今月の主題 胃カルチノイド―新しい考え方
主題症例
原発巣切除後長期観察中に肝転移を発症した胃カルチノイドの1例
著者:
後藤田卓志1
近藤仁1
蓮池典明1
小野裕之1
藤井隆広1
神津隆弘1
斉藤豊1
乾哲也1
松田尚久1
山口肇1
斉藤大三1
片井均2
佐野武2
笹子三津留2
下田忠和3
吉田茂昭4
所属機関:
1国立がんセンター中央病院内視鏡部
2国立がんセンター中央病院外科
3国立がんセンター中央病院臨床検査部病理
4国立がんセンター東病院内科
ページ範囲:P.1429 - P.1434
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要旨 患者は62歳,女性で,1974年4月,近医の胃X線検査にて胃体部の隆起性病変を指摘され,当院の上部消化管内視鏡検査による生検にてカルチノイド腫瘍と診断された.胃亜全摘術が施行され,切除後順調に経過していたが,1982年9月ごろより顔面紅潮,皮膚搔痒感や息切れなど,いわゆるカルチノイド症候群の症状および右季肋部痛が出現してきた.腹部超音波検査にて,肝S5,7,8の領域に及ぶ巨大腫瘍が指摘され,更に尿中5-HIAAの上昇も認められ,胃カルチノイド腫瘍からの肝転移と診断された.本症例は,胃切除時組織所見では,比較的均一な円形の核を持つ腫瘍細胞が索状,あるいは一部腺腔構造をとりながら増殖する古典的カルチノイド腫瘍であったが,一部に大型の核から構成される部分も混在し,同部では核の大小不同や分裂像もわずかに認められた.このために,非常に緩徐ではあるが長期経過後に肝転移を来した可能性が考えられた.カルチノイド腫瘍は比較的まれな疾患であるため,発生母地や組織学的悪性度,更にその臨床的取り扱いについてもいまだ不明確な部分も多いが,胃癌同様の慎重な臨床対応が必要と考えられた.