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文献詳細

雑誌文献

胃と腸40巻12号

2005年11月発行

文献概要

これで学んだ画像診断

食道びらんのTB-I二重染色から始まった粘膜癌の診断

著者: 吉田操1

所属機関: 1都立墨東病院

ページ範囲:P.1708 - P.1709

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食道びらんの二重染色

 これは,びらん型食道炎の急性増悪を生じた際に患者さんにお願いして,急性期から治癒期に至るまでの間,毎週内視鏡観察を行い,トルイジンブルー・ヨード二重染色(toluidine blue-iodine staining ; TB-I二重染色法)を用いて撮影した写真で,1977年ころのものです.もちろんファイバースコープの写真です.通常観察では,発赤してわずかに陥凹した“びらん”が主体で,中心部に白苔のある典型的なびらん型食道炎でした(Fig. 1a).二重染色をすると,通常の観察で発赤陥凹を示す“びらん”部分は白色の不染帯を形成,中心部の白苔はトルイジンブルー陽性の青い染色領域を形成しました(Fig. 1b).一番外側はヨードで染まり,茶色を示しています.白色領域は浅い“びらん”,青い部分は深い“びらん”あるいは潰瘍,そして茶色の部分は正常の食道粘膜を予想していました.そこで,それぞれの染色領域から狙撃生検を行い,組織所見と比較検討しました.予想に反して,“びらん”と思っていた白色領域には薄い上皮があり,再生上皮と考えられました(Fig. 2).この上皮は,病巣の辺縁で厚く,中心に向かうほど薄いこともわかりました.青色の部分は肉芽組織で,予想どおりの所見でした.辺縁部の茶色の部分には重層扁平上皮がありました.しかし,上皮内や粘膜固有層に炎症のある部分の粘膜はヨードに対する染色性は不良で,時間の経過とともに炎症所見が薄れ,良く染まるようになりました.白色の領域は“びらん”の辺縁から始まり,治療がうまくできていると,急速に病巣中心部に向かって伸展しました.青く染まる肉芽組織の領域は,はじめは広く,治癒の進行とともに再生上皮に取って代わられ,急速に縮小し,消失することがわかりました.上皮の欠損の広い病巣では,再生上皮の発達とともに肉芽組織はいくつかに分割され,次第に小さくなり消失します.また,白色の再生上皮は正常粘膜との境界部分からヨードに対する染色性を獲得,内部に向かって染色領域が伸展し,白色に染まる再生上皮領域は外側から中心部に向かって収縮,最後にはいわゆる瘢痕を形成することもわかりました.この治癒過程は食道に発生した,もっと組織欠損の深い潰瘍においても同一でした.当時,食道炎の“びらん”に関する論文を読むと,“びらん”の生検であるのに上皮を検出するという,内視鏡所見と生検組織診断との不一致を指摘するものが多数あります.二重染色所見と生検組織所見を比較検討した結果,再生上皮に関する内視鏡診断の不備がその原因であることがよくわかりました.

 食道粘膜上皮の病態が色素を用いることで,色調・形態の変化として描出できました.幼弱な再生上皮が出現し,次第に成熟してびらん・潰瘍病変が治癒する経過が手に取るように内視鏡所見から評価できたのです.上皮の機能を形態の変化として描き出せることがわかり,とても感動したことは今でも忘れられません.

参考文献

1)吉田操.色素内視鏡検査を用いた食道病変の微細観察に関する研究.Gastroenterol Endosc 23 : 1691-1703, 1981
2)Yoshida M. Double Staining Method. In Endo M, Ide H(ed ). Endoscopic Staininga in Early Diagnosis of Esophageal Cancer. Japan Scientific Societies Press, Tokyo, pp 13-21, 1991
3)門馬久美子,吉田操,山田義也,他.食道粘膜癌の内視鏡診断.胃と腸 29 : 327-340, 1994
4)吉田操,門馬久美子,葉梨智子,他.食道癌の深達度診断―内視鏡像からみた深達度診断.胃と腸 36 : 295-306, 2001

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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