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文献詳細

雑誌文献

胃と腸34巻7号

1999年06月発行

文献概要

今月の主題 AIDSとATLの消化管病変 序説

AIDSとATLの消化管病変の編集にあたって

著者: 小池盛雄1

所属機関: 1東京都立駒込病院病理科

ページ範囲:P.835 - P.836

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はじめに

 後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome;AIDS)と成人T細胞性白血病(adult T-cell leukemia;ATL)という一見異なる疾患も,元を糺せばレトロウイルスによる感染症という共通の基盤を有している.原因ウイルスはそれぞれhuman immunodeficiency virus(HIV),human T-cell leukemia virus type 1(HTLV-1)で,前者はレンチウイルス,後者はオンコウイルスに属する.レトロウイルスに関する詳細は成書に譲るが,同じレトロウイルス感染症でもこれらの病態は全く異なる.

 HIVは20世紀末の最も重要な新興感染症の1つである.1981年にアメリカの男性同性愛者間に発生した細胞性免疫不全症に伴うカリニ肺炎やカンジダ症を合併して死亡する原因不明の疾患として初めて報告された.その後同様の病態が静脈注射濫用者,血液凝固製剤の輸注を受けている血友病患者にもみられることが判明し,血液を介するウイルス感染症が推定された.1983年にMontanierらにより原因ウイルスHIVが分離同定された.

 わが国でも血液凝固製剤による血友病患者の感染という医療・医療行政の関与した痛ましいできごとを経験し,社会問題となったのは記憶に新しい.最近では異性間および男性同性愛に基づく性行為による感染が急増している.麻薬常習者の感染や感染した母親から子への垂直感染はわが国ではまれである.

 HIVはT4細胞や樹状細胞,単球などに感染し,感染後10年前後で著明なT4細胞の減少をきたし,免疫系の崩壊をまねく.その結果,各種の日和見感染症や二次性悪性腫瘍を合併し,AIDSと診断されるに至る.

 したがって,AIDSの臨床症状の大部分は日和見感染症や二次性悪性腫瘍に関連したもので,消化管にもしばしば病変を形成するが,多くは全身病変の一部分症である.

 しかし,痴呆を主症状とするHIV脳症など,HIVが直接関係した病態も存在し,感染初期の急性期には食思不振や嘔吐,下痢などの不定の消化器症状を呈するものもみられることがある.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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