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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸37巻3号

2002年02月発行

雑誌目次

特集 消化管感染症2002 序説

消化管感染症の画像診断

著者: 飯田三雄

ページ範囲:P.247 - P.248

 消化管は経口的に摂取された食物を消化吸収するための管腔臓器であり,その粘膜側は常に細菌,ウイルス,原虫,寄生虫などの病原微生物にさらされている.そして,生体側の感染防御機構と侵入微生物の病原性の強さのバランスが崩れると感染が成立する.これまで本邦では,衛生状態の改善,予防医学の普及,抗菌薬の開発・普及などによって多くの消化管感染症の克服に成功してきた.しかし,近年,国際化による新しい輸入感染症の増加,保冷技術の過信やペットブームを反映した感染性腸炎の増加,自然食品嗜好による寄生虫感染症の再興などが問題となっている.さらに移植医療やヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus; HIV)感染症などの免疫不全状態における日和見感染症,抗菌薬の投与下に発症するメチシリン耐性ブドウ球菌(methicillinresistant Staphylococcus aureus; MRSA)腸炎などの消化管感染症,同性愛者に好発する性行為感染症も増加している.また,Crohn病や潰瘍性大腸炎などの特発性炎症性腸疾患の増加に伴い,種々の感染性腸炎が鑑別診断上問題となることも多い.このような背景から,本増刊号は企画された.

 これまでに,本誌主題として消化管感染症が取り上げられたのは,12巻11号「腸結核(1)―小腸を主として」,12巻12号「腸結核(2)―大腸を主として」,13巻9号「腸結核(3)―疑診例を中心に」,18巻4号「急性腸炎(2)―主として感染性腸炎」,22巻7号「腸結核と癌」,30巻4号「腸結核」,31巻8号「Helicobacter Pyloriと胃リンパ腫」,32巻7号「感染性腸炎(腸結核は除く)」の8回であるが,うち5回は腸結核に関するものであった.そこで本号では,食中毒や腸結核など日常臨床において遭遇する機会の多い代表的消化管感染症のみならず,比較的まれな消化管感染症も広く取り上げ,その画像診断を中心に,診断手順,鑑別診断,治療法などについて,最近の知見を含めて解説していただいた.

総論

1.消化管感染症の現況と動向―新しい感染症法の施行に伴って

著者: 竹田美文

ページ範囲:P.249 - P.252

要旨 1999年(平成11年)4月の新しい感染症法の施行に関連して,消化管感染症の現況に変化が生じた.すなわち,コレラと細菌性赤痢の患者の入院期間が著明に短縮された.またコレラ,細菌性赤痢,腸チフス,パラチフスなどが食品衛生法の対象疾患として取り扱われるようになった.食中毒の届出に患者数1人の事例が急増したのも,感染症法施行の影響と考えられる.今後は感染症法と食品衛生法による消化管感染症の制御対策が,連携,融合する方向で行われることが期待される.

2.消化管感染症の診断手順―症候,血清,糞便検査,PCRを含む

著者: 斉藤裕輔 ,   藤谷幹浩 ,   渡二郎 ,   柴田直美 ,   前本篤男 ,   高後裕

ページ範囲:P.253 - P.257

要旨 感染性腸炎の鑑別診断を行う場合,最も重要なのは臨床所見である.詳細な病歴から感染性腸炎との診断が可能なばかりでなく,疾患の絞り込みも可能である.これに便や血液を用いた細菌学・生化学的検査所見を加えることでほとんど感染性腸炎の確定診断が可能となる.内視鏡生検組織を用いた組織検査,培養検査,さらに生検組織所見や病原菌に対する特殊染色・免疫組織化学・DNAプローブによる検索なども確定診断に有用である.X線・内視鏡などの画像所見は,病変の部位,形状,配列などを分析することで潰瘍性大腸炎やCrohn病などの狭義のIBDとの鑑別に有用である.

3.上部消化管感染症の内視鏡画像診断

著者: 榊信廣 ,   山田義也 ,   小澤広 ,   中嶋均 ,   門馬久美子

ページ範囲:P.259 - P.266

要旨 上部消化管の感染症は,1980年代のHIVおよび H. pyloriの発見以降注目されるようになった.上部消化管感染症の病原体の大半は内視鏡画像でとらえることはできないので,感染症と推測される病変から生検を行って病理組織学に診断する必要がある.上部消化管の感染症に関係した疾患には特異的な内視鏡画像を示す疾患もある.消化器内科医としては画像診断に関する知識の幅を広げておく必要があるが,それだけでは不十分である.多くの上部消化管感染症は非特異的な内視鏡画像を示すか,または内視鏡画像としては全く捉えることができないからである.上部消化管の内視鏡検査においても,常に感染の存在を念頭に置いて内視鏡診断を行わなければならない.一方,以前は感染症とは関係がないと考えられていた消化性潰瘍,リンパ腫,胃ポリープ,胃癌などの上部消化管局在性病変が,H. pylori胃炎粘膜に発生することが示された.さらに,それらの病変は,胃癌を除くと,H. pylori除菌治療で改善することが報告されている.上部消化管内視鏡検査の役割も変わってきている.除菌治療の評価やその後の経過観察に役立つ新しい内視鏡画像診断の新しい構築が必要である.

