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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸33巻7号

1998年06月発行

雑誌目次

今月の主題 食道癌 序説

m3・sm1食道表在癌

著者: 𠮷田操

ページ範囲:P.945 - P.948

はじめに

 食道表在癌とは,癌の浸潤が粘膜下層までにとどまるものを言う1)が,症例数の増加とともに,その研究は目覚ましく変化した.なかでも表在癌を粘膜癌(以下m癌)と粘膜下層癌(以下sm癌)の2群に区別して考える必要が生じたことはよく知られている.その理由は,m癌とsm癌とが病理組織学的に異なった特徴を持っていることに起因するが,この特徴を利用した治療の成立が,臨床面でも両者の鑑別を正確にすることを要求している.m癌にはリンパ節転移がまれで,治療に際して局所の根治性だけを問題にすればよいのに対して,sm癌は平均40%前後の頻度でリンパ節転移を伴うため,局所とともに転移リンパ節を考慮した治療法が必要であるからである2).その後m癌の一部にもリンパ節転移が存在することが判明し,その実態を解明する必要が生じた3)4).このために,表在癌の深達度を亜分類してm癌を上皮内癌(m1癌),粘膜固有層癌(m2癌)ならびに粘膜筋層に浸潤した癌(m3癌)に細分類し,同時にsm癌の浸潤が表層1/3にとどまるもの(sm1癌),中1/3までにとどまるもの(sm2癌)そして深層1/3に到達したもの(sm3癌)に分けて研究が行われた5).この結果,m癌のうちでリンパ節転移を有するものは深達度がm3のものであり,その頻度はm3癌の約10%程度であることが判明し,同時にsm癌の中にも深達度によりリンパ節転移頻度に差があることもわかり,sm1 15%,sm2 40%,sm3 50%程度であると報告された6)~8).折しも内視鏡的粘膜切除法の確立があり,m3・sm1癌の診断や取り扱いに注目が集まるようになったのである.

主題

m3・sm1食道癌のX線診断

著者: 八巻悟郎 ,   大倉康男 ,   長浜隆司 ,   幸田隆彦 ,   松本悟 ,   大浦通久 ,   志賀俊明 ,   野本一夫

ページ範囲:P.949 - P.960

要旨 外科切除されたm3の6例とsm1の2例について,精密X線像,術後像,そして,組織学的所見を対比しX線学的深達度診断を検討した.切除標本の検討から,①粘膜面の凹凸や厚みがみられその部で浸潤している例と,②病変のごく一部で粘膜面の凹凸や厚みを伴わずにpin pointに浸潤した例があり,各々4例ずつあった.1群4例のX線診断をみると,正診2例,m3をm2と診断したのが1例,sm1をsm3と診断したのが1例あった.これらの例では粘膜面の凹凸や厚みが主として辺縁像の不整として描出されたので,浸潤している部位は同定できたが,その判断に問題があった.一方,2群4例のX線診断をみると,その浸潤部位が同定できず全例浅く診断していた.以上から,この領域のX線学的深達度診断を確立するためには,今後とも詳細な組織像とX線像を対比した症例の蓄積が必要である.

m3・sm1食道癌の内視鏡診断

著者: 星原芳雄 ,   山本敬 ,   橋本光代 ,   山本信彦 ,   田中達朗 ,   菅原和彦 ,   桜沢俊秋 ,   速水陽子 ,   石川茂正 ,   宇田川晴司 ,   遠藤雄三 ,   鶴丸昌彦

ページ範囲:P.961 - P.968

要旨 m3の陥凹面の検討では平坦なものから顆粒状のものまで均等にみられたが,平坦なものはすべて深い病変であった.細顆粒状の陥凹を示すものでは3例中2例が浅い陥凹であり,m2との鑑別が困難であった.顆粒状の凹凸を示すものはm1・m2にはほとんどみられず,したがって,sm癌との鑑別が問題となるが,m3では結節状の凹凸を伴うものは少なく,sm2やsm3より浅い陥凹であった.sm1では陥凹内部に細顆粒状ないし顆粒状の凹凸を伴う.周囲粘膜をより明瞭に押し上げるように発育し,0-Ⅰsepの所見を呈することもあるが,その丈は決して高くなく,ある程度高いものはsm2であり,sm3は更に高く結節状となる.隆起性のm3・sm1が少なく今回は十分な検討ができなかった.全体に顆粒状の凹凸を示す0-Ⅱaはsm1であった.高さが2mmを超える0-Ⅰ型は白色の強い亜有茎性の隆起でm3であった.

