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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸36巻1号

2001年01月発行

雑誌目次

今月の主題 表層型胃悪性リンパ腫の鑑別診断―治療法選択のために 序説

表層型胃悪性リンパ腫の鑑別診断

著者: 吉田茂昭

ページ範囲:P.9 - P.11

 胃悪性リンパ腫は胃癌に比べて圧倒的に頻度が低いが,両者の肉眼所見にはかなりの類似性が見られる.このため,形態診断学の領域では当初から胃悪性リンパ腫自体の疾病論的な意味づけよりも,主として胃癌の鑑別対象(陰の部分)として,その存在意義を見いだされてきた.いわく,“胃癌を疑う所見があっても,粘膜面に光沢を有する隆起成分や決潰像などの多彩な病変が多発して見られたり,ひだ上の蚕食像が明らかでなく丸みを帯びていれば悪性リンパ腫を疑う”うんぬんである.その後,表層型を中心とする早期悪性リンパ腫症例が数多く発見され,更に微小病変の存在も明らかにされるようになると,前述の特徴的な所見の由来として,悪性リンパ腫が多中心性に発症することや,粘膜下層(まれに粘膜深層部)を発生母地とするため,粘膜表面上では健常な腺窩上皮(既存構造)を遺残しながら発育することなどの説明が病理学的な裏付けをもってなされるようになった.

 この種の鑑別診断は,潰瘍性病変の診断学が盛んに行われていた1970年代ごろから詳細に検討されるようになり,1980年代初頭に示されたいわゆる“cobblestone様所見”1)や“乳白色調の褪色所見”2)などによって,ようやく潰瘍性病変以外の範躊を含むことになり,鑑別診断として一応の完成をみたが,その後しばらくは積極的な展開が図られなかった.その背景には,“胃癌であろうが,悪性リンパ腫であろうが,どちらにしても治療は手術に回せば事足りるし,議論をするにしてもせいぜい全摘すべきか否かといったことぐらいしか残されていない”というような,診断学上の閉塞感が根底に存在していたことも事実である.

主題

表層型胃悪性リンパ腫の病理学的鑑別診断―特徴的な肉眼形態と組織像

著者: 横井太紀雄 ,   中村常哉 ,   中村栄男

ページ範囲:P.13 - P.20

要旨 胃MALTリンパ腫の多くはHelicobacter Pylori(Hp)関連慢性活動性胃炎の連続病変と考えられる.したがって,組織学的に鑑別診断として最も問題となるのはリンパ装置の発達した胃反応性病変であり,胃癌との鑑別も問題となることがある.胃のリンパ増殖性病変を生検材料のみで診断するのはときに難しいことから,胃リンパ増殖性病変をHp除菌療法の反応によって病態を分類することは有用である.肉眼的に隆起型を示すMALTリンパ腫は除菌無効な症例が多く,慢性活動性胃炎を背景に持たないものも多い.更に隆起型を示すものや除菌無効例ではt(11;18)(q21;q21)染色体転座が認められる.t(11;18)(q21;q21)染色体転座は胃のリンパ増殖性病変の本態を理解するうえで非常に重要であり,臨床的には除菌に対する反応性の予測にも有効と期待される.

胃悪性リンパ腫の病理学的診断法と問題点

著者: 八尾隆史 ,   恒吉正澄

ページ範囲:P.21 - P.27

要旨 悪性リンパ腫の生検診断においては,組織が小さいことや挫滅などのアーチファクトなどにより組織構築の判断が困難なことがある.反応性リンパ濾胞の胚中心はCD10(+),bcl-2(-),Ki-67(+)であり,これらを用いた染色で胚中心を同定し,それ以外の部位でのリンパ球系細胞のマーカーによるT,B細胞の分布を参考にして組織構築を把握し,異型リンパ球の分布や細胞異型度をH・E標本で判定することが重要である.そして,リンパ球様細胞が増殖した像を認めた場合,それらの細胞が比較的大型である場合にはサイトケラチンによる未分化癌の鑑別が,細胞が比較的小型の場合はcyclin D1によるマントル細胞リンパ腫の鑑別が必要である.また,Ki-67は悪性度判定の指標としても有用である.PCR法によるIgH再構成は必ずしもリンパ腫すべてにおいて陽性に検出されるわけでなく胃炎でも検出される場合があり,またp53遺伝子異常はリンパ腫では低率であるので,それらは診断の補助的手法としては有用であるがその評価には注意が必要である.

