主題症例
アフタ様潰瘍から10年以上経過観察したCrohn病の3例
著者:
中野浩
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長坂光夫
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松浦良徳
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岩田正己
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水田知佐
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三沢美帆
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伊東逸朗
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斉藤知規
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外間政希
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宇野浩之
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野村知抄
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神谷雅人
,
保原怜子
,
西井雅俊
,
高濱和也
,
渡邊真
ページ範囲:P.1277 - P.1286
要旨 アフタ様潰瘍で発症し10年以上経過をみた3症例について注腸X線所見の推移を中心に報告した.〔症例1〕は16歳,男性.発熱を主訴に来院,初診時の注腸X線像では結腸全域にアフタ様潰瘍がみられた.このアフタ様潰瘍は1年5か月後の注腸X線像では消失していたが,2年後に再びアフタ様潰瘍で再発した。そして,3年5か月後には縦走潰瘍とcobblestone像のみられる進展例に移行した.5年後,15年後の注腸X線像では腸管は短縮し,狭細化・変形もみられ,また,粘膜は萎縮性となったが,依然として粘膜面にはアフタ様潰瘍の所見が認められた.〔症例2〕は52歳,女性.発熱,下痢で入院.初回の注腸X線像では全結腸に細かいアフタ様潰瘍を認めた.3か月後,このアフタ様潰瘍は消失したが,1年後の注腸X線像では再びアフタ様潰瘍が出現した.そして,2年1か月後には縦走潰瘍のみられる進展例となった.その後,栄養療法を確実に行ったところ自覚症状は消退し,10年8か月後,そして,15年後の注腸X線像でも潰瘍は瘢痕化し,粘膜面にもアフタ様潰瘍はみられず治癒像を示していた.〔症例3〕は51歳,女性.発熱,下痢で発症.初回の注腸X線像では結腸全域にアフタ様潰瘍が認められた.このアフタ様潰瘍は消長を繰り返し,10年後の注腸X線像でも萎縮性の粘膜面に認められた.また,初回の小腸X線像に認められたアフタ様潰瘍は4年6か月後の小腸X線像では短い縦走潰瘍に,9年後には典型的な縦走潰瘍とcobblestone像が認められるようになった.これらの症例の初回検査時にみられたアフタ様潰瘍は,いったん消失したが,その後また,アフタ様潰瘍として再発,次いで進展例に移行した.2例では長期経過後もアフタ様潰瘍は萎縮性の大腸粘膜に存在した.これらの観察から,アフタ様潰瘍はCrohn病の初期病変であると同時に基本的な所見であると考えられた.