m3・sm1食道癌の内視鏡超音波診断

著者: 河野辰幸 ,   永井鑑 ,   井上晴洋 ,   矢野謙一 ,   長浜雄志 ,   出江洋介 ,   中村正徳 ,   奈良智之 ,   吉野邦英 ,   岩井武尚 ,   竹下公矢

ページ範囲:P.969 - P.974

要旨 食道表在癌の内視鏡超音波診断には高周波数細径プローブが適しており,内視鏡観察に引き続き微細な超音波断層所見の評価が可能である.20MHz細径プローブを使用した場合,食道壁は9層構造をとることが多いが,従来型超音波内視鏡による5層構造に対応させて考えることができる.臨床的に良い画像を得るために工夫は必要であるものの,検査自体難しい手技ではない.粘膜筋板に由来する超音波層を判読することが臨床診断の基盤となる.これにより,粘膜癌と粘膜下層癌の鑑別をはじめ,腫瘍の壁内伸展状況など,詳細な超音波断層診断が可能で,m3・sm1病変の精密診断にも応用できる.しかし,微小浸潤やリンパ組織増生の診断には問題が残されている.

m3・sm1食道癌の病理

著者: 大倉康男 ,   中島寛隆 ,   八巻悟郎

ページ範囲:P.975 - P.984

要旨 m3癌18例,sm1癌7例の計25例について病理組織学的検索を行い,深達度診断ならびにEMRの適応について検討した.肉眼所見はm3-3より深い病変では小結節,癌巣の厚みが認められ,sm1癌ではびらん・発赤による広範囲の粘膜表面の粗ぞうさが目立った.sm1癌はm3の領域が広く深達度が比較的推定しやすいものであったが,m3癌は肉眼所見に乏しく,浸潤度の浅いものにはm2癌との判別の難しい病変が少なくなかった.組織学的には,m3癌は深達度m1およびm2の浅い部分が多くを占めて最深部の領域は狭く,最深部が粘膜筋板に深く浸潤するものも少なく,病変内で混在する癌巣の厚みの違いもわずかなものであった.m3・sm1癌はいずれも最深部分の占める割合は少なく,それらの深達度診断は最深部の深達度に基づいた肉眼像のとらえ方ではなく,深達度亜分類別の肉眼所見とその拡がりを十分に把握したうえで行わなければならないと言えた.更に,20mm以下の比較的小さな癌あるいは50mm以上の表層拡大型癌は診断が難しく,腫瘍径を考慮した診断学も必要である.一方,EMRの適応はリンパ管侵襲の有無からはm2までを絶対適応としているが,リンパ節転移の可能性からm3までを相対適応とした.しかし,症例数が少なく,今後の検討が必要と思われた.

m3・sm1食道扁平上皮癌の病理

著者: 渡辺英伸 ,   小向慎太郎 ,   味岡洋一 ,   西倉健 ,   橋立英樹 ,   鬼島宏

ページ範囲:P.985 - P.992

要旨 食道扁平上皮癌のうちm3癌16例とsm1癌17例を用いて,どのような病理形態学的特徴を持つm3・sm1癌がEMR治療の対象となりうるか(外科的追加切除が不要か)を検討した.m3癌はリンパ節転移陰性であったが,2例でly(+)/v(+)がみられた.これらはすべて粘膜筋板に浸潤した癌であった.現在のm3癌は粘膜筋板に接するm3癌と粘膜筋板に浸潤したmm癌とに区別する必要があろう.相対値で表現されるsm1癌はEMR治療が完全か否かの判定に有用ではない.実測値のsm浸潤長がO.20mm以下で,ly(-)/v(-)のsm癌のみがEMR治療完治例と判定されうることが示唆された.

m3・sm1食道癌に対するEMRの可能性

著者: 幕内博康 ,   島田英雄 ,   千野修 ,   田仲曜 ,   西隆之 ,   大芝玄 ,   姫野信治 ,   釼持孝弘 ,   木勢佳史 ,   町村貴郎 ,   貞廣荘太郎 ,   近藤泰理

