今月の主題 早期胃癌診療の実態と問題点
主題
―治療面からみた早期胃癌の実態と問題点―同時・異時性多発早期胃癌
著者:
梅垣英次1
竹内望1
田中雅也1
南里昌史1
西村馨1
平田一郎1
勝健一1
所属機関:
1大阪医科大学第2内科
ページ範囲:P.1657 - P.1663
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要旨 早期胃癌に対する治療は,内視鏡的粘膜切除術(以下EMR)をはじめとする縮小治療がその中心となってきた.しかし,EMRでは癌の発生母地としての胃粘膜を残すため,EMR後の他部位での同時性および異時性の多発胃癌の発生を避けては通れない.今回,EMR症例の胃病変発生における背景胃粘膜,発生様式,さらにH. pylori感染との関連より臨床的検討を行った.対象とした病変は,EMRの適応となる粘膜内に限局する分化型胃癌および腺腫が大部分であり,単発例を81.5%,多発病変を18.5%に認めた.多発病変の中では同時性多発がその大部分を占め,病変の発生様式の違いとH. pylori感染には関連性が少なく,H. pyloriの存在しない胃粘膜にも異時性の多発胃癌が発症していた.したがって,EMR後の残存粘膜に対するH. pylori除菌治療にも限界があり,今後除菌すべき症例の適応に関してさらなる研究が必要であると考えられた.多発病変を臨床的に診断する上から重要である多発病変の局在に関しては,EMR症例では大部分の病変が高度萎縮を伴った背景胃粘膜を有し,腺萎縮境界の萎縮粘膜側に位置することが多かった,しかし,分化型癌と未分化型癌との多発では病変が腺境界の幽門腺側と噴門腺側の2領域にまたがることがあり,内視鏡検査を行う上で胃粘膜全体にわたる注意深い観察が必要であると考えられた.