10年8か月の長期経過が追跡できた0-Ⅱc型Barrett食道腺癌(深達度m3)の1例
著者:
鈴木雅雄
,
小川博
,
家本陽一
,
綿引元
,
河合隆
,
百々修司
,
山本英明
,
竹内鉄郎
,
樋口哲也
,
江川泰人
,
白石勉
,
日置弥之
,
近藤真弘
,
都宮伸
,
木村恵利子
,
神谷明江
,
北川哲司
,
荻野和功
,
長田裕
ページ範囲:P.199 - P.205
要旨 患者は,66歳,男性.1986年10月(55歳時),糖尿病での上部消化管スクリーニング検査で,Barrett食道と胃穹窿部の粘膜下腫瘍が発見された.経過観察中に胃病変は増大し,中央陥凹を形成したため,1988年11月28日(57歳時),悪性リンパ腫を疑い,胃全摘術,ρ型空腸間置術を施行した.大きさ2.2×1.6cm,粘膜下層に限局した粘膜下腫瘤様の悪性リンパ腫であり,リンパ節病変はなかった.術後に逆流症状が続くため,経時的に内視鏡検査が行われた.初回手術での吻合部の食道側にクサビ状にBarrett上皮が3か所遺残していることが,術前内視鏡像との対比で確認できた.1997年4月22日の内視鏡検査時の生検で中分化型腺癌が得られ,1997年7月9日,胸部中下部食道切除術が行われた.吻合部口側左壁の2.4×1.0cm,0-Ⅱc型Barrett食道癌,中分化型腺癌,深達度m3,ly1,v1であった.病巣部は他の2か所のBarrett上皮部と比べ,1991年4月でくすんだ発赤調であり,1994年6月には辺縁にニボー差がみられ,内部に小顆粒状変化をみている.1996年8月では軽度の辺縁隆起を持つ不整発赤陥凹像と認識できる.同時に行った生検組織所見も腺癌と同定できるものであった.本症例は粘膜筋板までの浸潤にとどまっていたBarrett食道腺癌の10年8か月に及ぶ自然経過が内視鏡的に逆追跡できた点で興味ある症例と思われる.