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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸40巻1号

2005年01月発行

雑誌目次

今月の主題 胃癌の時代的変遷と将来展望 序説

胃癌の時代的変遷と将来展望

著者: 多田正大

ページ範囲:P.9 - P.10

胃癌の時代的変遷を知る意味

 「胃と腸」誌も本号で節目の40巻を迎えることになった.本誌は究極の消化管形態診断学を目標にする高い志で刊行されたが,すでに星霜39年間を経たことになる.40巻1号という節目の号としての主題を企画するにあたって,「胃癌の時代的変遷」をテーマの柱に取り上げたことは意義深い.「胃と腸」は胃癌研究を端緒にした月刊誌であり,原点に回帰することはそれなりに意味がある.消化器癌では大腸癌が増加しており注目されているものの,やはり胃癌患者数,死亡数は突出して多い.食道,小腸,大腸などの消化管診断を目標にする臨床医,病理医にとっても,胃癌診断を基礎に今日の診断学が確立された経緯がある.1962年に提唱された早期胃癌肉眼分類を基礎に,他臓器でも共通言語となる分類が完成した経緯がある.その意味でも40年目の節目に入る本号において,胃癌に対するわれわれの蘊蓄を傾ける絶好のテーマが設定されたことは意義深い.

主題

胃癌の時代的変遷―診断の立場から

著者: 渕上忠彦

ページ範囲:P.11 - P.17

要旨 診断の立場から見た胃癌の時代的変遷とは,画像でどのような癌がとらえられるようになったかの進歩の歴史である.「胃と腸」誌の主題論文を中心として,永遠のテーマと思われるより小さな胃癌(微小胃癌),より平坦な胃癌(IIb型癌)の診断,linitis plastica型癌の早期診断を取り上げ,X線検査,内視鏡検査による診断の進歩をたどった.①微小胃癌の診断は,分化型では目覚ましい進歩を遂げほぼ限界に達していると思われるが,未分化型では課題が残されている.②IIb型胃癌の定義は,研究者により多少の異なりはあるが,凹凸はないが小区像に変化を来している病変,色調変化を伴うものは診断可能となってきている.ただし,小区像に全く変化がなく,色調差のない病変の診断はいまだ困難である.③linitis plastica型癌は,その初期像がほぼ明らかにされ長期生存例も増えているが,進展様式の解明が残された課題である.

胃癌の時代的変遷―疫学の立場から

著者: 津熊秀明 ,   味木和喜子 ,   大島明

ページ範囲:P.19 - P.26

要旨 わが国の胃癌の年次動向について述べた.胃癌年齢調整死亡率は1960年以降一貫して減少した.年齢調整罹患率も,全国値推計が始まった1975年以降一貫して減少した.1970年代の後半から年齢調整罹患率と死亡率の年次推移に乖離が観察された.胃癌罹患率は,同じ年齢階級でも最近生まれの者ほど減少していた.Laurenのintestinal typeの胃癌年齢調整罹患率が減少傾向を示し,diffuse typeは横ばいと報告されていた.大阪府がん登録によれば,胃癌の5年相対生存率は28%(1975~1977年診断)から49%(1993~1995年診断)へと向上した.生存率の向上には,早期診断の進歩と,“限局”と“領域”患者に対する治療法の進歩が寄与したが,1980年代以降は早期診断の普及への依存が大きかった.内視鏡切除を含む手術割合は,最近10年では75%前後で一定であったが,化学療法の実施割合は減少した.

病理学的にみた日本人胃癌の時代的変遷

著者: 谷瑞希 ,   下田忠和 ,   中西幸浩 ,   落合淳志 ,   谷口浩和 ,   笹子三津留 ,   後藤田卓志 ,   斉藤大三

ページ範囲:P.27 - P.36

要旨 国立がんセンター中央病院開院以来今まで施行された13,731症例を解析した.その結果,早期に発見される胃癌(T1)症例が増え,その中で高齢者の胃癌(特に分化型)が増加していた.さらに時代とともに前庭部主体であった胃癌が体中部主体に変わってきていること,また腫瘍径が小さくなっていることがわかった.これは平均余命との関連や健診の普及および診断技術の向上と大きく関連があるものと思われる.また,近年の胃癌症例では以前の胃癌と比べ低分化型が多くなっていることから,Helicobacter pylori感染との関連や食生活などの生活環境の変化が要因となっているものと思われる.以上から今後日本人の胃癌は1960年代や1970年代に多くみられたような大きくて,進行した胃癌は減少すると考えられる.しかし一時的に高齢者における分化型の胃癌が増える一方,その後は若年傾向および低分化型腺癌の増加傾向に進むものと予想される.このことを診断および治療に今後生かしていく必要があると思われる.