表層型胃悪性リンパ腫のX線診断―早期胃癌との鑑別について

著者: 杉野吉則 ,   今井裕 ,   布袋伸一 ,   鈴木和代 ,   栗林幸夫 ,   向井万起男 ,   一色聡一郎 ,   大谷吉秀 ,   久保田哲朗 ,   北島政樹 ,   熊井浩一郎 ,   日比紀文 ,   岩男泰

ページ範囲:P.29 - P.39

要旨 表層型胃悪性リンパ腫切除例15例およびMALTリンパ腫としてHelicobacter pylori除菌が行われ経過観察中の3例,計18例について早期胃癌との鑑別を中心にX線像を検討した.従来から指摘されている表層型悪性リンパ腫の所見として,顆粒状粘膜が89%,輪郭が不明瞭な表面陥凹が89%,粘膜ひだの肥厚が56%,多発潰瘍(瘢痕)が61%に認められた.更に,今回より特徴的な所見としてとりあげた点状の陰影斑が89%に,不整な線状陰影(互いにつながると不整な網状を呈する)が72%に明らかに認められた.不整な線状陰影は残りの28%にもやや不明瞭であるが認められた.以上の所見をX線で描出し,詳細に読影することによって,表層型悪性リンパ腫は確診可能と考えられる.

表層型胃悪性リンパ腫の鑑別診断―X線診断―表層型胃悪性リンパ腫と慢性胃炎

著者: 牟田仁彦 ,   馬場保昌 ,   江頭秀人 ,   福山浩二 ,   保坂圭 ,   太田博俊 ,   柳澤昭夫

ページ範囲:P.41 - P.50

要旨 表層型胃悪性リンパ腫病変(MALTリンパ腫を含む)19例を対象に,X線診断の立場から背景粘膜の組織所見について検討した.背景粘膜は粘膜萎縮が軽度な粘膜領域に存在し,胃底腺粘膜領域に多いことがわかった.慢性胃炎の組織所見の1つとされるリンパ濾胞の増生所見は全例に認められ,中等度以上のリンパ濾胞の増生が多かった.表層型胃悪性リンパ腫のX線ならびに内視鏡的診断には,1)これまで集積された肉眼ならびにX線・内視鏡所見,2)生検組織診断から得られた異型性のあるリンパ球増生所見,3)病変が存在する場(背景粘膜)の性状,などを考慮に入れた診断が必要であると思われた.

画像における鑑別と所見の描出―内視鏡診断―早期胃癌と表層型胃悪性リンパ腫

著者: 今泉弘 ,   大井田正人 ,   中山昇典 ,   越田容子 ,   渡辺摩也 ,   木田芳樹 ,   田辺聡 ,   木田光広 ,   小泉和三郎 ,   三橋利温 ,   勝又伴栄 ,   西元寺克禮 ,   三富弘之

ページ範囲:P.51 - P.59

要旨 長径5cm以上のⅡ型早期胃癌と表層型胃悪性リンパ腫の内視鏡像および病理組織所見より,両疾患の内視鏡所見を検討した.内視鏡的鑑別点として病変部の①光沢,②微細血管模様の透見性,③敷石・ひび割れ状粘膜,病変境界部として④ひだの悪性変化,⑤蚕食像,⑥病変範囲,その他の所見として⑦病変が単発か多発かの7項目が重要であると考えられた.早期胃癌では光沢,微細血管模様の透見性が低下しており,ひだの悪性変化や蚕食像を伴うことが多い.一方,表層型胃悪性リンパ腫は病変部の光沢,微細血管模様の透見性は保持され,ひだの悪性変化や蚕食像を伴わない範囲不明瞭な病変として観察される.また,胃癌に比し病変は多発する傾向が認められた.

