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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸42巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

今月の主題 炎症性腸疾患(IBD)の上部消化管病変 序説

炎症性腸疾患(IBD)の上部消化管病変

著者: 飯田三雄

ページ範囲:P.379 - P.381

 Crohn病は,1932年にCrohnらがregional ileitisとして報告したことに始まる腸管の慢性炎症性疾患であるが,1949年に初めて胃病変が報告され,上部消化管病変の存在が明らかにされた.その後,欧米では多数の上部消化管病変を有するCrohn病症例が報告されたが,大部分は瘻孔や狭窄などの粗大病変であり,しかも症例報告が中心であったため,上部消化管病変はまれな随伴病変とみなされていた.しかし,1970年代になってCrohn病の胃・十二指腸にアフタ様病変が比較的高率に合併することが欧米から報告された(Beaudinら,1973年;Lauferら,1978年;Ariyamaら,1980年)のに続き,本邦でも内視鏡検査や二重造影法を用いた緻密な診断学の導入により微細な上部消化管病変の実態が明らかとなった(牛尾ら,1982年;田中ら,1983年;八尾ら,1983年).特に,色素撒布法併用の内視鏡検査を用いた八尾らの検討1)では,全例の胃または十二指腸に小病変,微小病変が見い出されており,生検による肉芽腫または肉芽腫様病変の検出率は90%にも及んだ.

主題

Crohn病の胃病変の病理組織学的特徴―特に内視鏡像との対比によるその発生から進展様式の解析

著者: 八尾隆史 ,   古賀秀樹 ,   松本主之 ,   王寺裕 ,   具嶋正樹 ,   飯田三雄 ,   恒吉正澄

ページ範囲:P.383 - P.392

要旨 Crohn病患者94人の胃からなされた198個の生検材料を対象として,それらの組織学像と内視鏡像の関連を検討した.炎症のタイプは,びまん性活動性胃炎:DCAG 15個(7.6%),巣状活動性胃炎:FEG 67個(33.8%),活動性炎症なし116個(58.6%)に分類された.DCAGのほとんどではHelicobacter pylori陽性または組織学的びらんを認めた.類上皮細胞肉芽腫は11個(5.6%)に認め,それらではすべてFEGの所見を有し,その検出率は慢性胃炎の程度が強いもので高率であった.正常部でもFEGはしばしばみられ(21.3%),肉芽腫も1例(1.6%)に認められた.びらん・潰瘍は前庭部(幽門腺粘膜)に高頻度にみられ,同病変ではFEG(51.1%),DCAG(17.0%),肉芽腫検出率(12.8%)が最も高率に認められ,慢性炎症細胞浸潤の程度も強かったが,リンパ球集簇(6.4%)は低率であった.発赤粘膜ではFEGは33.3%にみられ,肉芽腫は2例(11.1%)にみられた.竹の節様外観は体部から穹窿部(胃底腺粘膜部)のみにみられ,同病変ではFEGは32.7%に認めたが,炎症は軽度以下のものが多く,リンパ球集簇と浮腫が高率であったが,肉芽腫の検出は1例のみであった.また,裂溝様びらん(fissure-like cleft)は竹の節様外観に特徴的組織像であったが5例に認めるのみであった.顆粒状・粗ぞう粘膜ではFEGは20%に認めたが,肉芽腫は検出されなかった.これらの所見よりCrohn病の胃病変の発生から進展の過程は,そのごく初期には肉眼ではほとんど変化のない粘膜にFEGが生じ,炎症の活動性が増すにつれびらん・潰瘍を形成するようになり,活動性が低下し慢性期になると前庭部では発赤や瘢痕となり,体部や穹窿部では竹の節様外観や顆粒状・粗ぞう粘膜を呈するようになるものと推察された.

潰瘍性大腸炎の上部消化管病変の病理組織学的特徴―十二指腸病変について

著者: 渡辺和彦 ,   味岡洋一 ,   岩下明徳 ,   池田圭祐 ,   松井敏幸 ,   久部高司 ,   本間照

ページ範囲:P.393 - P.401

要旨 潰瘍性大腸炎(UC)随伴十二指腸病変(UCD)10例と非特異性十二指腸炎(NSD)40例の病理組織所見の解析・比較を行った.UCDの組織像は,活動期または再燃活動期UC大腸粘膜と同質であり,半数以上で“陰窩杯細胞粘液減少”,“陰窩底部と粘膜筋板との乖離”,“陰窩底部の形質細胞浸潤”,“好中球浸潤”,“陰窩密度の減少”,“陰窩炎”,“びまん性炎症細胞浸潤”,“陰窩のねじれ・構造不整”,がみられた.UCDとNSDでは組織像のパターンが異なり,UCDでは“陰窩底部の形質細胞浸潤”,“陰窩底部と粘膜筋板との乖離”,“陰窩密度の減少”;が,NSDでは“胃腺窩上皮化生”が,特異性の高い組織所見であった.これら組織像のパターンの違いが,UCDとNSDの炎症病態,粘膜傷害の成因の違いを反映している可能性がある.