胃癌診断の現況と将来―放射線診断(デジタルX線診断・CT診断)

著者: 飯沼元 ,   富松英人 ,   斎藤博 ,   村松幸男 ,   森山紀之 ,   前田哲雄 ,   宮川国久 ,   若尾文彦 ,   佐竹光夫 ,   荒井保明

ページ範囲:P.37 - P.47

要旨 1990年代における画像工学の進歩により医用画像のデジタル化が急速に進行し,消化管造影検査においても高解像度のCCDカメラを用いたdigital radiography(CCD-DR)によりデジタル化が達成され急速に普及している.さらに新しいデジタルX線装置として低線量透視が可能なflat panel detector(FPD)を用いたDR(FPD-DR)が開発され,実際の胃癌X線診断に応用されるようになった.一方,1990年代後半に登場したmulti-detector row CT(MDCT)により革命的なCT検査の効率化と画質の改善が達成され,胃癌術前診断においても転移巣の診断のみならず,原発巣の新しい表示法としてCT三次元診断が試みられるようになった.今後,こうした新しい診断技術を積極的に取り入れ,効果的かつ効率的,さらに標準的な胃癌X線診断システムの構築が期待される.

早期胃癌診断の現況と将来―内視鏡の立場から―拡大内視鏡と切開・剥離法は早期胃癌診断をどう変えたか?

著者: 八尾建史 ,   宗祐人 ,   菊池陽介 ,   長浜孝 ,   松井敏幸 ,   八尾恒良 ,   田辺寛 ,   高木靖寛 ,   池田圭祐 ,   原岡誠司 ,   岩下明徳

ページ範囲:P.49 - P.64

要旨 目的:当科における早期胃癌の内視鏡診断の最新の現況を求めた.対象と方法:拡大内視鏡診断と内視鏡的切開・剥離法が導入され技術的に最も安定した最近の1年間に診断治療された早期胃癌97病変を対象として以下の項目について検討した.①通常内視鏡で悪性と診断できない非典型的な癌の頻度と特徴,②内視鏡による深達度診断能,③ESD術前の内視鏡による境界診断能.成績:①非典型例の頻度は15%であった.非典型例の特徴は,微小癌,IIb,凹凸や色調変化が少ないIIaや境界部で蚕食像を読影できないIIcであった.これらの組織型はすべて分化型癌であり,拡大内視鏡により悪性と診断可能であった.②については,正診率は95%と高く,実際の臨床の治療法の選択は適切に行われていた.③については,通常内視鏡で境界が診断困難な病変は13例(18%)であった.境界診断困難病変すべてに対し,拡大内視鏡診断が施行されており,11例(15%)で全周にわたり境界診断が可能であった.しかし拡大内視鏡を用いても残りの2例(3%),すなわち広いIIa集簇型に随伴したIIb面の全周にたる境界診断には限界があった.結論:切開・剥離法の導入と内視鏡的粘膜切除術の適応拡大により多彩な病変を診断する必要が生じていた.従来通常内視鏡で診断が不可能であった単独IIbや微小癌,随伴IIbの診断に,微小血管構築像に基づく新しい拡大内視鏡診断法は大きく寄与していた.

胃癌診断の現況と将来―超音波内視鏡検査

著者: 芳野純治 ,   乾和郎 ,   若林貴夫 ,   奥嶋一武 ,   小林隆 ,   三好広尚 ,   中村雄太 ,   加藤芳理 ,   三浦正剛 ,   神谷直樹

ページ範囲:P.65 - P.77

要旨 超音波内視鏡検査による胃癌診断の進歩には,機器の開発と高周波数化による解像度の向上が大きな役割を果たしてきた.画像が鮮明に描出されることにより,胃壁は従来の5層構造からより多層に観察されようになった.粘膜筋板が描出されることもある.また,粘膜筋板から約500μm以深まで粘膜下層内へ浸潤している例ではSM癌と診断できる.一方,深達度診断に対する診断基準は1990年初めには現在の基準が作成され,現在も用いられている.これには癌巣内潰瘍と癌組織との鑑別が依然として困難なことによる.三次元超音波内視鏡による新しい超音波機能は新たな診断学の発展の可能性を有している.

