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文献詳細

雑誌文献

胃と腸41巻11号

2006年10月発行

文献概要

今月の主題 早期胃癌に対するESDと腹腔鏡下手術の接点 主題

早期胃癌に対する腹腔鏡補助下胃切除術

著者: 井上晴洋1 里館均1 佐藤嘉高1 菅谷聡1 加賀まこと1 木田裕之1 長山裕之1 工藤進英1

所属機関: 1昭和大学横浜市北部病院消化器センター

ページ範囲:P.1507 - P.1513

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要旨 消化器内視鏡医の立場からすると,ESDの出現は,従来のスネアを用いたEMRと比べた場合に大きな一括標本が得られる点で画期的な出来事であった.すなわち一括切除によって,病変の全割が可能となり,深達度診断を中心とした正確な病理組織診断が可能となった.そもそもESDは,細川・小野らによって新しく開発されたITナイフを用いて,広範囲の粘膜切除に応用したものである.ESD完遂にあたっての技術的問題を克服したこと,そして後藤田らが,適応病変を臨床病理学的に報告したことは,国立がんセンターを中心としたESDグループの大きな業績の1つである.その一方でESDは技術的ハードルが決して低くなく,これまでの内視鏡治療の概念を超え,軟性鏡を用いた(内視鏡外科)手術とも考えられる.ESD対象症例は,そのほとんどが無症状あるいは検診内視鏡で拾い上げられた症例であり,いきなりの外科手術の適用の回避を希望される場合が多い.今後,ESD後のリンパ節再発症例に対して,サルベージ手術を施行して,その長期予後に問題がなければ,適応境界病変へのESDの適応は積極的になされるべきであるが,現在のところ十分なevidenceはない.一方,消化器外科医の立場からすると,ESDは局所切除の1つの手技に位置づけられ,従来から開腹手術による局所粘膜切除術(ただし胃の外側からアプローチする)や胃内手術などが報告されている.しかし今回のESDのような内腔側からの広範囲の粘膜の切除術は初めてである.早期癌が粘膜上皮から発生することを考えると,ESDは最も望ましい局所切除の方法であり,早期胃癌の新しいタイプの手術と言える.今後,センチネルリンパ節などを考慮に入れた縮小手術の展開が予測される.

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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