ページ範囲:P.993 - P.1002

要旨 m3・sm1食道癌は10~15%程度のリンパ節転移率を有する.逆にみれば85%の症例にはリンパ節転移は認められず,内視鏡的粘膜切除術(EMR)の適応となるものも多いと考えられる.われわれの施設では101例のm3・sm1食道癌のうち55例(54.5%)にEMRを適応している.m3・sm1食道癌のEMRの適応から除かれるのは,①0Ⅱc+Ⅱa型,0-Ⅲ型,加えて0-Ⅰ型,②その他の病型のうち,長径5cm以上のもの,全周性のもの.この群に全体の31.7%の症例が含まれ,リンパ節転移を有する例の72.7%が含まれる.残りの症例にEMRを施行し,①ly(+)のもの,②infγのもの,③低分化型のもの,に引き続き外科的切除術を適応する.これで,全体の50.5%が外科的切除術で,49.5%がEMRで治療され,リンパ節転移に関するspecificityは100%となる.

外科の立場からみたm3・sm1食道癌

著者: 藤田博正 ,   末吉晋 ,   山名秀明 ,   白水和雄 ,   原田寛 ,   伴茂樹 ,   豊永純 ,   田渕絵美 ,   城誠也 ,   早渕尚文

ページ範囲:P.1003 - P.1010

要旨 m3・sm1食道癌の臨床像を検討し,外科的立場から治療方針を提案した.m3・sm1食道癌はEMRと放射線治療によって局所再発を認めなかった.m3食道癌はリンパ節転移・脈管侵襲はまれであるが(8%,8%),sm1食道癌はそれらの頻度が高率であった(36%,50%).現状ではリンパ節転移の画像診断が必ずしも完全でないため,食道表在癌に対し診断と治療を兼ねてEMRを行い,脈管侵襲を伴わないm3食道癌にはEMRと必要に応じて放射線治療の追加を,脈管侵襲を伴うm3食道癌やsm1食道癌にはリンパ節郭清(3領域郭清)を伴う食道切除術が第1選択として推奨される.

座談会

m3・sm1食道癌をめぐって

著者: 神津照雄 ,   細井董三 ,   門馬久美子 ,   柳澤昭夫 ,   安藤暢敏 ,   𠮷田操

ページ範囲:P.1012 - P.1028

 𠮷田(司会) 本日はお忙しいところをお集まりいただきまして,ありがとうございます.今日は,早期癌と進行癌の中間の領域であるm3・sm1の食道癌についての知見を整理し,それを踏まえて,この領域の診断と治療の方向性を見い出したいと考えております.どうぞ,活発なご意見の交換をお願いいたします.

 この病変はどの施設でもそう多くはありませんでしたが,だんだん症例が蓄積されてきました.それぞれの経験を踏まえて,どういう特徴がある病気であろうか,それをどう今まで扱ってきたのか,その成績はどうか,ということからまずうかがいたいと思います.神津先生,口火を切ってくださいますか.

早期胃癌研究会症例

回盲弁上の単発小潰瘍から典型像への自然経過を観察できた大腸結核の1例

著者: 伊藤文一 ,   岡村正造 ,   大橋信治 ,   三竹正弘 ,   浦野文博 ,   下平雅哉 ,   金森信一 ,   竹田欽一 ,   内藤岳人 ,   瀬川昂生 ,   前田松喜

ページ範囲:P.1043 - P.1049

要旨 患者は38歳,男性.約2年前から下痢気味であったが鮮血便が出現し来院.大腸X線・内視鏡検査で回盲弁に約1cm大の不整陥凹を認め,生検で類上皮性肉芽腫を認めたが確定診断に至らず,経過観察となった.8か月後には主病変に変化はなかったが,回盲弁対側に新たに浅い陥凹性病変を認めた.1年10か月後には,回盲弁上の潰瘍は腸の横軸方向に進展し,白苔が明瞭化した.回盲弁対側の潰瘍も増大し,深さも増した.3年9か月後には,回盲弁上の潰瘍は不整地図状となり,対側の潰瘍と連なって輪状に狭窄していた.生検で再度肉芽腫を確認でき,腸結核と診断.6か月間の抗結核剤3剤併用療法により潰瘍は瘢痕化し,肉芽腫も消失した.

