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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸41巻9号

2006年08月発行

雑誌目次

今月の主題 通常内視鏡による大腸sm癌の深達度診断 垂直侵潤距離1,000μm術前診断の現状 序説

早期大腸癌の深達度診断の現況を問う

著者: 多田正大

ページ範囲:P.1231 - P.1232

 早期大腸癌の内視鏡治療の適応を考える場合,いろいろな条件があるにせよ,一応の目安は癌の垂直浸潤距離が1,000μm以内であることが検証されている.この基準は第56回大腸癌研究会(2002年2月,渡辺英伸当番世話人),同研究会の中に設けられた「sm癌取り扱いプロジェクト研究委員会」(長廻紘委員長)1などの場で討論された議論を基礎に定められた基準である.過去に切除された多数の早期大腸癌の深達度と転移の有無を集積して導かれた結論であり,症例数に裏付けられたエビデンスであるだけに重みがある.この基準は同時に内視鏡治療の限界をも明示するものである.その詳細は本誌第39巻10号において,主題「大腸sm癌の深達度診断―垂直浸潤1,000μm」として記述されている2).本号の特集を読むにあたって,これらの主題論文を振り返ると意義深いであろう.

 大腸癌研究会では「大腸癌治療ガイドライン検討委員会」(杉原健一委員長)において,大腸癌の治療指針3)をまとめた.ここで記述されたガイドラインは,過去の一連の研究成果を基に作成した貴重なコンセンサスである.この「大腸癌治療ガイドライン」の序文の中で,武藤徹一郎会長は“人は誰しも,どの病院へ行っても同質のがん医療が受けられることを期待している.同質でしかも質の高いがん医療を,病院の如何を問わずに提供することががん医療の理想の姿であるが,現実にはそうではない”としており,大腸癌治療の均一化を果すためのガイドラインを臨床医,病理医に提示することを目標としている.その過程で“過剰診療・治療,過小診療・治療の解消ができることを期待する”としているが,臨床医が注目すべき耳の痛い提言でもある.

主題

大腸sm癌のリンパ節転移危険因子の検討

著者: 立石陽子 ,   谷口浩和 ,   中西幸浩 ,   下田忠和

ページ範囲:P.1233 - P.1240

要旨 大腸sm癌浸潤距離測定においては,粘膜筋板の走行が錯綜していて測定の基準線の同定が困難である例や,粘膜筋板が消失している例があるため,測定方法の標準化に難航している.本稿では,大腸sm癌329症例のsm浸潤距離の測定を5通りで行い,測定方法を検討したうえで,現在の規約で規定されているsm1,000μmの妥当性を検証した.また,浸潤距離以外のリンパ節転移危険因子を検討したところ,主組織型,リンパ管侵襲,簇出が有意な因子であった.その他に発育形式(PG/NPG),粘膜筋板の状態(A1・A2/B1・B2)がリンパ節転移危険因子となりうることが示唆された.

症例検討

大腸sm癌深達度診断の現状―前向き検討―集計結果の解析と臨床的考察

著者: 斉藤裕輔 ,   田中信治 ,   藤谷幹浩 ,   多田正大 ,   工藤進英 ,   小林広幸 ,   鶴田修 ,   津田純郎

ページ範囲:P.1241 - P.1249

はじめに

 表面型大腸腫瘍の発見頻度やsm癌に対する内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)件数の増加に伴い1)~3),大腸sm癌の根治基準が変更されることとなった.すなわち従来の大腸癌取扱い規約における“smにわずかに浸潤した癌(200~300μm程度に相当)”4)から,sm癌取り扱いプロジェクト研究委員会から提唱された“sm垂直浸潤距離1,000μm未満で脈管侵襲を認めない病変”5)とされ,新しい大腸癌取扱い規約にも記載される予定である.われわれ臨床医にとって今後はこのsm垂直浸潤距離1,000μmの術前診断精度の向上が重要となる.大腸sm癌の深達度診断に拡大内視鏡6)7)や,超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography;EUS)検査8)が有用であることは疑いの余地はないが,一般臨床家においては時間的な制約や技術的な問題もあるため,実際にはこれらの検査を行っている施設は全体からみると少ないのが現状である9)10)

 これを受けて2004年7月に大腸癌研究会「内視鏡摘除の適応」プロジェクト研究班が多田正大委員長のもと組織された.この研究班の目標は,“内視鏡治療可能な大腸sm癌の通常内視鏡所見(色素撒布を含む)を明らかにし,治療指針を作成する.これらの診断に拡大内視鏡やEUSは用いない”,である.