4.小腸感染症の画像診断

著者: 檜沢一興 ,   飯田三雄 ,   松本主之 ,   多田修治 ,   酒井輝男 ,   木村豊

ページ範囲:P.267 - P.274

要旨 小腸感染症の画像所見はⅠ~Ⅳ型に大別される.Ⅰ型(腸管浮腫型)は皺襞の浮腫性肥厚を特徴とし,アニサキス症や急性感染症でみられる.Ⅱ型(回腸末端炎型)はPeyer板の急性リンパ濾胞炎を反映した所見であり,エルシニア腸炎が典型像である.キャンピロバクター腸炎やサルモネラ腸炎では程度は軽く,Ⅰ型を混在する.Ⅲ型(多発潰瘍型)の代表疾患は腸結核であり,Ⅵ型(慢性顆粒状粘膜型)は糞線虫やイソスポーラの感染により粘膜がびまん性に顆粒状外観を呈した所見である.腹部超音波は急性期のスクリーニング検査に適しているが,慢性感染症の診断にはX線二重造影検査が必要である.

5.大腸感染症の画像診断

著者: 大井秀久 ,   西俣寛人 ,   島岡俊治 ,   新原亨 ,   西俣嘉人 ,   鳥丸博光 ,   田代光太郎 ,   松田彰郎 ,   仁王辰幸 ,   上山教夫 ,   小田代一昭 ,   小吉洋文

ページ範囲:P.275 - P.285

要旨 大腸感染症(以下IC)の診断は,糞便などの培養検査で,細菌が同定されて確定されるが,他の大腸疾患と鑑別するために,画像検査が行われることが多い.急性の経過をとるICでは,頻回の下痢を伴うことが多く,前処置なしでの内視鏡検査が可能であり,回盲部まで観察すると,ICの診断や起因菌のある程度の推察もできる.慢性の経過をとるICでは病変の推移を客観的に把握することが重要で,特にX線検査が有用である.画像所見は,病変の拡がり,分布様式,潰瘍性病変の形態などを白壁の言う点線面(PLA)という二次元的に捉えるだけでなく,障害された腸管壁の深さ(三次元的),病変の推移も考慮した四次元的な捉え方をして,全体像を把握する必要がある.

6.消化管感染症の病理

著者: 岩下明徳 ,   原岡誠司 ,   高木靖寛 ,   八尾隆史

ページ範囲:P.286 - P.304

要旨 多種多様な消化管感染症を病因別に分け,それぞれの臨床病理学的特徴について概説した.このうち,組織像で確診できるのはHelicobacter pylori感染症,結核,非定型抗酸菌症,梅毒,巨細胞性封入体症,ヘルペス性食道炎,カンジダ症,アスペルギルス症,ムコール症,放線菌症,ランブル鞭毛虫症,クリプトスポリジウム症,イソスポーラ症,アメーバ赤痢,アニサキス症,糞線虫症,日本住血吸虫症,ビルハルツ住血吸虫症である.疑診可能なものは腸チフス,腸管出血性大腸菌O 157: H7大腸炎,Clostridium difficile腸炎,エルシニア腸炎である.その他の多くの細菌性腸炎は非特異的急性炎の像を呈し,それらの確診には細菌学的検査が必要である.以上から,消化管感染症の中にも,病理所見のみから確診できるものが少なからず存在するが,多くの細菌性腸炎の確診には細菌学的検査が必要であることが理解される.

7.感染性腸炎の治療,予後,合併症

著者: 朝倉均

ページ範囲:P.305 - P.310

要旨 感染性腸炎は下痢,腹痛,発熱を主徴とする.コレラの下痢がenterotoxinによるcyclic AMP依存性分泌性下痢であることがわかり,その後様々な感染性腸炎の病態が細菌が産生する毒素によって起こることがわかった.治療には,下痢による脱水状態の改善,病原体に対する抗菌薬や抗生物質の投与,整腸薬による腸内細菌叢の是正,およびワクチンによる予防がある.合併症は脱水による循環不全およびこれによる腎障害,志賀毒素による溶血性尿毒症症候群,血栓性血小板減少性紫斑病,および脳症,腸炎ビブリオの溶血毒による心筋障害,アメーバ赤痢の肝膿瘍などが代表的である.予後はこれらの合併症を来さなければ良好である.

8.感染性大腸炎の鑑別診断―感染性大腸炎間の鑑別と薬剤性腸炎との鑑別

著者: 松井敏幸 ,   永江隆 ,   真武弘明 ,   櫻井俊弘 ,   津田純郎 ,   八尾恒良 ,   平井郁仁 ,   古賀有希 ,   古川敬一 ,   竹山泰守 ,   池田圭祐 ,   宗祐人

ページ範囲:P.311 - P.320

要旨 感染性腸炎の診断過程には,多くの疾患の鑑別が必要である.感染性腸炎同士の鑑別あるいは薬剤性腸炎を含む炎症性疾患を除外する必要がある.感染性腸疾患の診断の第一歩には毒素性細菌感染と組織侵入性感染を区別し,その後,後者の鑑別を進める.また古典的感染症と薬剤性腸炎に加え,最近増加傾向にある腸管出血性大腸菌感染とNSAIDs起因性大腸炎も鑑別すべきである.感染性腸炎と薬剤性腸炎は,臨床像や内視鏡像が共通することも多い.また,細菌学的検索が行われても両者を鑑別できないことも少なくないなどの問題点がある.上記の多数の疾患を鑑別する要点を総説的にべた.

