icon fsr

文献詳細

雑誌文献

胃と腸35巻9号

2000年08月発行

文献概要

--------------------

書評「Tumor Dormancy Therapy―癌治療の新たな戦略」

著者: 塚越茂1

所属機関: 1(財)癌研究会癌研究所顧問

ページ範囲:P.1184 - P.1184

文献購入ページに移動
 この度,金沢大学がん研究所外科の高橋豊博士による表記の著書が医学書院より刊行された.ソフトカバーの全172頁より成る著書である.著者が本書の最後に述べているように,表題の「Tumor Dormancy Therapy」はそのまま訳せば休眠ないし冬眠療法となろうが,著者は“癌との共存”を目的とした治療法と解説を加えている.筆者もこの著者の考え方に賛成である.後でも述べるが,21世紀には癌治療の最終に到達できる状態を"癌との平和共存"にあるものと考えるからである.第1章の始めでtumor dormancyという言葉の解説がなされ,第2章は「癌の生物学」,第3章に「癌化学療法の現況」,第4章に「なぜ今,tumor dormancyか?」,第5章に「Tumor dormancyを得るための治療」,そして最後に「癌との共存を目指して」という記述がなされている。tumor dormancyとは著者が述べるように,“腫瘍が長期間増殖せずに休止・静止している状態を示す”ことであり,第4章には,この概念の由って来たるところは“化学療法による縮小効果と延命期間とは相関するか?”,“なぜ縮小効果と延命期間は相関しないのか”にあると現在の癌治療における大きな問題点を解説している.筆者のこれまで学んできたところでも,たとえ新しい癌治療薬が現われても,これまでは,腫瘍縮小は延命効果につながらないことが示されたことが多い.しかし最近における癌治療薬の研究開発は,癌患者の延命に寄与し,かつQOLを損わないことに主目標が置かれていることを考えると,QOLが損われずに腫瘍増殖が進行しない状態(tumor dormancy)がもたらされる治療法は,新しい治療薬の開発の最終目標とも,ある面では合致するものであろう.著者は第4章の中にこれまでの臨床経験の中から,tumor dormancy therapyによる延命とその効果判定としてのTTP(time to progression;再発・再増殖を起こすまでの時間)の解説に,5'-DFUR(フルッロン),CPT-11(イリノテカン)の臨床例を解説し,prolonged NC(no change),つまりNCは,腫瘍増殖が休んでいる(dormant)状態で,これが延びる状態は有効例に入れるべきであると考えている.言葉が前後するが,第2章には癌転移・浸潤,発育速度が読みやすく解説され,第3章の化学療法の現況の解説を踏まえ,これが第4章のtumor domancyを考える基盤となっていることがわかる.更に,最近研究が盛んになっている新しい癌治療薬の研究(分子標的を含めて),再燃の遅延化が得られる治療が解説されているから,tumor dormancy状態を導くための治療法の考え方がこの章の記述で明確になると思われる.冒頭に述べたごとく,21世紀のある時期にもたらされると考えられる多くの癌治療の最終状態は,“癌との平和共存状態”と考えられるから,本書が刊行されたことは,時代を先取りしたとも言えるものであり,癌治療における重要な問題が解説されていると思う.この意味で誠に時宜を得た著書と思われるが,難を言えば,tumor dormancy therapyはまだ一般化した専門用語ではない.また海外でもこの言葉を用いた解説書が少ない状態である.筆者はもう少し表記に工夫をこらしたほうが良かったかもしれないと考えている.しかし,これまでに述べてきたごとく,まだ類書の少ない大切な話題を取り上げているから,癌治療に関心のある研究者,医師,その他の方々の大切な情報源の1つとなろう.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?