Helicobacter pylori除菌とEMR後の異時性多発癌のリスク
著者:
加藤元嗣
,
中川学
,
早川敏文
,
宮崎広亀
,
清水勇一
,
吉田武史
,
廣田ジョージョ
,
幡有
,
小野雄二
,
小野尚子
,
横山朗子
,
中井義仁
,
森康明
,
浅香正博
,
中川宗一
ページ範囲:P.1639 - P.1645
要旨 胃癌はH. pylori感染に伴う慢性炎症を背景として発生し,両者は密接に関連している.そのため,H. pylori除菌に胃癌の予防効果が期待されている.各国のH. pylori感染の治療ガイドラインにおいて,一次癌および二次癌の予防として慢性胃炎および早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術後胃が除菌の適応疾患とされている.しかし,スナネズミを用いた動物実験では,H. pylori除菌が胃癌を予防することが証明されているが,臨床における前向き試験ではまだ明確な結論は出ていない.胃癌の内視鏡的切除後の経過観察中に,切除した部位とは別の部位に二次癌を認めることがあるが,H. pylori除菌が二次癌の発症を予防できるか検証した.わが国で行われた後ろ向き研究では,早期胃癌の内視鏡的切除例のうちH. pylori除菌群での発現率は年0.86%で,非除菌群は年2.9%と有意差を認めた.また,二次癌に対する介入試験の成績では,平均5年の経過観察で非除菌群67例のうち10例(15%)に二次胃癌の発現を認め,除菌群65例では二次癌の発現を認めなかったと報告された.短期間の経過観察中にH. pylori除菌が新たな胃癌の発生を抑制したとは考え難く,この成績はH. pylori除菌が二次癌の発育進展を抑えて内視鏡で発見される時期を遅らせていると考えられる.現在この試験の追試が多施設共同研究として大規模に行われており,その結果を待ちたい.