9.炎症性腸疾患(CD・UC)との鑑別を要する腸管感染症

著者: 平田一郎

ページ範囲:P.321 - P.330

要旨 IBD(UC,CD)と鑑別を要する感染性腸炎は慢性型(腸結核,アメーバ性大腸炎)と急性型(細菌性赤痢,キャンピロバクター腸炎,サルモネラ腸炎,病原性大腸菌腸炎,エルシニア腸炎)に分けられる.IBDとこれら腸炎との鑑別ポイントを下記に述べる.腸結核では輪状傾向の潰瘍,瘢痕萎縮帯所見,非乾酪性であっても大型で融合性の肉芽腫をどこかの部位に認める(CDとの鑑別).アメーバ性大腸炎では潰瘍のたこいぼ様形状や介在粘膜の血管透見像をどこかの部位に認める(UCとの鑑別).キャンピロバクター腸炎ではBauhin弁上の潰瘍を高率に認める(UCとの鑑別).サルモネラ腸炎では直腸が健常の場合が多い(UCとの鑑別).エルシニア腸炎では通常,縦走潰瘍の形成はない(CDとの鑑別).腸管出血性大腸菌腸炎では腺管の融解や変性壊死を高率に認める(UCとの鑑別).IBDと感染性腸炎の鑑別は,上述の肉眼形態像のみならず病歴,検査所見,血清学的検査,糞便・腸内容物・腸粘膜組織の病原体検査,臨床経過なども加味して行うことが重要である.

各論 1.細菌性感染症

1)Helicobacter pylori感染症

著者: 鹿嶽佳紀 ,   平田一郎 ,   島本史夫 ,   西上隆之 ,   鹿嶽徹也 ,   勝健一

ページ範囲:P.331 - P.336

要旨 通常観察に用いる内視鏡画像の高解像度化に伴い,胃粘膜表面の集合細静脈透見像である微細発赤斑が認識可能となった.胃内視鏡観察によりHelicobacter pylori(以下H. pylori)感染の診断を行うために,732例に対して胃粘膜表面を詳細に観察し,萎縮境界および微細発赤斑所見の有用性について検討した.H. pylori感染の診断には血清抗H. pylori-IgG抗体を用いた.内視鏡観察により萎縮境界が判別可能な萎縮性胃炎では,H. pylori感染率は95.4%であった.大きさが均一で鮮明な微細発赤斑を胃粘膜全体に認める群のH. pylori感染率は2.1%と極めて低く正常胃粘膜と考えられた.微細発赤斑が不明瞭な群で,かつ萎縮境界不明瞭な群は,萎縮のない粘膜に起きた種々の炎症と考えられ,そのH. pylori感染率は96.2%であった.以上より,H. pylori感染は胃粘膜の詳細な観察により診断可能であり,その内視鏡所見の特徴は,微細発赤斑の大小不同や不鮮明化であると考えられた.

2)腸チフス・パラチフス

著者: 矢野祐二 ,   青柳邦彦 ,   松本主之 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.337 - P.341

要旨 厚生労働省が2類感染症に指定している細菌感染症の腸チフス・パラチフスについて,特に腸チフスを中心に概説した.臨床像は腸チフスが重症であるが類似しており,いずれもニューキノロン製剤が奏功する.従来,腸チフスは終末回腸が好発部位とされてきたが,近年,右側結腸から左側結腸にかけて潰瘍性病変が発生することも明らかとなっている.重症度,病悩期間や治療の有無で消化管病変の程度に差はあるが,消化管病変の確認と病歴や血液検査所見を加味すれば本症を疑うことは困難ではない.

3)エルシニア腸炎

著者: 飯塚文瑛

ページ範囲:P.342 - P.346

要旨 Y. enterocolitica,Y. pseudotuberculosisは,食中毒起炎菌となる.胃腸炎からの分離頻度は低いが,集団食中毒の原因にもなる.菌の発育至適温度が低く,発育が遅いため,菌の検出は特定して分離する必要がある.エルシニア感染症は症状が多彩で,菌の血清型や患者の年齢,患者型要因により,①胃腸炎・腸間膜リンパ節炎型,②結節性紅斑型,発疹型,③敗血症型などに臨床分類される.自然治癒傾向の軽症例が多いが,回盲部病変が主体では急性虫垂炎の他,発疹を伴う症例では,Crohn病やBeçget病等の慢性再燃性疾患との鑑別も想起される.鑑別には,菌や血清抗体の検出の他,感受性抗生薬(ホスホマイシン,ニューキノロン系,アミノグルコシド系,第3世代セフェム系薬)投与後の内視鏡的経過観察が有用となる.