表層型胃悪性リンパ腫と慢性胃炎の内視鏡的鑑別診断

著者: 横田欽一 ,   田邊裕貴 ,   渡二郎 ,   佐藤智信 ,   柴田直美 ,   蓑口まどか ,   斉藤裕輔 ,   高後裕

ページ範囲:P.61 - P.68

要旨 表層型胃悪性リンパ腫の内視鏡所見の特徴を慢性胃炎と対比して解説した.自験例23例中19例(83%)はlow-grade MALTリンパ腫またはその成分を含んでいた.深達度は19例(83%)がsm,H.pyloriは18例中15例(83%)が陽性であった.多発びらん型病変は,やや厚みのある粘膜混濁領域に多発性の小円形びらんを混在するもので,平坦びらん性胃炎,萎縮性胃炎と区別される.敷石粘膜型病変は“溝状びらんに囲まれた粗大顆粒像”を呈するが,同所見を呈する特異な慢性胃炎が存在する.限局性皺襞腫大型病変の表面には微細な凹凸や発赤びらんがみられ,皺襞腫大性胃炎と区別される.多発たこいぼ型病変とリンパ球性胃炎との鑑別は困難である.組織学的にMALTリンパ腫と異なる胃RLH症例が存在し,内視鏡的に潰瘍型悪性リンパ腫様であるが,抗潰瘍治療により平坦粘膜に治癒するという特徴がみられる.

表在型胃悪性リンパ腫の鑑別診断―超音波内視鏡診断

著者: 芳野純治 ,   永田正和 ,   乾和郎 ,   若林貴夫 ,   奥嶋一武 ,   小林隆 ,   三好好尚 ,   中村雄太 ,   渡辺真也 ,   加藤芳理 ,   江藤奈緒 ,   神谷直樹

ページ範囲:P.69 - P.74

要旨 早期胃癌140例144病変,悪性リンパ腫13例26病変,うち表在型リンパ腫10病変に対して超音波内視鏡像の特徴を検討した.早期胃癌は病変部のエコーが均一と不均一な病変がほぼ同数で,第3層と第4層の間のエコー輝度を呈する病変が多く認められた.また,病変の境界が鮮明と不鮮明な病変もほぼ同数認められた.境界不鮮明な例は癌巣内潰瘍の合併率が多く認められた.悪性リンパ腫は内部エコーの均一な例が多く,境界明瞭で,第4層のエコー輝度に類似する病変が多く認められた.表在型悪性リンパ腫では第3層と第4層の間のエコー輝度を呈する例がやや多く,内部エコーが不均一な例が多くみられた.

主題症例

悪性リンパ腫を疑い除菌療法にて著明な改善を認めた胃潰瘍性病変の1例

著者: 森田重文 ,   川口実 ,   森安史典

ページ範囲:P.75 - P.80

要旨 症例は32歳,男性.心窩部痛を主訴に近医を受診.上部消化管内視鏡検査にて多発性胃潰瘍と診断され,H2RAやPPIの投与を受ける.しかし,潰瘍の治癒傾向が全く認められず,悪性リンパ腫なども否定できず精査目的に当科受診となる.当院で行った胃内視鏡検査でも多発性不整形潰瘍を認め,悪性リンパ腫を強く疑った.胃生検組織所見や全身検索の結果,悪性リンパ腫の確証は得られなかった.そこで,Helicobacter pylori陽性のPPI抵抗性難治性潰瘍として除菌療法を行ったところ,潰瘍の著明な改善を認めた.以後の経過観察中に脾臓に腫瘤性病変が発生した.脾摘を行い病理組織学的にPTCL(peripheral T-cell lymphoma,unspecified)と診断された.胃病変は全経過を通じて再発を認めなかった.胃病変と脾腫瘍は現時点では別病変と考えている.