 本特集では,この研究班の7名の委員(以下,ベテラン)の施設から集められた病理組織学的sm浸潤距離の明らかなsm癌,180症例の中から,隆起型15例,表面型15例の30例(症例提示は1257頁から)を選択し,若手の先生方に前向きに読影いただき,正診率(1,000μm未満か,以上か),浸潤所見の拾い上げの有無についてベテランの読影結果と比較した.なお,ベテランの読影結果の詳細については「胃と腸」誌40巻13号をご参照いただきたい11).今回の対象症例30例の内訳をFig.1に示す.病変の大きさでは10mm未満;4病変,10~19mm;24病変,20mm以上;2病変であり,sm浸潤距離では1,000μm未満が13病変,1,000μm以上が17病変である.読影いただいた所見の内容についてTable 1に示すが,プロジェクト研究班で読影したのと同様の項目である.また,読影いただいた若手医師名と所属施設をTable 2に示す.「胃と腸」誌の編集委員から推薦いただいた卒後7~13年の医師の8名である.なお,Table 2の読影医の順と結果グラフ中の正診率の順は一致していない.

大腸sm癌深達度診断の現状―前向き検討―集計結果の病理組織学的考察

著者: 味岡洋一

ページ範囲:P.1250 - P.1256

はじめに

 内視鏡的摘除大腸sm癌が根治と判定されるためには,“sm垂直浸潤距離1,000μm未満”が必要条件となる.本号の主題は,内視鏡による“垂直浸潤距離1,000μm”の診断精度の現状,診断に有用な内視鏡所見,診断上の問題点,を明らかにすることである.そのためのアプローチとして,複数の施設の,ベテランおよび若手消化管医師の内視鏡深達度診断能と,それぞれが診断に用いた内視鏡所見,の比較・分析が企画された.

 筆者に与えられた課題は,ベテランと若手とで診断が乖離した症例に,どのような病理組織学的特徴があるかを明らかにすることであった.しかし診断結果を集計した斉藤論文で述べられているように,両者間で診断に有意な乖離はなく,golden standardたるべきベテランの正診率も決して高いものではなかった.その原因として,(斉藤論文でも触れているように)検討対象とされた症例に何らかの偏りが存在していた可能性が否定できない.したがって本稿では,まず検討症例の病理組織学的特徴を解析した.次にベテランの読影内視鏡所見および内視鏡診断と病理組織所見との対比を行うことで,診断に有用であった内視鏡所見や内視鏡正診例および困難例の病理組織学的特徴を分析し,最後にそれらの結果を踏まえ,垂直浸潤距離内視鏡診断のポイントと問題点について考察した.なお,病理組織所見の検索は,症例提供施設からお送りいただいたHE標本ルーペ像および中拡大像の写真を用いて行った.

大腸sm癌深達度診断の現状―前向き検討―症例提示

ページ範囲:P.1257 - P.1286

〔症例1〕~〔症例15〕隆起型
〔症例16〕~〔症例30〕表面型

座談会

通常内視鏡による大腸sm癌の深達度診断

著者: 味岡洋一 ,   樫田博史 ,   鶴田修 ,   田中信治 ,   多田正大 ,   斉藤裕輔

ページ範囲:P.1287 - P.1308

大腸癌研究会「内視鏡摘除の適応」プロジェクト 研究班の結果について

 多田(司会) 大腸癌の内視鏡治療の適応・限界を考える場合に,癌の垂直浸潤距離が話題になっています.大腸癌研究会をはじめ,いろいろなところで1,000μmを基準にしよう,となっています.どのような項目に注目すれば内視鏡治療の適応の分岐点である1,000μmの診断が可能なのでしょうか.大腸癌研究会の中でも,「内視鏡摘除の適応」というプロジェクト研究班をつくりまして,Table 1の7名の先生方でこの方面の話題を検討してきました.2年間にわたる討議の結果,一定の指標に到達しましたので,「胃と腸」誌40巻13号(1855-1858頁)に「トピックス」として斉藤先生に発表していただいています.この研究の過程で非常に示唆に富む意見が出てきました.超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography;EUS)とか,あるいは拡大内視鏡を使えば浸潤距離はわかるだろう,と言われていますが,一般の多くの内視鏡医はこれらのツールを持っていません,あるいはそれを使って臨床に応用する時間がないという制約があります.そこで通常内視鏡だけで1,000μmの診断ができないか,ということを追求してきました.このあたりの経過についてまず斉藤先生からご説明いただきたいと思います.