0-Ⅱa様の形態を呈し著明なkoilocytosisを伴った食道dysplasiaに隣接して微小0-Ⅱcを認めた1例

著者: 曽根康博 ,   中野哲 ,   武田功 ,   熊田卓 ,   桐山勢生 ,   宮田章弘 ,   林和彦 ,   岩下寿秀 ,   安藤千秋 ,   鈴木雅雄 ,   下川邦泰 ,   出口富美子

ページ範囲:P.1050 - P.1054

要旨 患者は51歳,男性.人間ドックで食道病変を指摘され来院.X線検査でIm下部に分葉状の平坦隆起を認めた.内視鏡検査で上切歯列から36cmに白色調の扁平隆起とその口側に接し微小発赤を認め,トルイジンブルー染色で隆起表面は亀甲様に染まり,ヨード染色で隆起は淡染,口側の発赤は不染を呈した.隆起部の生検診断はdysplasiaであった.内視鏡的粘膜切除術を施行.隆起は10×7mmで核周囲に空泡を伴う細胞が出現しkoilocytosisの所見を呈していた.同部はdysplasiaと診断しヒトパピローマウイルスとの関連を考えた.隆起の口側に隣接し2mmの陥凹があり内視鏡での微小発赤と一致した.同部は0-Ⅱc,扁平上皮癌,m1と診断した.

悪性化した直腸深在性嚢胞性大腸炎の1例

著者: 喜安佳人 ,   古谷敬三 ,   前田智治

ページ範囲:P.1055 - P.1059

要旨 悪性化を示した深在性嚢胞性大腸炎症例を報告した.患者は36歳,男性で主訴は肛門からの腫瘤脱出.6年前に直腸ポリープの生検で粘膜層内の線維筋症から直腸粘膜脱の診断.4か月前から主訴があり当科を受診,直腸診で肛門から3cmの前壁に表面平滑弾性硬で,注腸造影でほぼ球形の,内視鏡では粘膜表面には異常のない,CTでは嚢腫状の腫瘤を認めた.1996年2月19日経肛門的腫瘤切除施行し,病理検査では粘膜上皮には異型性はなく線維筋症が認められ,粘膜下層内の嚢腫部分に高分化腺癌の所見が認められた.本例は直腸粘膜脱症候群が6年の経過で直腸深在性嚢胞性大腸炎の所見を呈しながら悪性化したまれな症例と思われ,非常に興味深い.

今月の症例

胃底腺領域にみられた未分化型Ⅱc癌の1例

著者: 太田智之 ,   折居裕 ,   村上雅則 ,   里悌子

ページ範囲:P.942 - P.944

〔患者〕64歳,女性.症状はなかったが当院人間ドックにおいて施行した上部消化管X線検査で,異常を指摘され,当科精査入院となった.

〔胃X線所見〕腹臥位二重造影では胃体中部前壁に径3cmの皺襞集中を伴う陥凹性病変を認める.集中する皺襞の先端には明らかな蚕食像を認め,先端に腫大や癒合は認めない.陥凹面に凹凸はなく,内部には不揃いな顆粒が散在し,未分化型Ⅱcの所見である(Fig. 1,2).X線の所見から病変は蚕食像に囲まれた範囲で,深達度mと診断できる.

症例からみた読影と診断の基礎

【Case 28】

著者: 真武弘明 ,   松井敏幸 ,   八尾恒良 ,   尾石樹泰 ,   岩下明徳

ページ範囲:P.1029 - P.1031

〔患者〕28歳,男性.1990年9月近医で検診目的の胃透視を受け,異常を指摘され当院紹介となった.

【Case 29】

著者: 松田彰郎 ,   西俣嘉人 ,   大井秀久 ,   新原亨 ,   仁王辰幸 ,   島岡俊治 ,   田代光太郎 ,   西俣寛人

ページ範囲:P.1033 - P.1037

〔患者〕64歳,女性.主訴:下痢.基礎疾患:慢性関節リウマチ.

