胃癌深達度の診断―主として内視鏡診断客観化の立場から
著者:
広門一孝
,
岡部治弥
,
吉田隆亮
,
増田信生
,
八尾恒良
,
古賀安彦
,
堀之内幸士
,
三井久三
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谷啓輔
,
上月武志
,
崎村正弘
,
藤原侃
,
本多武彦
,
為近義夫
,
岡田安浩
,
坪井秀雄
,
坂本英隆
,
新関寛
ページ範囲:P.327 - P.337
Ⅰ.はじめに
近年わが国では胃疾患の診断学が非常に進歩して,癌浸潤が胃粘膜内(m)ないし粘膜下層内(sm)にとどまる早期胃癌1)2)が,術前の臨床診断の場でかなり的確に診断されるようになった.まずこの早期胃癌という語について考えてみよう.定義から明らかなように,もともとそれは癌の深部浸潤の程度(以下,深達度と呼ぶ)という大きな素要を含んでいた.すなわち早期胃癌の診断は良・悪性の診断と深達度の診断との2つの面から成り立っていたわけである.X線や内視鏡による早期胃癌の診断に関する現在までの研究では,良・悪性の診断に重きが置かれていたようで,事実この面では既に相当の成果が得られている.一方,深達度の診断という面をクローズアップしてみると,必ずしも十分な成績とは言い難いのが現状で,早期胃癌を進展胃癌と,或いは進展胃癌を早期胃癌と術前には誤診して,のちにほぞを噛む思いがすることも決してまれではない.また,早期胃癌と正しく診断したとしても,癌浸潤が粘膜内にとどまっているのか,或いは粘膜下層にまで及んでいるのかという点になると,その決定には更に困難が感じられる.このことは進展胃癌において深達度が固有筋層(pm)か漿膜(ss)かという場合にもまったく同様である.この深達度の診断は,それが患者の予後に密接な関連を有するという意味において極めて重要な問題であるにも拘らず,良・悪性の診断に比しやや立ち遅れの感が否めなかったが,1965年奥田3)はその重要性に着目して内視鏡による深達度診断の指標を求めんとし,その後も精力的な研究を続けている4)5).
以来,2,3の研究者6)7)8)がこの問題に取組んでいるが,昨秋の松本における消化器・内視鏡合同シンポジウム9)にこの主題が取上げられたことから,広くわが国の研究者の注目を集め,今後の研究の1つの大きな目標となるものと思われる.
われわれは先に,胃カメラ診断の分野に計量診断10)11)12)の思想を導入せんという立揚から,良・悪性の鑑別診断の問題を取上げて,胃カメラ所見が織りなすパターンの数量化(客観化)を試み,当時としては一応満足すべき成績を得て,同様の手法が胃癌の深達度の診断,或いは潰瘍の予後の推定などに導入され得る可能性のあることを指摘した13)14).そして,遅ればせながら深達度診断の問題についても,それをできるだけ客観化しようという姿勢で検討を加えてきた.今回は客観化の出発点として,まず内視鏡診断の立場から,現在までのわれわれの深達度診断の現状を分析し,深達度診断の指標についても検討を加え,かつ客観化の問題に触れてみたい.