 斉藤 Table 2にありますように,研究班の目標は,通常内視鏡のみで内視鏡摘除を行っていいか,外科手術を行うべきか,という点を明らかにすることを目的にしております.拡大内視鏡や,EUSは用いないということです.やり方ですが,Table 1の各委員から,sm浸潤距離が明らかなsm癌30例,隆起型15例,表面型15例を提供していただきまして,各委員に自施設以外の症例について前向きに診断していただきました(Table 3).1,000μm未満か,1,000μm以上か,そしてどのような所見が出ているか,ということについて前向きに検討しました(Fig. 1).180病変の内訳は,1,000μm未満が180病変中43病変で23.9%,1,000μm以上が137病変,76.1%ということで,1,000μm以上が多くなっています.症例にはm癌は含まれておりませんので,どうしても1,000μm以上のsm癌が多くなっており,症例に多少のバイアスがかかっています.Fig. 2が最終的な結果です.正診率は74.7±3.6%です.誤診が25%程度ありますが,浅読みで誤診したものが16.3%,深読みで誤診したものが9%程度でした.施設ごとの正診率をお示しします(Fig. 3).施設間にばらつきの少ない良い成績と思っています.ただし,後で味岡先生からご指摘があるかもしれませんが,症例の76%が1,000μm以上ですから,すべてを1,000μm以上と答えると正診率は76%になるということで,ここが問題かもしれません.大きさ別では,大きさごとに正診率に有意差はありませんでした.また一般的に,隆起型のほうが正診率が低く,表面型のほうが正診率は高いのではないか,と検討前には考えていたのですが,興味深いことに今回の検討では,肉眼型別の正診率に有意差は認めませんでした.浸潤距離別にみると(Fig. 4),3,500μm以上浸潤しているsm癌では9割方は正診できております.一方,500μm以下や500~1,500μmぐらいの1,000μmを挟んだところの診断率が低い.やはりこのあたりの正診が難しいということが明らかとなりました.所見の一致率を検討してみたのですが(Table 4),Table中の青字の項目は,皆さんの所見の一致率が比較的高かった所見です.例えば腫瘍全体における所見としては,緊満所見がある,病変全体の硬さ,病変の凹凸不整がある,といった所見は拾い上げ方が比較的一致していたのですが,そのほかの二段隆起ですとか,広基性病変で立ち上がりが正常粘膜である,という所見は,一致率が低い.これは所見の拾い上げ方が人によって違うという問題点が明らかになった,ということです(Table 5).それから表面性状では,陥凹の有無.これは比較的高い一致率です.それから面状陥凹.深いか,浅いかという判断については比較的一致率が高い.ただし,褪色調に関してはほとんど一致していない結果でした.

早期胃癌研究会症例

Helicobacter pylori除菌療法で軽快した特発性肉芽腫性胃炎の1例

著者: 中島寛隆 ,   長浜隆司 ,   大倉康男 ,   中野利香 ,   吉田諭史 ,   馬場保昌 ,   丸山雅一

ページ範囲:P.1313 - P.1320

要旨 症例は49歳,女性.主訴は心窩部痛と体重減少.胃X線検査および上部消化管内視鏡検査で,胃体部小彎の多発びらんと広範囲の胃壁伸展異常がみられた.びらんからの生検組織には非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が認められた.腹部CTでは胃所属リンパ節の腫大所見がみられたが,眼や肺野,肺門リンパ節にはサルコイドーシスを思わせる所見はなく,結核,梅毒,Crohn病の所見も認めなかった.特発性肉芽腫性胃炎と診断した.Helicobacter pylori IgG抗体が陽性を示したため,除菌治療を行った.除菌後に胃体部のびらんは消失し,それと同時に生検組織で類上皮細胞肉芽腫も消褪した.治療前後の画像所見と生検組織の検討から,類上皮細胞肉芽腫が胃のびらん形成に影響していることが示唆された.