Discussion

「胃癌の診断にX線検査は不要か―私はこう考える」(33巻4号:657)に対して

著者: 板野聡 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.1011 - P.1011

 本誌33巻4号に掲載されました西元寺克禮先生の「胃癌の診断にX線検査は不要か-私はこう考える」に対し質問させていただきます.西元寺克禮先生は,最後のところで“内視鏡のみでは見落される可能性があるものにスキルス胃癌がある.”とされて,症例をご提示されています.スキルス胃癌の診断については,内視鏡検査には弱点があり(生検に頼りすぎるとよけいに),むしろX線診断(特に立位充満像が有用)のほうが内視鏡で診断されるより早く,的確に診断されることがあることはよく経験することで,そのとおりだと思います.“生検”で癌細胞が陰性であるからと言って,いたずらに経過観察とされ,治療(手術)の時期を失することさえ経験しています.この問題は,“生検の功罪”として話題となっていることですので,議論の余地はないと思います.今回主題の論文の中にもありましたが,内視鏡の氾濫,ひいては“生検神話”が肉眼診断のレベルダウンやX線検査,あるいはX線診断の弱体化を来した原因ではないかとも考えられます.

 そこで,以上のことを踏まえて,西元寺克禮先生が御提示された症例を見たとき,次の疑問がわいてきます.

学会印象記

第6回日本消化器関連学会週間(DDW-Japan 1998)―胃に関するテーマを中心に

著者: 浜田勉

ページ範囲:P.1032 - P.1032

 1998年春のDDWが4月15日から18日の4日間,パシフィコ横浜で行われた.今回の学会は日本膵臓学会,日本消化器病学会,日本肝臓学会,日本胆道学会の全面参加と日本消化吸収学会,日本消化器外科学会,日本大腸肛門病学会の部分参加という形で行われた.昨年の4月のDDWからすると日本集団検診学会が抜けた形となる.今回は都合により17日,18日の2日間だけの学会参加となったので実際に聴けた範囲でその印象を記してみる.

 上部消化管について報告する.シンポジウムやパネルディスカッションまたはワークショップで,胃が直接関係したものは3つしかみられなかった.昨年は7つ以上あったのに比べると,少し寂しい印象を受けた(そう言えば最近,早期胃癌研究会の胃症例数も少ない!).

第6回日本消化器関連学会週間(DDW-Japan 1998)―大腸に関するテーマを中心に

著者: 安藤正夫

ページ範囲:P.1042 - P.1042

 学会第3日と第4日の下部消化管腫瘍の分野を中心に参加した.最近,会場であるパシフィコ横浜にもようやく慣れ,各会場間の移動もなんとかスムーズにできるようになった.まず,全体を通しての印象を率直に述べると,5~6年前に比べ,演題の質は確実に向上していると感じた.特に,若い会員における大腸内視鏡検査,および治療の普及が,全体を底上げする形となって現れており頼もしく感じられた.一方,閉口させられたことは,発表時間を無視した演者が少なくないことである.どんなに内容が優秀であっても,制限時間という基本的ルールを守らなければ発表の価値は半減し,会場からの共感は得られないであろう.総合討論が設けられている場合はなおさらである.また,数値や表の羅列に終始する口演発表にも疑問が感じられる.聴衆に“So what?”とつぶやかれては,せっかくのリサーチが徒労に終わってしまう.参加者に自分の主張を理解してもらうのがプレゼンテーションだと思うのだが…….その意味では,シンポジウムのディスカッションにおける演者の発言の消極性にも物足りなさを感じた.以下,参加したセクションごとに印象を記してみたい.

 シンポジウム8「大腸sm癌深達度の細分類とその臨床的意義」:各施設問での細分類法が不統一な現状において,避けては通れない重要な課題と思う.筆者の記憶が正しければ,大きな学会のテーマとして取り上げられたのは,今回が初めてであり,興味深く拝聴した.主として以下の4点について討論されたと覚えている。①相対分類と絶対値分類,②絶対値分類における具体的浸潤距離(量),③リンパ節転移やly因子との関係,④術前画像診断②,③,④に関しては,既に報告されていることもあり,大きな違和感は覚えずに聞けた.しかし,①において,演者のほとんどが相対分類でいいと答えたのには正直言って驚いた.筆者にとっては,にわかに受け入れ難いものであった.隆起型における浸潤程度判定上の問題や,更には標本の作製方法による影響などについての指摘もあった.今回は臨床医のみの演者であったが,病理医を含めた今後の更なる検討・討論を望みたいものである.