初回X線検査でⅡc型早期癌と診断された胃MALTリンパ腫の1例

著者: 大浦通久 ,   細井董三 ,   岡田利邦 ,   山田耕三 ,   中井呈子 ,   入口陽介 ,   中橋栄太 ,   中村尚志 ,   宇野昭毅 ,   小田丈二 ,   益満博 ,   斎藤雄介 ,   山村彰彦

ページ範囲:P.81 - P.85

要旨 患者は62歳,女性.当センターの間接胃集検にて,胃角部前壁にひだの集中・中断と内部に顆粒状変化を伴った不整形の陥凹性病変を指摘され,未分化型早期癌の診断にて要精密検査となった.内視鏡検査および精密X線検査では,病変は白苔を伴った溝状のびらんと,それに囲まれた比較的均一な,丸味を帯びた顆粒状変化からなり,MALTリンパ腫と診断した.生検診断もMALT lymphoma,compatibleであり,遺伝子検索でも免疫グロブリン重鎖の遺伝子再構成が認められた.以上より,胃MALTリンパ腫と最終診断し,H. pyloriの除菌治療を行った.その結果内視鏡所見は軽快し,生検でMALTリンパ腫の組織所見は消失したため,現在経過観察中である.表層型胃悪性リンパ腫は,萎縮性胃炎から胃癌まで様々な疾患との鑑別が問題となり,初回検査時の臨床診断は約5割がⅡC病変,多発びらん・潰瘍,萎縮性胃炎などとなっており,臨床上つねに表層型悪性リンパ腫を念頭に置くことが重要である.

早期胃癌研究会症例

急性胃粘膜病変との画像的鑑別に苦慮した4型胃癌の1症例

著者: 箱崎幸也 ,   清家英二 ,   岩本淳一 ,   三谷圭二 ,   下屋正則 ,   峯雅文 ,   小林正彦 ,   大庭健一 ,   白浜龍興 ,   酒井優 ,   松熊晋 ,   桑原紀之

ページ範囲:P.103 - P.109

要旨 患者は,58歳,男性.上腹部痛を主訴に来院し,胃内視鏡検査にて幽門前庭部の多発する不整形のびらん/潰瘍性病変を認めた.胃内視鏡像では,典型的な急性胃粘膜病変と考えられたが,特殊胃炎(胃梅毒,Crohn病)を疑い胃生検を施行した.病理診断にて,低分化腺癌と診断された.術前精査で癌浸潤は幽門前庭部から体上部までと判断し,胃全摘術が施行された.病理組織学的所見には,幽門前庭部から体下部までは壁の肥厚(特に粘膜下層)を伴う癌細胞浸潤〔se(+),aw(+)〕がみられたが(深部浸潤型),体中部から噴門部にかけては線維性増殖はほとんどなく主に粘膜筋板直下での広範な癌細胞浸潤(表層拡大浸潤型)を認めた4型胃癌であった.急性胃粘膜病変との鑑別や癌浸潤範囲同定に難渋した4型胃癌症例を経験したので,病理組織学的検討も加え報告する.

