鏡が良いとの先入観を植え付けることは間違いない.X線検査は施設により精度に差があることは確かだろうと思うが,内視鏡検査も同じである.マニュアルにも熟練内視鏡医の養成は一朝一夕には不可能で,計画的人員配置が必要であろうと記載されている.私はX線が良いと言っているわけではない.少なくとも,X線検査の経過措置を外し,全大腸内視鏡検査と並列に扱うべきと言っているのである.それができないのであれば,老健法による大腸がん検診が施行され6年も経過するので,全国集計でもして大腸がんの精検では内視鏡がX線に優るとの客観的な成績を示してほしい.日本の消化管の形態診断学は,X線検査と内視鏡検査が車の両輪のごとく切磋琢磨しあって進歩し世界に冠たるものとなった.その一方を客観的な事実を示さず,はやり病にとり憑かれたごとく感覚的に切り捨てたことは許し難い.熟練内視鏡医の養成も必要であるが,熟練X線医の養成も必要である.両検査法を並列に扱うことによって精検処理能力の問題も一挙に解決がつく.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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