今月の主題 胃癌と鑑別を要する炎症性疾患
主題症例
広範な萎縮,びらん,出血所見を呈し,診断に苦慮した自己免疫性汎胃炎(autoimmune pangastritis)の1例
著者:
藤沢亨1
福島万奈2
倉石章1
金児泰明1
金木利通1
平野大1
森宏光1
松田至晃1
和田秀一1
中田伸司3
羽田悟4
渡辺正秀4
赤松泰次5
勝山努2
所属機関:
1長野赤十字病院消化器科
2信州大学附属病院中央検査部
3長野赤十字病院外科
4長野赤十字病院検査部
5信州大学附属病院光学医療診療部
ページ範囲:P.1734 - P.1740
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要旨 患者は64歳,女性.体重減少と胃部不快感で近医を受診し,胃内視鏡検査で異常を指摘され精査目的に当院紹介となった.胃内視鏡検査では胃全体に粘膜萎縮が著明でひだがほとんど消失し,不整形びらん,小潰瘍が胃体部を中心に存在した.また,内視鏡検査時の送気により,容易に粘膜のひびわれと出血を来した.内視鏡所見では,表層拡大型の悪性リンパ腫やスキルス胃癌が否定できず,胃生検や診断的EMRを繰り返し施行したが,悪性所見を認めなかった,その後,約半年間経過を観察したが,心窩部痛は悪化し,X線像も進行性の胃硬化像を認めたため,十分なインフォームドコンセントのもとに胃全摘を行った.組織学的には,胃全体に著明な萎縮と出血,びらんが存在したが,悪性所見は認められなかった.残存した上皮周囲のリンパ球の免疫染色ではCD8陽性細胞の著増とCD4陽性細胞の著減を認め,HLA-DRも著明に発現していた.以上より発症原因として自己免疫の関与が考えられた.