文献詳細
今月の主題 稀な胃病変
胃の寄生虫性肉芽腫・胃アニサキス症およびアニサキス様幼虫について
著者: 飯野治彦1 富岡武1 赤岩二郎2 望月秋一3 宗典郎4
所属機関: 1北九州市立若松病院内科 2北九州市立若松病院外科 3北九州市八幡区 4北九州市戸畑共立病院
ページ範囲:P.601 - P.608
文献概要
胃の寄生虫性肉芽腫とは,寄生虫が胃壁内に侵入し,特有の好酸球性肉芽腫を形成する疾患を言い,その寄生虫がAnisakis様幼虫であった時に,胃アニサキス症(Anisakiasis)と称するが,まず今迄の本症研究の歴史を極く簡単に述べてみたい.
1947年Venek1)が好酸球肉芽腫を病理組織学的に研索し,胃壁内のそれは,軟部および骨組織のものとは差異のある事を報告し,1955年McCuneら2)Tooleら3)は,胃壁内好酸球性肉芽腫を,びまん浸潤型と,限局性肉芽腫とに分類した.
本邦においても中馬ら4)以来,胃好酸球性肉芽腫の多数の報告があり,そのうち組織検査で肉芽腫の中に寄生虫性異物を認めるものが相当に含まれており,私共も第1例を昭和37年に発表した5).脇田6),遠城寺7)は,寄生虫体およびその断片を有する胃好酸球性肉芽腫は,すべて粘膜下層を中心とする限局性肉芽腫(膿瘍形成限局型と称している)に属することを報告し,胃寄生虫性肉芽腫の病理組織学的所見を記載している(後述).
ところがその虫体の多くが変性ないし崩壊していたためか,種の同定が不充分なものが多いようであった.1960年にVan Thie8)9)がオランダにおいて急性腹症を呈した患者の腸からアニサキス様幼虫を発見したのを契機に,本邦でも大鶴10)~12),浅見13)14),吉村15)16),脇田6)らが腸並びに胃壁などから新鮮な虫体を検出して,これをアニサキス様幼虫と同定した.さらにアニサキスの生活史・構造並びに感染実験等の報告が相次ぎ14)17)18),急激に本症の解明が進歩した.
ところが最近では胃寄生虫性肉芽腫はすなわちこれアニサキスないし胃アニサキス症と簡単に称する傾向も伺えるが,これについては慎重でなければならない.吉村16)は,回幼虫・回成虫・顎口虫・マンソン孤虫・糞線虫幼虫・不明の幼虫によっても同様の病変が起こることを警告している.
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