4)キャンピロバクター腸炎

著者: 清水誠治 ,   木本邦彦 ,   多田正大

ページ範囲:P.347 - P.351

要旨 キャンピロバクター腸炎は主にCampylobacter jejuniの経口感染によって引き起こされる.感染源としては汚染された鶏肉とその加工品であることが多い,2~5日の潜伏期を経て,下痢,血便,発熱,腹痛,嘔吐などの症状が出現する.最近,Guillan-Barre症候群との関連が注目されている.大腸内視鏡検査では散在性にみられる斑状発赤,点状出血,びらん,小潰瘍,粘膜の顆粒状変化などであり,これらの所見が血管透見を有する粘膜と入り混じって観察される所見が特徴的である.病変は大腸全域に分布することが多い.全大腸にびまん性の変化がみられる場合には潰瘍性大腸炎との鑑別が問題となる.最も特徴的とされる所見は回盲弁上の浅く境界明瞭な潰瘍であり,この所見から本症を強く疑うことが可能である.

5)サルモネラ腸炎の臨床像―X線および内視鏡所見を中心に

著者: 中村昌太郎 ,   松本主之 ,   中村滋郎 ,   富永雅也 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.352 - P.358

要旨 サルモネラ腸炎の臨床像について,X線・内視鏡像を中心に概説した.Salmonella属の菌種の表記方法は統一されておらず,混乱している.非チフス性サルモネラ菌は食中毒の主要な病原菌であり,近年Salmonella Enteritidisの鶏卵汚染による食中毒が増加している.サルモネラ腸炎の主病変はS状結腸から深部大腸に多くみられ,直腸病変は少ない.X線所見では潰瘍性大腸炎に類似した微細顆粒状粘膜・ハウストラの消失とびらんないし小潰瘍を呈するが,直腸が侵されにくい点が特徴的であり,内視鏡では粘膜の浮腫・発赤・びらん・粗糙・出血・潰瘍など多彩な像を呈する.治療にはニューキノロン系抗菌薬などが使用されるが,近年,Salmonella Typhimuriumの多剤耐性菌が増加している.

6)病原性大腸菌腸炎

著者: 北江秀博 ,   安藤三男 ,   田橋賢久 ,   吉田隆 ,   枝川豪 ,   森口暁仁 ,   天津孝 ,   杉木正夫 ,   辻口比登美

ページ範囲:P.359 - P.364

要旨 病原性大腸菌は5群に分類されている.なかでも腸管出血性大腸菌による腸炎は腹痛,下痢,血便,平熱あるいは微熱が特徴的である.溶血性尿毒症症候群を合併することがあり,早期診断が重要となる.内視鏡所見は直腸から盲腸までの連続性病変であり,右側結腸ほど病変が強度となる.全周性の発赤,びらん,浮腫が著明である.その他の病原性大腸菌による出血性腸炎の内視鏡所見は左側大腸型と右側大腸型の2群に分かれた.症例数は左側結腸型が12例中10例と多かった.左側結腸型の内視鏡所見は縦走性びらんや浮腫であり,典型的な虚血性大腸炎と鑑別困難であった.

7)その他の食中毒菌による腸炎

著者: 林繁和 ,   神部隆吉 ,   家田秀明 ,   西尾浩志 ,   竹田泰史 ,   葛谷貞二 ,   児玉佳子

ページ範囲:P.365 - P.370

要旨 食中毒菌のうち腸炎ビブリオ,エロモナス,黄色ブドウ球菌による腸炎について大腸内視鏡所見を中心に述べた.腸炎ビブリオ腸炎では大腸の罹患率は全体に低く,Bauhin弁の腫大,びらん,終末回腸のびらんが高率にみられ,本症に特徴的所見であった.エロモナス腸炎は大腸の罹患率は全体に高く,なかでもS状結腸が最高で,病変は散在性,アフタ性,縦走性,輪状性,びまん性いずれもみられ,縦走性病変では虚血性大腸炎に類似した.ブドウ球菌腸炎のうち菌交代性以外では左側大腸ないし右側大腸にみられ,病変はびまん性ないし縦走性で,縦走性病変は右側大腸に限局するものもあるが虚血性大腸炎に類似した.エロモナス腸炎,ブドウ球菌腸炎は内視鏡所見からは他の感染性腸炎や虚血性大腸炎との鑑別は困難であった.

8)消化管結核

著者: 松川正明 ,   小林茂雄 ,   平塚伸 ,   幸田隆彦 ,   山本亘

ページ範囲:P.371 - P.378

要旨 消化管結核について腸結核を中心に述べた.結核の病原性はKatGとrpoVが大きく関与している.腸結核はX線検査が有効である.X線所見として帯状潰瘍または輪状潰瘍,潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯,変形(憩室様変形,狭小化),配列が不規則な小さな炎症性ポリープなどを指摘することにより腸結核の診断ができる.内視鏡所見ではびらん,輪状潰瘍,潰瘍緩痕萎縮帯がみられる.結核菌の証明は潰瘍部の生検を組織培養する.治療は三者併用療法を行う.腸結核に合併した大腸癌をみると,占居部位では右側結腸に,肉眼型ではびまん浸潤型が多い.癌部のX線所見では腸壁の狭小化とバリウムの付着が不良であった.