胃癌治療の現況と将来―内視鏡治療

著者: 小山恒男 ,   宮田佳典 ,   友利彰寿 ,   堀田欣一 ,   森田周子 ,   田中雅樹 ,   米湊健 ,   竹内学

ページ範囲:P.79 - P.83

要旨 胃癌の内視鏡治療はポリペクトミーで始まった.しかし,胃癌の大部分を占める平坦陥凹型癌にはスネアリングが不可能であった.そこで,レーザー等の破壊法が開発された.しかし,破壊法では病理学的確証が得られない.平坦陥凹型への挑戦が始まった.様々な努力が積み重ねられ EMR(endoscopic mucosal resection)時代には平坦陥凹型癌をも内視鏡的に切除できるようになった.だが,一括切除率は低く,局所再発率が高かった.大きく・正確に切除できる新たな治療法が必要であった.様々なend knivesが開発されESD(endoscopic submucosal dissection)が確立された.ESD時代の今,内視鏡医は任意の範囲を切除できるようになった.こうなると側方進展範囲の診断が重要な意味を持つようになる.診断と治療は内視鏡医の両輪である.内視鏡医の新たな挑戦は今日も続いている.

胃癌治療の現況と将来―外科治療

著者: 磨伊正義 ,   渡辺美智夫 ,   表和彦 ,   安本和生 ,   高橋豊 ,   源利成

ページ範囲:P.84 - P.93

要旨 従来の胃癌イコールD2の広範囲胃切除術という時代から,胃癌治療も内視鏡治療を含めた縮小手術,そして個別化の時代に入ってきた.この非侵襲的治療は,大きな変貌を遂げ,術後のQOLの改善にも大きく貢献しつつある.2001年には日本胃癌学会は胃癌治療ガイドラインを発行し,その中には胃癌の進行度に合わせた治療のいくつかのオプションが示された.特に早期胃癌の治療に対しては,EMR(endoscopic mucosal resection)や縮小手術(D1+α,D1+β),神経保存胃切除術,定型手術の適応が示された.最近早期胃癌に対して腹腔鏡下胃局所切除や腹腔鏡補助下幽門側胃切除術の手技が導入され,良好な成績を示している.現段階ではこれらの内視鏡下手術は,ガイドラインでは臨床研究に位置づけされているが,今後腹腔鏡手術と開腹手術の比較対照試験で安全性,メリット,根治性が確認されれば近い将来内視鏡下手術が広く受け入れられるものと期待される.

胃癌に対する化学療法,集学的治療の現状と将来

著者: 中島聰總 ,   山口俊晴 ,   大山繁和 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.94 - P.104

要旨 西欧諸国とわが国の研究を対照させながら,胃癌に対する化学療法,集学的治療の現状をreviewした.西欧における進行胃癌に対する化学療法では1979年のFAM療法以来,FAMTX,EAP,ELF,PELF,ECF,DCFなどの治療法が標準治療として検討されてきたが,現時点ではECFまたはDCFが標準治療とみなされている.他方わが国ではS-1,Taxane,CPT-11などの新しい薬剤を中心に高い奏効率と生存期間の延長が報告されたが,これらのregimen相互間の評価は今後の検討に委ねられている.いずれはglobal standardをめざして,西欧とわが国のregimenの比較対照試験が必要である.これらの臨床試験を反映して術前化学療法も高い奏効率が報告されているが,今後延命効果からみた評価が必要である.術後補助化学療法として,Macdonaldらの化学放射線療法の有意の延命効果が報告されたが,これをわが国の標準治療として導入するには種々の問題点がある.

主題研究

Helicobacter pyloriと胃癌

著者: 東健

ページ範囲:P.105 - P.111

要旨 H.pyloriが胃粘膜上皮細胞に接着すると,4型分泌機構がH.pyloriの細胞膜から上皮細胞膜へ針をさすように突き刺さり,その内腔を通して病原因子CagAがH.pyloriから胃粘膜上皮細胞内へと注入される.上皮細胞内に注入されたCagAは上皮内でチロシンリン酸化を受け,チロシンリン酸化されたCagAが,細胞の増殖や分化に重要な役割を担う脱リン酸化酵素Srchomology phosphatase-2(SHP-2)と結合することが認められた.また,CagAには分子多型が存在し,東アジア型CagAを有するH.pylori感染はSHP-2との強い結合を示し,胃粘膜萎縮および胃発癌に関与することが考えられた.