症例

ダブルバルーン小腸内視鏡にて観察しえたMeckel憩室の1例

著者: 花畑憲洋 ,   三上達也 ,   福田真作 ,   西谷大輔 ,   山口佐都子 ,   佐々木聡 ,   石黒陽 ,   佐々木賀広 ,   村田暁彦 ,   鬼島宏 ,   東野博 ,   棟方昭博

ページ範囲:P.1321 - P.1325

要旨 患者は31歳,男性.下血後の意識消失にて弘前市立病院入院.諸検査の結果,小腸出血が疑われ当科紹介.99mTcO4-シンチグラフィーで臍下部に異常集積像を認め,ダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行したところ回腸に憩室が観察され,Meckel憩室と診断した.術中所見では,回腸末端より口側85cmの腸間膜対側に10×2cmの憩室が確認された.病理組織学的には真性憩室で,異所性胃粘膜および膵組織を伴っていた.術前の下部消化管内視鏡検査では確認できなかったが,ダブルバルーン小腸内視鏡を用いることによって診断が可能であった.ダブルバルーン小腸内視鏡は通常の内視鏡検査で出血源がわからない消化管出血に対し有用であると考えられた.

研究

陥凹型胃癌に対するX線的深達度診断プロセス

著者: 中原慶太 ,   立石秀夫 ,   鶴田修 ,   渡辺靖友 ,   田宮芳孝 ,   芹川習 ,   米湊健 ,   豊永純 ,   佐田通夫 ,   武田仁良 ,   有馬信之

ページ範囲:P.1327 - P.1343

要旨 目的:X線的な胃癌深達度診断プロセスの妥当性をprospective studyによって明らかにする.対象:陥凹主体のc0型形態と術前判定した胃癌440病変.方法:X線的な撮影手技(①二重造影法の造影剤の厚さ,②空気量,③撮影角度の変化,④撮影法の変化,⑤圧迫法の強弱の変化)を加味した深部浸潤を疑う5つの指標を設定し,術前深達度の判定基準を各指標の描出(+)が2つ以上をcSM2以深,これ以外をcM~SM1とした.深達度診断能の評価は,cSM2以深の診断能として陽性適中率,陰性適中率,感度,特異度,正診率(鑑別率)で行った.結果:1)各指標単独で判定した深達度診断能:各所見の描出(+)をcSM2以深と判定した場合,各手技の難易度に差があり,感度がすべて60%前後と低かった.したがって各指標を用いて診断を補う必要がある.2)判定基準別にみた深達度診断能:5つの指標のうち描出(+)が1つ以上をcSM2以深とした基準では,陽性適中率70%と低率で深読みの傾向,3つ以上の基準では感度56%と浅読みの傾向となり,2つ以上とした今回の判定基準がすべて80~90%台で最も妥当と思われた.3)潰瘍合併別にみた深達度診断能:cUl(-)の診断能は上記のいずれも90%前後と良好であったが,cUl(+)の診断能は80%台にとどまった.結論:今回示した診断プロセスの妥当性が証明された.さらなる診断能向上のためには,cUl(+)の誤診例の解析や撮影技術・読影能の向上が必要である.

今月の症例

サイトメガロウイルス感染症を合併し経過中縦走潰瘍を認めた潰瘍性大腸炎の1例

著者: 廣瀬統 ,   前田和弘 ,   冨岡禎隆 ,   西村宏達 ,   江口浩一 ,   山本智文 ,   青柳邦彦 ,   向坂彰太郎 ,   溝口幹朗 ,   岩崎宏 ,   王寺恒治

ページ範囲:P.1226 - P.1229

 〔患 者〕 74歳,女性.

 〔主 訴〕 腹痛,血便.

 〔現病歴〕 1999年に潰瘍性大腸炎(全大腸炎型)と診断され,2回の入院加療歴があった.2005年4月より腹痛,粘血便が出現し,潰瘍性大腸炎の再燃と診断され近医入院.ステロイド内服および注腸にて加療し症状は改善傾向であったが,ステロイド減量中に増悪を認め当科紹介転院となった.