9)消化管梅毒

著者: 小林広幸 ,   渕上忠彦

ページ範囲:P.379 - P.384

要旨 消化管梅毒について自験例の形態学的特徴を中心にその臨床像を概説した.病変部位は本邦では胃が最も多く,一般にそのX線・内視鏡像は,胃前庭部に好発する不整な地図状の浅い潰瘍で,浮腫を伴い易出血性を呈する.これに加え,胃梅毒では自験例のような皮膚病変に類似した胃粘膜疹を伴うことがあり,鑑別診断上重要な所見と言える.一方,欧米では同性愛者における直腸梅毒の報告が多いが,本邦ではいまだまれな疾患である.その特徴は辺縁に硬結や隆起を伴う単発または多発性の潰瘍性病変とされるが,自験例の第2期梅毒の大腸の粘膜疹様病変とは異なっている.同性愛者にみられる病変の多くは,肛門性交にて損傷した直腸粘膜に梅毒菌が直接侵入して形成された第1期の原発巣が形態変化したものと考えられる.

2.真菌性感染症

1)カンジダ感染症

著者: 添田仁一 ,   幕内博康

ページ範囲:P.385 - P.388

要旨 カンジダは口腔,咽頭,消化管,皮膚,腟などの常在菌である.カンジダ感染症は重篤な基礎疾患を有し細胞性免疫能の低下した状態(AIDS,悪性疾患など)や副腎皮質ホルモン薬,免疫抑制剤などの投与を受けている症例などに日和見感染症として好発する.消化管カンジダ感染症としては食道カンジダ症が最も多く,胃,小腸がこれに次ぎ,大腸カンジダ症はまれである.消化管カンジダ症の診断には,内視鏡検査が鋭敏かつ特異性が高く有用である.有効な薬剤の早期投与により最近は予後良好な疾患であるが,診断・治療が遅れた場合カンジダ敗血症へ移行し重症化する可能性も高いため日常診療でもカンジダ感染症を念頭に入れておくことが重要である.

2)放線菌感染症(Abdominopelvic actinomycosis)

著者: 太田智之 ,   村上雅則 ,   折居裕 ,   斉藤裕輔 ,   高後裕

ページ範囲:P.389 - P.394

要旨 腹部放線菌症は口腔内常在菌であるActinomyces Israeliiが消化管粘膜から侵入し感染が成立する.特に最近では不妊器具(IUD)や魚骨が腸管穿通し本症を来す報告がある.臨床症状は一般的に腹痛,発熱など非特異的であるが腫瘤触知,瘻孔形成がみられることもある.画像診断では腸管壁外を主体に炎症性腫瘤を形成し,なおかつ炎症が腸管壁内にまで及ぶ所見を捉えることが重要であり,注腸X線検査,内視鏡,CTが有用である.鑑別疾患としては憩室炎,腸間膜脂肪織炎,びまん性浸潤性大腸癌,悪性リンパ腫,転移性大腸癌が挙げられる.確定診断は腫瘤内膿汁や組織から放線菌塊(Drüse)を証明することでなされるが困難なことも多い.治療は外科的切除に加えたペニシリンなどの抗生剤投与を行うことにより予後は良好である.

3.ウイルス性感染症

1)ヘルペスウイルス感染症

著者: 荒川丈夫 ,   山田義也 ,   門馬久美子 ,   吉田操 ,   榊信廣 ,   大橋健一

ページ範囲:P.395 - P.398

要旨 消化管のヘルペスウイルス感染症は,まれな疾患であって,食道を除いては,胃,十二指腸,大腸のヘルペス感染症の報告はかなり少ない.当院でも,食道のヘルペス感染症が最近25年間で,数例経験されているのみである.ヘルペス食道炎,食道潰瘍は,癌の末期などの免疫不全状態や,後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome; AIDS)などのimmunocompromised hostにみられる日和見感染症であることがほとんどであるが,免疫不全状態のない,immunocompetent hostの報告もある.

2)サイトメガロウィルス感染症

著者: 長嶋雄一 ,   飯田三雄 ,   平川克哉 ,   藤田穣 ,   松本啓志 ,   古賀秀樹 ,   武田昌治 ,   春間賢

ページ範囲:P.399 - P.403

要旨 消化管は,サイトメガロウィルス(CMV)感染症の好発臓器の1つである.従来,打ち抜き潰瘍がCMV消化管病変に特徴的な所見とされてきたが,自験例では食道から直腸まで大小様々な形態の潰瘍を呈し,多彩な病変が多発することが特徴と考えられた.CMVによる消化管感染症の診断は,生検で核内封入体を証明することでなされるが,治療方針の選択にはその他の検査を組み合わせて総合的に判断する必要がある.今後,臓器移植や骨髄移植,強力な化学療法の普及等に伴い,CMVによる消化管病変の増加が予測され,免疫能が低下している宿主においては常に本症を念頭に置いた検査が必要である.