第6回日本消化器関連学会週間(DDW-Japan 1998)―食道に関するテーマを中心に

著者: 𠮷田操

ページ範囲:P.1060 - P.1060

 満開の桜花を散らせた強風雨もあがり,気温も少し下がり快適なパシフィコ横浜にDDWを迎えた.消化器病関連の学会が集まるのを見ると,毎年のことながらこの領域の研究の広さと深さを実感する.1人ですべてを見聞することは不可能で,食道疾患に関係するものだけを見て回ることが精いっぱいであった.目を見張るような変化はないものの,着実な進歩を見ることができたように思えた.シンポジウム3「消化管における多発癌及び重複癌の基礎と臨床」(司会:浜松医大2外・馬場正三先生,帝京大市原病院3内・中村孝司先生)が大変興味深かった.食道,胃,大腸の各分野を取り上げていた.

 食道癌に関連して印象深い発表をいくつか紹介する.金本彰先生(国立がんセンター中央病院内科)は食道の表在癌359例を分析し報告した.多くは扁平上皮癌であるが,その28%に多発病巣がみられた.男性,なかでも喫煙者に多かった.重複癌は35~51%と高頻度に認め,咽頭癌の合併が目立っていた.粘膜癌に対する内視鏡治療が盛んになった現在,注目に値する発表である.上堂文也先生(大阪成人病センター3内)は,頭頸部癌症例における上部消化管の重複癌について検討して報告した.頭頸部癌手術例111症例を検討し,10.8%に上部消化管の同時性重複癌を認めている.なかでも食道癌の占める割合が高く比較的早期の状態で発見されていた.食道に次いで頻度の高いものは胃癌であった.頭頸部癌における重複癌のスクリーニングの重要性が改めて認識された.清水勇一先生(恵佑会札幌病院内科)は,食道表在癌233症例の分析結果を述べた.他臓器重複癌は26.2%にあり,他癌の先行するもの19に対して同時性31であった.他臓器癌既往症例や他臓器担癌症例は食道癌のリスクファクターであることを明らかにした.他臓器癌既往症例や他臓器担癌症例240例に食道癌のスクリーニングを行い,2.5%の頻度で食道癌を発見,しかも粘膜癌が大部分を占め,内視鏡治療が可能であったと述べた.多数の食道表在癌が臨床の場に登場する現在,いずれも示唆に富む良い発表であった.

早期胃癌研究会

1998年2月の例会から

著者: 西俣寛人 ,   中野浩

ページ範囲:P.1038 - P.1039

 1998年2月の早期胃癌研究会は2月18日(水),東商ホールで行われた.司会は西俣寛人(南風病院)と中野(藤田保健衛生大学医学部内科)が担当した.ミニレクチャーは小池(駒込病院病理)が「AIDSの消化管病変」を解説した.病変の裸の形がみられ大変印象的であった.

〔第1例〕69歳,男性.中部食道の0-Ⅲ型食道癌(症例提供:国立東静病院外科 立山健一郎).

1998年3月の例会から

著者: 松川正明 ,   岡崎幸紀

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 1998年3月の早期胃癌研究会は,3月18日(水),イイノホールにおいて,松川正明(昭和大学豊洲病院消化器科)と岡崎幸紀(周東総合病院内科)の司会で行われた.ミニレクチャーは「EMR時代におけるレーザー治療の意義」として川口実(東京医科大学第4内科)が行った.

〔第1例〕53歳,男性.横行結腸2.5cmの陥凹腺腫(症例提供:秋田赤十字病院胃腸センター 中里勝).

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欧文目次

ページ範囲:P.941 - P.941

編集後記

著者: 大倉康男

ページ範囲:P.1062 - P.1062

 本号ではm3・sm1食道癌の深達度診断と治療方針が主として検討されている.

 m3・sm1食道癌の深達度診断が早期食道癌の中でも難しいことは多くの研究者が指摘していることである.筆者の検討ではsm1と比べてm3の診断が難しい結果であった.臨床診断には八巻,星原,河野らの主題論文が参考になるが,いずれも症例数が少ないこともあり,診断の難しい領域が残されたと感じざるを得ない.門馬が述べているような部位別の深達度診断が確立されていくべきであり,そのためには組織学的検索による肉眼標本の再構築,それとの臨床所見の十分な対比という「胃と腸」誌の原点に基づいた解析が不可欠である.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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