症例

早期梅毒性肝炎を合併した梅毒性直腸炎の1例

著者: 岸健太郎 ,   田村茂行 ,   水谷澄夫 ,   金子正 ,   宮内啓輔 ,   上村佳央 ,   請井敏定 ,   西岡清訓 ,   金成泰 ,   吉田浩二 ,   松山仁 ,   山下憲一 ,   岡川和弘

ページ範囲:P.110 - P.114

要旨 患者は59歳,男性.1997年5月肛門痛が出現し近医を受診,直腸癌疑いにて当院紹介となった.入院時検査では軽度の炎症反応と肝機能異常を認め,大腸内視鏡検査にて歯状線口側の左側前壁に周堤隆起を伴う,不整形だが辺縁は比較的明瞭な易出血性の潰瘍を認めた.組織診断の結果では悪性細胞は認めず,好中球,形質細胞の浸潤の著しい出血を伴う炎症性病変が主体であった.3回の組織診を施行するも結果は同様であった.梅毒血清反応が強腸性のためbenzyl-penicillin benzathineによる治療を開始,肝機能障害および直腸潰瘍の改善を認めた.梅毒性直腸炎に早期梅毒性肝炎を合併した1例と考えられ,検索した限りでは本邦報告2例目であった.

今月の症例

食道内視鏡にて診断した胸部大動脈瘤食道穿破の1例

著者: 浜本哲郎 ,   大久保美智子 ,   三浦直也 ,   下山晶樹 ,   越智寛 ,   堀立明 ,   鶴原一郎 ,   岡淳夫 ,   角賢一 ,   浜副隆一

ページ範囲:P.6 - P.7

 〔患者〕 65歳,男性.1997年12月に下行結腸癌(2型,stageⅢa)で左半結腸切除術を施行.外来で経過観察中に肝転移を発見され,1998年8月,肝右葉切除を行い,以後は外来で5FU(5fluorouracil)の肝動注療法を継続していた.また,1999年10月より糖尿病を発症し,経口血糖降下剤にて治療中であった.2000年2月21日,心窩部痛,食欲不振を来し,2月29日に上部消化管内視鏡検査を行うも,びらん性胃炎を認めるのみで,食道には異常を認めなかった.その後も症状が増悪するため,3月16日に入院となった.入院時には,発熱を伴い,白血球数10,200/mm3,CRP26.58mg/dlと高度な炎症所見を認めた.炎症の原因を確定しえないまま,抗生剤の点滴で経過をみていたところ,3月23日にタール便を来したため,緊急内視鏡検査を行った.

 〔食道内視鏡所見〕 内視鏡を挿入すると,門歯から25cmの部位で,食道の約1/3周を占める食道壁の全層性の欠損を認め,同部位から食道内に向かって突出する暗黒赤色の拍動を伴う腫瘤を認めた(Fig.1a~c).胸部大動脈瘤の食道穿破と考え,直ちに内視鏡を抜去し,胸部CT検査を行った.

学会印象記

DDW-Japan 2000(第8回日本消化器関連学会週間)―胃に関するテーマを中心に

著者: 小野裕之

ページ範囲:P.60 - P.60

 20世紀最後のDDW-Japan 2000は,2000年10月25日より4日間にわたって,神戸の地で開催された.本稿では筆者の個人的な印象を書くようにとのことであるが,もとより若輩かつ浅学非才の身ゆえ,言葉足らずのところが多々あると思われる.御寛恕をお願いする.

 筆者は2日目から参加したが,イメージとして感じたのは“今,大腸が熱い”ということであった.当院の大腸グループが,セッションが終わった後も口角泡を飛ばしながら議論に熱中していた.表面型腫瘍と拡大内視鏡の出現により,今まさに新たな大腸内視鏡診断学の勃興期と思われ,胃癌診断の先達が“20年前の胃を見ているようだ”とつぶやいておられたのを聞いて厳粛な思いがした.胃の分野に目を転じてみると,我田引水ではあるが,筆者も参加させていただいたパネルディスカッション10「早期胃癌EMR困難例への対策〈ビデオ〉」も多くの聴衆が集まり盛況であった.EMRの適応・手技について現在多くの施設で症例の検討,手技の工夫が行われており,こちらも今まさに凌ぎを削っている“熱い”状態である.本パネルディスカッションでは2チャンネル法,粘膜切開法,透明キャップ法の三者の立場から,まず基本的な手技をビデオ供覧し,それぞれの困難例について定義した後,その対処法について同様にビデオを用いるという目新しい方法をとった.一括切除を目指すのか,計画的に分割切除するのかの考え方の違いの是非はおいても,他法のエキスパートの手技を動画像で拝見できたことは,どうしても自分の方法に固執しがちなだけに参考になった.パネルディスカッションでは現状でのgolden standardを知らしめたいという酒井義浩内視鏡学会長(東邦大学大橋病院消化器診断部)の意向にかなったであろうか?

