今月の主題 Helicobacter pylori除菌に伴う問題点
主題研究
胃MALTリンパ腫における治療方針―分子生物学の立場から
著者:
土井俊彦1
遠藤久之1
平崎照士1
仁科智裕1
所属機関:
1国立病院四国がんセンター内科
ページ範囲:P.575 - P.582
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要旨 t(11:18)転座に伴うAPI2-MLTキメラ遺伝子の発見により胃MALTリンパ腫は新たな展開を認めている.しかし,この遺伝子異常は,MALTリンパ腫のone phenotypeを示し,H. pylori除菌療法抵抗性を意味している以外,予後,病態への関与についてはまだ明らかではない.今回,種々の分子生物学的マーカーを検索し,臨床経過との関係を検討した.胃MALTリンパ腫は,マーカー上,染色体異常を伴う群(染色体異常群:chromosome abnormal group; CAG)と染色体異常がなく非特異的指標(non specific marker)のみの異常を伴う症例(非染色体異常群:non chromosome abnormal group; NCAG)を認めた.前者は,除菌抵抗症例でありH. pylori抗原刺激非依存性と考えられる.NCAGも,通常他の悪性腫瘍で認められているように多数の分子マーカーに異常を認める症例では,除菌治療抵抗性でCAG群と同じ臨床病態を示す.しかし,NCAG群でも分子マーカー上異常がない症例は,よく除菌に反応した.分子生物学的なマーカーからみて,少なくとも除菌治療においてH. pylori抗原刺激非依存性と考えられるphenotypeについては,治療前層別化を行い,その取り扱いを考える必要があると考えられた.