今月の主題 Helicobacter pylori除菌に伴う問題点
主題研究
胃腺腫に対するH. Pylori除菌とその問題点
著者:
後藤田卓志1
近藤仁2
小田一郎1
蓮池典明1
神津隆弘1
小野裕之1
藤井隆広1
斉藤大三1
松田尚久1
住吉徹哉13
吉田茂昭4
下田忠和5
所属機関:
1国立がんセンター中央病院内視鏡部
2斗南病院消化器病センター
3札幌医科大学第4内科
4国立がんセンター東病院
5国立がんセンター中央病院臨床検査部病理
ページ範囲:P.569 - P.574
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要旨 胃腺腫において,H. pylori除菌による消失・縮小については賛否両論あり,現時点では一般的なコンセンサスを得るには至っていない.そこで,H. pylori除菌後に3年以上の長期の経過観察が可能であった25症例について肉眼的および組織学的変化とその粘液形質発現について検討した.13例(52%)で肉眼的な胃腺腫の消失または縮小傾向を認めた.このうち7例(28%)では組織学的にも胃腺腫の消失が確認された.一方,肉眼的な変化が認められるものの組織学的には胃腺腫の残存が証明された症例も6例(24%)あった.これらの粘液形質発現はすべて腸型形質を示していた.しかし,不変化群でも12例中10例が腸型形質であった.以上の結果は,除菌がある種の胃腺腫に対してその形態に影響を与えることを示す.しかし,除菌によって胃腺腫が直接影響を受けるのか,背景胃粘膜の変化による見かけ上の変化なのかは現段階では不明である.さらに,除菌によって腫瘍性病変がマスクされることによって早期の診断を困難にする可能性も考えられ,除菌後の内視鏡検査では背景の胃粘膜が変化していることを念頭に置いた慎重な検査が必要であろう.