センチネルリンパ節生検による新しい早期胃癌治療への取り組み―術中リンパ節転移陰性診断の意義

著者: 大谷吉秀 ,   北川雄光 ,   久保田哲朗 ,   吉田昌 ,   才川義朗 ,   赤津友佳子 ,   高橋常浩 ,   杉野吉則 ,   亀山香織 ,   向井萬起男 ,   熊井浩一郎 ,   久保敦司 ,   北島政樹

ページ範囲:P.112 - P.118

要旨 早期胃癌症例の増加により,より術後QOLを重視した治療法が選択される機会が増加している.早期胃癌の中でもリンパ節転移を有する約10%の症例を高い精度の方法で選別することで,より多くの患者がQOLに視点を置いた治療の恩恵を受けることができる.術中sentinel node(SN)生検は,腫瘍から最初のリンパ流を受けるリンパ節に微小転移が初発するという概念に基づいて,術中リンパ節生検を行ってリンパ節転移診断を行うというものである.SN生検が有用であるとする臨床経験の報告は少なくないが,一般臨床に用いるためには,より普遍性が高く臨床応用可能な方法の確立が求められる.現在2つの臨床試験が進行中であり,今後の展開が期待される.

座談会

これからの胃癌の診断と治療

著者: 渡辺英伸 ,   牛尾恭輔 ,   吉田茂昭 ,   熊井浩一郎 ,   愛甲孝 ,   山口俊晴 ,   前原喜彦 ,   北島政樹 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.119 - P.138

北島(司会) 先生方,お忙しいところをお集まりいただきましてありがとうございます.今日は私と北里大学の西元寺教授と2人でこの座談会の司会をさせていただきます.2005年の5月に私と西元寺先生が第6回国際胃癌学会,同時に第77回の日本胃癌学会総会を横浜で会長として開催するということで,司会を仰せつかったものと思っております.本日,時代的変遷をふまえた胃癌の診断と治療の現況と将来像,これについてお話しいただくわけですが,胃癌という日本における最もポピュラー,と言っては何ですが,頻度的にも多くそして診断・治療で外国に対して最も日本が優れている分野であるこのテーマで本日は座談会を進めさせていただくことになっております.温故知新と言いますか,古いものを知って,新しいものを求めていく,これが非常に重要なことではないかと思います.まずはじめに,渡辺先生に胃癌の時代的変遷をお話しいただきます.渡辺先生は病理学者でありますが,診断面,それから治療面,こういうものを総括して胃癌をとらえてこられたということで,まず時代的変遷をふまえた胃癌の診断と治療について言及していただきまして,それをベースに座談会を進めていきたいと思います.診断,疫学,病理に関しては西元寺先生に司会をしていただき,その次に治療あるいは個別化,これは私あるいは皆さんと一緒に議論していく.最後に西元寺先生にまとめていただく.このような時間的なプロセスで進めさせていただきたいと思います.どうぞよろしくお願いいたします.それでは渡辺先生,お願いいたします.

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欧文目次

ページ範囲:P.5 - P.5

編集後記

著者: 牛尾恭輔

ページ範囲:P.140 - P.140

 写真と図版を多くして,視覚的な編集に重点を置く本誌「胃と腸」としては,画像・写真が少ない特集号となった.しかし,中身は濃い.胃癌に対する画像診断,疫学,内視鏡治療の変遷,化学療法,外科療法に温故知新が詰まっている.消化器病学の進歩の成果が,臨床医家に理解されやすいように書かれている.

 わが国で初めて,他の学会に先駆けて,学会による治療方針のガイドライン(2001年)が作成されたのも,胃癌についてであり,標準化とともに胃癌の治療も個別化の時代に入って来つつある.「Helicobacter pylori と胃癌」の関連についても,分子生物学的な解析が行われ,少しずつ明らかにされてきている.ここにも温故知新がうかがえる.ところで,最近,温故知新から生まれて,より積極的でより行動的な温故創新という用語が,注目を浴びている.胃癌の歴史は,診断と治療の原点であり,教師でもある.またわれわれは医学の継続性という道の中に身を置いている.医学の継続性を常に考えながら,できればそこから1つでもよいから,新しい創新への階段を昇っていきたいものである.本特集号が,その糧になれば幸いである.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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