DDW-Japan 2000(第8回日本消化器関連学会週間)―大腸に関するテーマを中心に

著者: 横山善文 ,   奥村文美典

ページ範囲:P.86 - P.86

 5年前のDDW-Japanでは市内のそこここに震災跡が残っていたが,今は見事に復興した神戸市でDDW-Japan 2000は10月25日~28日の4日間開催された.学会全体としては肝臓に関する企画が盛りだくさんの印象であったが,消化管の興味ある発表も多くあったため,大腸に関する発表は2人で手分けして聴くこととした.

 第1日目の午後のシンポジウム5「炎症性腸疾患の病態と治療における今後の展開」ではIBD(inflammatory bowel disease)の遺伝子的背景,サイトカインに関連した治療法の開発の現状が討論されたが,ヒトへの応用についてはいまだしの感であった.

DDW-Japan 2000(第8回日本消化器関連学会週間)―食道に関するテーマを中心に

著者: 有馬美和子

ページ範囲:P.96 - P.96

 20世紀最後の消化器病学合同会議としてDDW-Japanは10月25日~28日の4日間,神戸市で開催された.今回の新しい試みとして各研究者間の概念の統一,理解の均等化を目指して討議中心のコンセンサスミーティングが6題企画された.食道疾患を中心に筆者が聴くことのできた3つのコンセンサスミーティングについて印象を述べさせていただく.

 第2日目の午前,コンセンサスミーティング1「EUS層構造の解釈」が行われた.EUSにあまり関心のない方は,なぜ今さら層構造なのかと疑問に思われるかもしれないが,20MHz細径超音波プローブが開発されて約10年が経過しようとしているにもかかわらず,臨床的な便利さが先に立って層構造の解釈は意見の統一が図られずに現在まで来てしまったのが現状である.食道・胃・大腸と,新たな実験データが持ち寄られて議論が戦わされた.従来7.5MHzでは5~7層に分解されるうちの第3層の高エコー層がsm層と言われてきたが,高周波数プローブではsm層が分離,解像され比較的低エコーに見えること,9層に描出されたうちの第3層の高エコー層内にmmが存在することなどについてコンセンサスが得られた.また,食道と胃と大腸では見え方が多少異なることが明らかとなった.同じ物を見ているのになぜこのようにも解釈の仕方が異なるのか,臨床的な事象を実験的に証明することの難しさを今さらながら痛感した.テーマがかなり限定されていたこともあって白熱したディスカッションとなり,最後には司会者采配が提案された.

消化管病理基礎講座

腫瘍の組織所見に関する用語(2)

著者: 池上雅博

ページ範囲:P.87 - P.92

 再生異型

 潰瘍辺縁,各種の炎症性腸疾患の修復の際に出現してくる再生粘膜を構成する腺管にみられる異型.Fig.1に1例を示す.典型的な再生粘膜は写真に示すように,毛細血管の増生と炎症性細胞浸潤を伴う幅広い間質を有する房状の形態を示す(Fig.1a)1).核の大きさは組織修復の時期あるいは炎症の程度などによって異なるが,最盛期には腫大が目立ち,核小体も顕著である.癌細胞との相違は,腺管全体的には,細胞に表層分化(後述)が保たれており,細胞質の分化も保たれている(細胞質内に粘液が豊富で明るい)(Fig.1b).また,核の腫大が目立つものの核縁は滑らかで多くは円形~類円形であり,核クロマチンの増加はなく,どちらかと言うと核は淡明で明るい.大きい核小体がみられるが1~2個である(Fig.1c).以上のような特徴が再生粘膜にみられる.典型的な場合には,癌との鑑別は容易であるが,生検で一部分の所見しか得られない場合や生検に伴う挫滅性変化で細胞質・核に変性が加わっているような場合には,癌との鑑別に苦慮することもある.そういった場合,筆者の経験では連続切片を作製し情報量を増やすことを推奨したい.連続切片作製により,癌病変では癌としての異型が現れてくることが多く,診断に迷った場合には有効な方法である.