 〔検査成績〕 CRP 10.7mg/dlと炎症反応を認め,TP 5.0g/dl,Alb 2.6g/dlと低蛋白血症を認め,末梢白血球中にサイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)抗原(C-7HRP)陽性細胞を認めた.

消化管造影・内視鏡観察のコツ

〔内視鏡観察のコツ〕下部消化管―前処置

著者: 岩井淳浩

ページ範囲:P.1309 - P.1312

はじめに

 十分な所見が捉えられた美しい画像を呈示するための前処置法とは,十分な腸管洗浄効果(残便,粘液がない)があることに尽きる.十分な腸管洗浄効果を得るには,それ相応の下剤の量が必要になり,これにより被検者の受容性が低下する.この点を解決するには,腸管洗浄液による前処置に各種の薬剤を用いた前処置を追加する必要がある.本稿では,このような前処置法について大腸検査前処置の基本も合わせて概説する.

Coffee Break

大腸学事始め―(2)St. Mark's Hospitalの歴史

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.1326 - P.1326

 St. Mark's Hospital(SMH)は1835年,Frederick Salmonというロンドンの外科医によって開設された.St. Mark's Hospital for fist & e c.(fistula and etc.)と入口に書かれているように,主として痔の専門病院としてスタートした.

 Salmonは進取の気象に富む外科医であったらしく,人事のことで上層部と意見が合わず,大学病院を飛び出して独立したのである.彼の外科医としての仕事は今では痕跡もなく,文献上痔核の手術法に遺されているのみであるが,痔瘻を病むCharles Dickensの主治医だったというから,当時は有能なcoloproctologistであったのであろう.SMHの名を高めたのは外科医たちのその後の継続的な努力にもよるが,痔の手術で名高いMilligan,Morgan,そして大腸癌分類の提案者として有名なDukesらの画期的な仕事が,SMHの名を不滅のものにしたと言ってよいであろう.Dukesは直腸癌(大腸癌)の分類のみならず,Lockhart-Mummeryとともに家族性大腸ポリポーシスが一疾患単位であることを提唱した点でも,医学界に大きな貢献をした.この仕事はSMHにおける完備した病歴の蓄積があったればこそ可能であった.病歴はすべて手書きであるが,家族歴がしっかりしていたことと,それを支える人々が存在したことが大きかった.SMHは痔疾患にとどまらず直腸癌の治療にも手を拡げるようになり,会陰部からの操作に慣れている特性を生かして,会陰部から直腸癌を切除する会陰腹式直腸切断術を考案し,Milesの腹会陰式直腸切断術と対抗したが,結局,Miles法に名を成さしめることになった.GabrielというSMHの外科医がこの手術法では大家であった.Milliganをはじめこれら歴史的な,教科書で名前を知った人々がみなSMHの医師で,1970年のころには既に引退していたとは言え生存中であり,握手できたときの感激は今でも忘れない.

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欧文目次

ページ範囲:P.1225 - P.1225

編集後記

著者: 斉藤裕輔

ページ範囲:P.1346 - P.1346

 本号は拡大内視鏡やEUSを併用しない,通常内視鏡による大腸sm癌の深達度診断,特に内視鏡治療の根治基準となった垂直浸潤距離1,000μmの診断について若手とベテランの診断能を比較するとともに,診断の根拠となった所見の拾い上げ方について比較した.立石論文では,大腸癌取扱い規約に盛り込まれた計測法の有用性が再確認された.また症例検討では,症例の選択にやや問題があったため,若手とベテランで診断能に差はみられなかった.しかし,緊満感や陥凹の有無などの深達度診断に重要な所見において,ベテランは比較的所見の拾い上げが一致していたが,若手では拾い上げ方にばらつきがみられることが明らかとなった.このことは,ガイドライン作成時には所見項目のさらなる統一とともに,浸潤所見の特徴について典型的な症例を呈示しながら解説することの重要性を示唆するものと考える.同時に味岡論文ではベテランの施設においても浸潤距離の測定法の施設間のばらつきにより,診断されている浸潤距離そのものが1,000μmを挟んで前後する可能性という根本的な問題点が指摘された.これらの問題点を含んでいるものの,本号の多くの症例,座談会でのベテランの所見の拾い上げ方を読み返すことで,通常内視鏡のみで1,000μm未満か,以上かの診断能が向上し,明日からの臨床に役立つことを期待する.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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