4.寄生虫性感染症

1)ランブル鞭毛虫症

著者: 松本主之 ,   檜沢一興 ,   浅野光一 ,   望月祐一 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.405 - P.408

要旨 ランブル鞭毛虫には囊子型と栄養型があり,前者が経口感染し小腸で脱囊することで病原性を発揮する.臨床病型として,胃腸炎型,胆道型,全身型に大別されるが,無症候性キャリヤも存在する.胃腸型は絨毛上皮障害による吸収障害がその主たる病態と考えられている.消化管病変の組織像は比較的軽微で,軽度のリンパ球浸潤を伴うリンパ濾胞過形成にとどまるものが多く,X線・内視鏡所見でも十二指腸や上部小腸の軽度の粗糙粘膜やアフタ様病変を認めるのみである.したがって,本症が疑われる場合は,積極的に糞便,十二指腸液,十二指腸生検組織中の虫体を証明する必要がある.

2)イソスポーラ症

著者: 望月祐一 ,   松本主之 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.409 - P.414

要旨 イソスポーラ症の消化管病変について,自験例を含め文献的に考察した.本症は大量の腸管内腸液貯留のためX線検査による描出は不良になる傾向にあるが,発症数年以内の症例では小腸粘膜の浮腫やKerckring皺襞の腫大を認め,長期化に伴いKerckring皺襞の消失や粘膜の凹凸不整,粗大顆粒像を呈していた.十二指腸内視鏡所見では発症早期には粘膜の浮腫が中心で次第に粘膜の粗糙化から顆粒状,結節状へと進展しKerckring皺襞の消失を伴っていた.診断に関しては上部小腸,特に十二指腸粘膜において上記所見を拾い上げ,鑑別の中に本症を入れ,十分な臨床的情報とともに検体を提出することが重要である.

3)アメーバ性大腸炎―X線・内視鏡診断を主体に

著者: 牛尾恭輔 ,   川元健二 ,   岩下生久子 ,   飯沼元 ,   宮川国久 ,   森山紀之

ページ範囲:P.415 - P.427

要旨 アメーバ性大腸炎はEntamoeba histolytica囊子に汚染された食物,飲料水などの経口摂取による感染性腸炎に属する.診断は主に,内視鏡や注腸X線による粘膜面の画像診断,生検材料や糞便からの栄養型アメーバ原虫の検出,症状の推移,海外生活歴の有無,免疫低下を来す疾患の有無などにより,総合的に行われる.画像診断に際しては,急性活動期,慢性活動期,消退期,治癒期の各病期において,それぞれ病変の形態上での特徴像を把握しておくことが重要である.各病期における特徴的な所見について,X線・内視鏡診断を主体に述べた.

4)消化管アニサキス症

著者: 松本主之 ,   藤澤聖 ,   迫口直子 ,   檜沢一興 ,   酒井輝男 ,   木村豊 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.429 - P.436

要旨 アニサキス症はAnisakis亜科に属する線虫の幼虫による感染症である.幼虫は消化管壁に刺入して好酸球性蜂窩織炎ないし肉芽腫性腫瘤を形成するが,全身性アナフィラキシーを誘発することもある.食道から直腸にいたる全消化管に病変を来すが,胃の罹患が圧倒的に多い.胃アニサキス症は上部消化管内視鏡検査により虫体を確認し摘出で治療する.一方,腸アニサキス症は閉塞症状を呈し,腹部超音波検査での腸管壁肥厚と口側の拡張,および腹水の存在が診断に有用である.X線所見として限局性で潰瘍形成を伴わない栂指圧痕像ないし鋸歯像と腸管の伸展不良が特徴的で,浮腫が高度な部位に虫体が描出される.以上の特徴から本症の診断は容易である.

5)糞線虫症

著者: 金城福則 ,   座覇修 ,   平田哲生 ,   内間庸文

ページ範囲:P.437 - P.441

要旨 糞線虫症(strongyloidiasis)は糞線虫(Strongyloides stercoralis)によって起こる寄生虫感染症の1つである.糞線虫はヒトに経皮的に感染し,主に十二指腸や小腸上部に寄生する1~2mmの小さな線虫であり,わが国では亜熱帯地域に属する沖縄県を中心とする南西諸島が浸淫地である.診断には当教室で考案した普通寒天平板培地法が有用である.糞線虫感染者は無症候性ないし軽症の場合が多く,臨床上問題となることは少ないが,宿主の免疫能が低下した場合などには重症化し,死に至ることも少なくない.治療薬としてはチアベンダゾールやアイバメクチンが有用である.

6)その他の線虫性消化管感染症(回虫・鉤虫など)

著者: 川口実 ,   小熊一豪 ,   森安史典 ,   加藤智弘 ,   鴨井隆一 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.443 - P.448

要旨 われわれの経験した症例を主として回虫症と鉤虫症について述べた.わが国における消化管寄生虫は自然食ブームや海外旅行の増加などにより最近再び増加している.回虫はミミズ様の形態を呈し,長さ150~350mm,太さ2~6mmである.回虫症では腹痛,嘔気,嘔吐などの症状を呈するが特異的症状はなく,時に無症状のこともある.血液検査では好酸球増多,貧血を示すことはまれである,回虫症の診断は胃腸透視でその虫体を発見することが重要である.鉤虫は5~13mmの長さである.鉤虫は小腸粘膜に吸着し吸血するため,鉤虫症の主症状は貧血である.血液検査では鉄欠乏性貧血と好酸球増多を示す.原因不明の鉄欠乏性貧血や消化器症状を見たら,消化管寄生虫を考える必要がある.