最近の機器と検査手技

三次元超音波検査(3D-US)によるvirtual endoscopy

著者: 平田一郎

ページ範囲:P.93 - P.95

 CT検査による仮想内視鏡検査(virtual endoscopy)の試みは以前より行われており,ある程度の成果は挙げられているものの内視鏡に肉薄するような画像には程遠いものである.また,CT検査は被検者の被曝や大がかりな検査設備が必要なことなどが問題である.一方,超音波検査はCTに比しはるかに簡便で浸襲性もほとんどない検査である.この場合の超音波検査はもちろん体外エコー検査のことで超音波内視鏡検査のことではない.現在,われわれは三次元超音波画像診断装置を用いた体外エコー検査でvirtual endoscopyの試みを行っているが1),得られる画像はCT検査によるものに比べて大きく劣っているわけではない.したがって,三次元超音波検査(3-dimensional ultrasonography; 3D-US)を用いたvirtual endoscopyは,検査の安全性・簡便性からみて,今後十分期待しうる新たな画像診断法であると考えられる.ここでは,われわれが行っている3D-USを用いたvirtual endoscopyの試みを紹介する.

三次元超音波検査の歴史と原理

 1.歴史

 三次元超音波画像表示の試みは1965年にHowryが報告しているが,本邦では1979年に伊藤が乳癌に対して行ったのが最初である.その後,産婦人科領域において三次元超音波検査の臨床応用に関する研究が続けられてきた.

早期胃癌研究会

第40回「胃と腸」大会から

著者: 平田一郎 ,   多田正大

ページ範囲:P.97 - P.99

 第40回「胃と腸」大会は2000年10月25日(水),DDW-Japanのサテライトシンポジウムとして神戸国際会議場メインホールで行われた.司会は平田一郎(大阪医科大学第2内科)と多田正大(多田消化器クリニック)が担当した.

 〔第1例〕 57歳,男性.深達度診断が困難だった食道表層拡大型sm癌(0-Ⅰ+Ⅱa+Ⅱc型)(症例提供:石川島播磨重工業健康保健組合播磨病院内科 藤澤貴史).

2000年11月の例会から

著者: 小野裕之 ,   松川正明

ページ範囲:P.100 - P.102

 2000年11月の早期胃癌研究会は,11月15日(水)に東商ホールで開催された.司会は小野裕之(国立がんセンター中央病院内視鏡部)と松川正明(昭和大学附属豊洲病院消化器科)が担当した.ミニレクチャーは小野裕之が「EMR(IT knife法)と穿孔への対処」と題して行った.

 〔第1例〕 27歳,女性.潰瘍性大腸炎に伴う胃病変(症例提供:弘前大学第1内科 三上達也).

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欧文目次

ページ範囲:P.5 - P.5

書評「―コロナビを用いた―新 大腸内視鏡テクニック」

著者: 長廻紘

ページ範囲:P.12 - P.12

 大腸内視鏡は1960年代末に開発されたが,当初はもちろん,今に至るまで使いこなすのが難しい内視鏡であり続けている.生産者・使用者とも,何とか使いやすいものにしようと,努力が重ねられた.使用者側においては既にあるこのスコープをうまく使うという挿入技術の向上と,スコープの欠点を明らかにしてメーカーに改良を求めるという2つの方向があった.そういうコロノスコープ・コロノスコピーの世界で,最初からたくさんのアイデアを出し,メーカーを叱咤激励し続けてきたのが本書の著者,多田正大博士である.スコープの硬さ,太さの検討にことのほか意を用い,数々の論文とともに,実際に硬度可変式スコープ,細径スコープなどにその検討結果は生かされた.高い診断能を有する一流の内視鏡医であり続けるとともに,誰よりも機種の改良に意を注ぐ姿を,常に感嘆しつつ眺めてきた.

