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文献詳細

雑誌文献

胃と腸39巻5号

2004年04月発行

今月の主題 大腸腫瘍に対する拡大内視鏡観察―V型pit pattern診断の問題点

序説

大腸腫瘍に対する拡大内視鏡観察―V型pit pattern診断の問題点

著者: 田中信治1

所属機関: 1広島大学医学部広漠医療診察部

ページ範囲:P.743 - P.745

文献概要

 内視鏡機器の進歩に伴い,拡大観察機能が通常内視鏡の単なるオプションとなり,実体顕微鏡観察と同様の詳細なpit pattern診断が生体内でルーチン大腸内視鏡検査の延長線上で(ワンタッチ操作で)瞬時に容易に行うことが可能になってきた.いまや拡大観察は特殊な検査ではなく,“通常観察”→“色素撒布”→“ズームアップ”というスタンダードな内視鏡観察のごく一部と言うべきである.拡大観察に対する誤解・理解不足や大腸内視鏡技術の未熟さから,pit pattern診断に抵抗を示す内視鏡医もまだいるが,高画素電子内視鏡の登場による高解像画像から拡大観察への発展は極めて自然な流れであり,もはや,腫瘍であれ炎症であれ,pit pattern診断抜きに“大腸内視鏡診断学”を語れない時代に突入しようとしている.大腸腫瘍の拡大観察によるpit pattern診断普及の妨げの原因の1つであった拡大内視鏡の操作性の悪さは現在完全に改善されており,通常内視鏡と操作性に全く差がない.他の原因として,複数のpit pattern分類が存在し理解を難しくしていた点が挙げられる.これまで広く臨床で用いられてきたのは工藤ら1)2)の分類(Fig. 1上段)であるが,同様の分類を鶴田ら3)も提唱しており(Fig. 1上段),V型亜分類の呼称が微妙に異なることからpit pattern初学者を混乱させていた.工藤分類と鶴田分類は,微妙な解釈の差はあるもののほぼ同じ概念で同じものを表現しており,その呼称の統一が強く望まれていた.このような中,2001年末に発刊された「早期大腸癌」座談会4)5)の中で,工藤・鶴田の合意が得られ,大腸腫瘍のpit pattern分類の呼称が統一された(Fig. 1中段,Fig. 2).この統一された分類“工藤・鶴田分類”が登場し,小生は大腸腫瘍のpit pattern分類が非常にわかりやすくなったと思うのであるが,この分類自体がまだまだ複雑すぎるという意見もある.その問題は今後の課題として,ここでは本特集号の主題である“V型pit pattern診断の問題点”について述べたい.

 V型pit patternは種々の程度の不整なpit patternで主に癌のpit patternであるが,“工藤・鶴田分類”ではVI型とVN型に細分類される6).VI型の“I”はirregularの頭文字“I”であり,III~IV型pit構造が不整・大小不同・配列の乱れなどのirregularityを呈したもので,主として粘膜内癌の指標である.一方,VN型の“N”はnon-structureの頭文字“N”であり,無構造を呈する所見(腺管・被蓋上皮の破壊,間質のdesmoplastic reactionの露呈に基づく変化)が出現したもので,sm浸潤癌の指標である.問題は,現在,VI型とVN型pit patternの診断基準が各内視鏡医によって微妙に異なっていることである.具体的には,不整なpitの間隙にどの程度無構造様所見が出現したものをVN型pitと診断するかが問題になっている.べっとりとした白苔が付着した全くの無構造状態はVN型pit patternの終末像であり,このような所見は,わざわざ拡大観察しなくても通常観察で十分診断可能である.実際の拡大観察によるVN型pit patternには種々の程度が存在する.すなわち,不整pitの間隙にどのくらい無構造様所見が出現していれば(pit構造がある程度残存しても)VN型pit patternと診断するかが問題である6).Fig. 2aはVI型pit patternを呈する0-IIc型の粘膜内癌であるが,pitの辺縁が不整で配列や大きさに乱れを認める.Fig. 2cはわれわれがVN型pit patternと診断したIIa+IIc型sm massive癌であるが,VI型pitの間隙に微小な無構造様所見が多数出現している.このような,微小なVN型pit patternは通常観察では診断できず,拡大観察が有用な症例であると考える.しかし,かなり荒廃した無構造所見でないとVN型pit patternとすべきでないと言う学派も存在し学会や出版物で統一がなされていないため,現在なおV型pit pattern診断に若干の混乱と理解の難しさを残している6).VI型とVN型pit patternの境界線をどこに引くかは,現在,厚生労働省がん研究助成金による工藤班「大腸腫瘍性病変における腺口構造の診断学的意義の解明に関する研究」で,その統一をめざして詳細な解析・検討が進行中であり,その一端が本特集号でも示されることとなっている.本号で,V型pit pattern診断の問題点が明らかになり読者の理解を深めるとともに,工藤班データの解説や座談会を通してその問題点が解決されることを期待したい.

参考文献

1)Kudo S, Tamura S, Nakajima T, et al. Diagnosis of colorectal tumorous lesions by magnifying endoscopy. Gastrointest Endosc 44 : 8-14, 1996
2)工藤進英.陥凹型早期大腸癌―診断と治療の新しい展開.日本メディカルセンター, 1996
3)河野弘志,鶴田修,宮崎史郎,他.pit patternからみた大腸表面型腫瘍の深達度の推定. 胃と腸 31 : 1353-1362, 1996
4)田中信治,寺井毅,今井靖,他.座談会: V型pit pattern診断の臨床的意義と問題点.早期大腸癌 5 : 595-613, 2001
5)田中信治.第Ⅳ章 診断.拡大内視鏡診断.武藤徹一郎(監),小西文雄,松井敏幸,藤盛孝博(編).テキスト大腸癌.日本メディカルセンター, pp 147-153, 2002
6)田中信治,岡志郎.大腸腫瘍のpit pattern分類.田中信治(編).基本からわかる大腸疾患の精密内視鏡診断.中山書店,pp 35-39, 2003
7)藤井隆広,松田尚久,神津隆弘,他.V型pit patternの診断とその臨床的意義(4)拡大内視鏡による臨床分類―invasive patternの診断基準.早期大腸癌 5 : 541-548, 2001

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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