7)腸管条虫症

著者: 多田正大

ページ範囲:P.449 - P.453

要旨 ヒトに寄生する多節条虫の種類は多いが,広節裂頭条虫,無鉤条虫などの大型条虫の感染によって,腹部不定愁訴が発現することがある.その診断は虫卵検査を行えば簡単に行えるが,画像診断を行う意義はその病態,特に条虫の小腸内寄生の状況を把握することである.X線検査の二重造影では描出は困難であり,圧迫法が効果をあげる.しかし単純に圧迫するのではなく,数秒間にわたって圧迫を継続していると,ふいに体節が視野に出現して識別できる.

8)日本住血吸虫症

著者: 大高雅彦 ,   藤野雅之 ,   小嶋祐一郎 ,   佐藤公 ,   久保克浩 ,   両角敦郎 ,   三澤綾子 ,   城崎輝之 ,   田野倉正臣 ,   飯野弥 ,   松本由朗 ,  

ページ範囲:P.454 - P.458

要旨 日本住血吸虫症は日本では,かつて山梨県甲府盆地,広島県片山地方,九州筑後川流域,関東利根川流域,静岡県沼津地方に限り流行した寄生虫疾患である.日本住血吸虫の感染後約4週間で発熱,血便,下痢を生じる.大腸病変として急性期では浮腫,出血,びらんのほか結節形成やポリープが特徴的と言われている.慢性期では内視鏡所見として不整形黄色斑,透見血管像の異常,褪色した平滑な粘膜を呈する.腸管内腔の狭小化を伴うものもある.黄色斑からの生検により虫卵の検出率が増加する.注腸検査所見はhaustraの消失や鉛管状変化を認め,緩解期の潰瘍性大腸炎の所見に類似する.慢性期日本住血吸虫症と大腸癌の因果関係を支持する所見はない.

ノート

性行為感染症(STD)の消化管病変

著者: 大川清孝 ,   青木哲哉 ,   追矢秀人 ,   後藤哲志 ,   吉田英樹 ,   阪上賀洋

ページ範囲:P.459 - P.462

要旨 STDの消化管病変はHIVの出現により頻度が増加し,種類も多彩となった.HIV感染や男性同性愛者であることがわかっている場合は,頻度の高い消化管病変を念頭に置き内視鏡を行う必要がある.HIV陽性者であればCD4数で日和見感染症をある程度予想することや混合感染が多いこと,男性同性愛者であればアメーバ腸炎が多いことやSTDの混合感染や再感染もあることに留意すべきである.HIV感染や男性同性愛者であることがわかっていない場合も,STDの消化管病変の内視鏡像を熟知していれば正しい診断は可能である.内視鏡像からHIV感染を推測することも可能である.

AIDS・ATL・その他の免疫不全状態における消化管感染症

著者: 山田義也 ,   門馬久美子 ,   吉田操 ,   榊信廣 ,   大橋健一

ページ範囲:P.463 - P.466

要旨 免疫不全による消化管感染症は,多くの場合が日和見感染症で,通常の消化管感染症と異なった病変や,同じ病原体が原因の感染症でも,免疫不全の原因疾患によって形態が異なることがある.免疫不全による消化管感染症が多くみられるのはAIDS,ATLをはじめ,移植後,化学療法後,癌の末期等のいろいろな状態がある.AIDSによるCMV感染症病変と,GVHDによるCMVの感染症病変とは形態が異なることが多い.

抗生物質投与下における消化管感染症

著者: 上野直嗣 ,   多田修治 ,   須古博信 ,   神尾多喜浩

ページ範囲:P.467 - P.470

要旨 抗生物質起因性腸炎にはClostridium difficile(以下Cd)が産生する毒素により発症すると考えられている偽膜性大腸炎,合成ペニシリン投与後にみられることが多い出血性腸炎,そしてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下MRSA)腸炎などがあるが,各疾患の症状,診断,治療法などの臨床的特徴について述べる.

輸入消化管感染症

著者: 相楽裕子

ページ範囲:P.471 - P.474

要旨 輸入消化管感染症は旅行者下痢症とチフス性疾患(腸チフス,パラチフス)に分けられる.前者は,発展途上国に到着後2~3日から帰国後およそ1~2週間以内に発症し,下痢のほか,悪心,嘔吐,腹痛,発熱,テネスムス,粘液または血便のうち少なくとも1つ以上を伴うものと考えてよい.細菌性のものが多く,世界的にみて最も頻度が高いのは毒素原性大腸菌であり,赤痢菌,コレラ菌などが含まれる.原虫ではランブル鞭毛虫が多い.我が国ではいずれもアジアでの感染が多い.旅行者下痢症の治療は対症療法と抗菌薬の初期治療である.チフス性疾患では菌確認後治療開始する.