 多田博士のもう1つのまねのできないことは,後進の指導に大変熱心だということである.それらの諸々の歴史が本書に流れ込んで,類をみない成書となった.100頁に満たない本であるが,“本は厚きをもって尊しとせず,内容の豊さをもって…”をまさに地でいく本である.DDW-Japan2000でも即日完売したのもうなずける.

書評「「図解生理学」第2版」

著者: 本間生夫

ページ範囲:P.28 - P.28

 中野昭一先生による「図解生理学」が,このたび,第2版として改訂された.初版が世の中に出たのが約20年前である.現在,多くの出版社から数多くの生理学教科書が出版されているが,当時はまだ数も少なく,故真島教授が書かれたいわゆる真島生理学が各大学で使われていた.その時代に当時東海大学生理学教室におられた中野教授がこの本を出版された.現在では図を多く取り入れた教科書が主流になっているが,当時はまだ珍しく,しかも両開きの左側に図だけを配置し,右側に説明文を配置した教科書は中野教授のものだけであった.視覚に訴え,理解しやすくしたことが学生たちの支持を受け,図解という言葉が話題になっていた.

 視覚に訴えた理解のしやすさは,この改訂版にも受け継がれており,図もはっきりと大きく表示され見やすくなっている.右側に書かれた説明文も各項目ごとに良くまとまっている.行間も見やすくとられており,500頁以上になる教科書であるが,たいへん読みやすくなっている.読みやすいという点では,各章の冒頭に,その章の導入部分が書かれており,とりあえず読む人の頭の中にその章の特徴がとらえられるようにくふうされている.こうしたくふうや特徴は,これから膨大な生理学を学ぼうとする初学者には,うれしい配慮であろう.また,人体の生理を中心に取り上げたこの本には病態の説明もあり,最新の知見も加えられている.20年の歳月を重ね,最初の出版のコンセプトを守りつつ,新しい知見も取り入れ,より良い教科書へと発展させたこの「図解生理学」は,学生の教科書として,また人体生理学を理解するための参考書としてたいへんに力になってくれる書である.

書評「肝転移―メカニズムと臨床」

著者: 小川道雄

ページ範囲:P.40 - P.40

 悪性腫瘍と良性腫瘍の決定的な相違は,悪性腫瘍が浸潤能,転移能を持つことである.転移はリンパ行性,血行性,播種性に大別されるが,腫瘍外科医は血行性転移,播種性転移に対しては絶望感を抱いていた.しかし最近は,特に血行性転移に対して,手術を中心に放射線療法,化学療法,免疫療法などを駆使して,果敢に戦いが挑まれるようになった.しかしながら血行性転移の治療成績の飛躍的な向上は,なお達せられていないのが現状である.

 金沢大学がん研究所の磨伊正義教授の編集された「肝転移―メカニズムと臨床」は,血行性転移のうちでも最も頻度が高く,しかもその治療戦略が視野に入ってきた肝転移に的をしぼった書籍で,ほかに類をみない好著である.

編集後記

著者: 西俣寛人

ページ範囲:P.116 - P.116

 日常診療の中で表層型胃悪性リンパ腫と鑑別が必要なものは胃の早期癌である.

 表層型悪性リンパ腫の中に正確な診断が困難な症例が多い原因は形態的変化に乏しい症例が多く,また生検の病理診断で良性・悪性の鑑別に苦慮することが多いためであろう.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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