主題症例

潰瘍性大腸炎との鑑別を要したプレジオモナス・シゲロイデス感染性腸炎の1例

著者: 本間照 ,   味岡洋一 ,   桑名謙治 ,   鈴木恒治 ,   鈴木裕 ,   摺木陽久 ,   松澤純 ,   米山靖 ,   佐々木俊哉 ,   阿部実 ,   渡辺英伸 ,   朝倉均

ページ範囲:P.475 - P.480

要旨 患者は25歳,男性.海外渡航歴はない.主訴は約1週間続く下痢,血便.発熱なく,血液検査上炎症反応は陰性.大腸内視鏡検査で横行結腸から下行結腸を中心として,発赤浮腫状の粘膜をびまん性に認めた.発赤は小区様構造に一致し,小区を区切る線状網目状に発赤がなく,一見メラノーシス様であった.発赤粘膜面には通常の陰窩開口部が保たれていた.びらん,潰瘍や膿性白点はみられなかった.便培養,腸粘膜の生検培養でPlesiomonas shigelloidesが分離同定され,プレジオモナス・シゲロイデス感染性腸炎と診断した.全経過約2週間で,抗生物質を使用せずに菌は陰性化し,症状も消失した.

健常人に孤発したクリプトスポリジウム症の1例

著者: 吉河康二 ,   山下勉 ,   那須眞示

ページ範囲:P.481 - P.486

要旨 クリプトスポリジウム症はヒトや動物に下痢を起こす原虫疾患であり,新興感染症として最近注目されている.本稿では,動物に接することにより感染したと思われる健常人孤発例を報告し,本症の疫学と診断法について簡単に述べた.本症の確定診断である便中オーシストの検出法は,特殊な検査ではあるが極めて簡便であり,水様性下痢を診た場合には積極的に試みることが集団感染の早期診断および二次感染予防のため重要である.

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欧文目次

ページ範囲:P.244 - P.245

書評「プラクティカルコロノスコピー 第2版」

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.258 - P.258

 大腸内視鏡検査(コロノスコピー)が始められたころ,誰が現在の状況を予想したであろうか.コロノスコピーによらず,数々のテクノロジーの進歩に伴う医療の変化には驚くばかりである.そして,1970年,ロンドンのセント・マーク病院でコロノスコピーを行ったことを思い出している.その器械は70cm,アングルは2方向に120°くらいしか曲がらず吸引も内蔵していない代物で,最新のビデオスコープと比べたらとても内視鏡とは呼べない性能しかなかったが,注腸造影で見落とされたS状結腸癌を発見するくらいの働きはしたのである.その後,ずっとましな機能を有する長いスコープを入手して,プッシュするだけの検査を行っていたが,帰国途中に,当時から既に高名な新谷博士の引き技と回転技に接し,目からウロコが落ちたことを鮮明に思い出す.

 本書の著者,岡本平次博士はその新谷博士の元へ留学され,その技術の粋を学びかつ盗み取って,帰国以来,コロノスコピー一筋に活躍を続けている,この道の超専門家であることはつとに知られている.当時,学会では1人法,新谷法の強力な推進者であるとともに,盲腸までの到達時間○分○秒,到達率○%という記録を更新することでわれわれを常に驚かせていた.たしかに,コロノスコピーは盲腸まで挿入できなければ話が始まらない.しかし,挿入することだけが目的ではなく,疾患と病変に応じて検査の目的が異なることが,コロノスコピーの難しさであり面白さであろう.従来のコロノスコピーの成書は,ややもすると技術あるいは疾患に偏重したものが多かったが,本書は実によく両者のバランスがとれていることが特徴である.

編集後記

著者: 斉藤裕輔

ページ範囲:P.488 - P.488

 本年の「胃と腸」増刊号は「消化管感染症」をテーマにお届けした.食道から始まり大腸に至る各臓器の感染性疾患について,診断の手順,画像の特徴,鑑別診断を中心に総論でまずまとめあげられている.さらに各論では比較的よくみられる疾患から,まれな疾患に至るまで,消化管の感染症のほとんどの疾患について網羅されており大変読みごたえのある「消化管感染症アトラス」とも呼べる一冊となっている(よくぞこれだけの疾患が一冊に集まったものである,と筆者も驚嘆している).国際化による新たな輸入感染症や,治療の発達による日和見感染,さらには食中毒による多数の患者の罹患など,消化管感染症の増加がみられ,また,以前と比べて多様化し,見直されている今日,疾患による好発部位,病変の形態などそれぞれの疾患の画像のポイントを頭に入れておくことは,治療に直結する診断が得られるため日常診療において大変有用である.もちろん病期により病変の形態が異なり,典型像を呈さないこともあるため,消化管の感染症の診断は画像だけでは困難であり,病歴などの臨床所見や血液,便などの検査,さらには病理検査や遺伝子検索などを総合して行われることは当然である.しかし,臨床症状から消化管感染症を疑い,画像が得られたなら,本号を片手に臨床・画像における類似性を参考にすることで効率の良い診断体系が構築され,本特集号は明日からの日常臨床に大いに役立つ一冊となるものと確信する.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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