Crohn病における食道病変

著者: 浜田勉 ,   近藤健司 ,   高添正和 ,   斉藤聡 ,   阿部剛 ,   須崎愛 ,   河口貴昭 ,   北条裕美子 ,   北村成大 ,   奥田圭二 ,   田中靖 ,   鵜沼清仁

ページ範囲:P.403 - P.416

要旨 過去10年間にCrohn病で上部消化管内視鏡検査を実施した482例中23例(4.8%)に食道病変を認めた.有症状が19例,無症状が4例であった.検査時に胃病変を156例(32.4%)に,十二指腸病変を190例(39.4%)に認めた.食道病変は敷石状粘膜や粘膜橋形成が2例,縦列を示す潰瘍あるはびらんが5例,アフタ様潰瘍あるいはびらんが8例,多発するびらんや顆粒状小びらんが8例であった.1例に瘻孔形成を認めた.19例の食道病変に生検を施行し非乾酪性肉芽腫を1例(5.3%)に認めた.発病から食道病変が認められるまでの期間は10年以上が13例と多く,2例はCrohn病の初発病変として観察された.腸病変は20例が活動性であり,3例が非活動性であった.治療薬として,mesalazine粉末,PPI,infliximab,prednisoloneなどが自覚症状の改善に有効であった.

Crohn病の上部消化管病変の臨床と経過―胃・十二指腸病変を中心に

著者: 渡二郎 ,   佐藤龍 ,   田邊裕貴 ,   金野陽高 ,   石川千里 ,   稲場勇平 ,   ,   盛一健太郎 ,   岡本耕太郎 ,   前本篤男 ,   藤谷幹浩 ,   蘆田知史 ,   高後裕 ,   横田欽一 ,   斉藤裕輔

ページ範囲:P.417 - P.428

要旨 上部消化管検査を施行したCrohn病患者78例を対象に,胃・十二指腸病変の所見と肉芽腫の検出率,Helicobacter pylori(H. pylori)感染率,さらに内視鏡所見の経時的変化について検討した.その結果,胃・十二指腸病変は80.8%(63例)に認められた.胃での特徴的な所見である竹の節状外観は59%(46例)に認め,肉芽腫の検出率は9.1%(4/44例)であった.また,竹の節状外観は経過をみても消失することはなかった.一方,主に前庭部に出現するびらんは35.9%(28例)に認め,肉芽腫の検出率は12.5%(2/16例)であったが,しばしば経過とともに消失し,通常のびらん性胃炎との鑑別が難しかった.十二指腸病変での肉芽腫の検出率は7.4%(2/27例)で,経過によって内視鏡所見は消失することは少なく,逆に球部での潰瘍性病変が出現する場合が多かったことから,Crohn病の一所見である可能性が高いと考えられた.しかし,胃・十二指腸病変の有無および内視鏡所見の経時的変化と活動性指数との間に相関はなかった.H. pylori感染率はわずか11.5%(9例)であり,Crohn病に対する治療薬との有意な関連性は認めなかった.以上の結果から,Crohn病における上部消化管病変は,H. pylori感染やCrohn病の活動性によって生じるものではなく,Crohn病の病態に基づき高頻度に生じる病変と考えられた.したがって,Crohn病の確定診断や鑑別に上部消化管検査による胃・十二指腸病変の検索が重要であることが再認識された.

Crohn病の上部消化管病変の臨床的検討―経過を含めて

著者: 平田一郎 ,   西川貴士 ,   長坂光夫 ,   村野実之 ,   年名謙 ,   岩田正己 ,   高濱和也

ページ範囲:P.429 - P.440

要旨 Crohn病59例に対して上部消化管病変に関する臨床的検討を行った.その結果,上部消化管病変は高率に認められた(78.0%).十二指腸ではアフタ・びらん(41.3%)と不整形潰瘍(28.3%),胃では竹の節状外観(39.1%)とたこいぼ型びらんを含むびらん性病変(37.0%)などを比較的高率に認めた.経過例の検討によって,竹の節状外観,notch状外観,敷石状外観の成立機序には共通の要因があることが示唆された.また,Crohn病におけるたこいぼ型びらんは,通常のたこいぼ型胃炎とは異なった局在,形状,経過を示した.上部消化管病変の軽快と増悪はCDAIとの相関を認めず,下部消化管病変とは別の経過を辿ることも示唆された.上部消化管病変に対する薬物療法として酸分泌抑制剤やmesalazineの粉末が使用されているが,たこいぼ型びらんや幽門・十二指腸狭窄に対しては効果は乏しくinfliximab投与を考慮する必要性が示唆された.病理組織学的検討では,上部消化管病変におけるgranulomaの検出率は12.5%,Helicobacter pylori陽性率は13.3%と低率であった.Crohn病の上部消化管病変を早期診断し,幽門・十二指腸狭窄などの重篤な合併症を予測し予防することが必要と考えられた.

潰瘍性大腸炎の上部消化管病変の臨床と経過―画像所見を中心に

著者: 堀和敏 ,   池内浩基 ,   中埜廣樹 ,   應田義雄 ,   樋田信幸 ,   松本譽之 ,   三輪洋人

ページ範囲:P.441 - P.448

要旨 潰瘍性大腸炎(UC)における上部消化管病変の特徴的な内視鏡所見は,もろい粘膜,細顆粒状粘膜,多発アフタである.多発アフタは他疾患でもみられるため,多発アフタをUCに関連した病変とするには,陰窩膿瘍などの組織学的な裏付けとCrohn病などの臨床的除外が必要になる.これら内視鏡所見を有する症例やその疑診例,その上部消化管病変が治癒または緩解したと思われる症例,組織学的に確認される微小病変を伴う症例を含めると,UC関連上部消化管病変は26%に達し,決してまれな病態ではないと考えられる.治療は大腸病変と同様の方法に準じるが,mesalazineは粉砕してパウダー化したものを用いる.胃粘膜保護薬が有用なこともある.

潰瘍性大腸炎の上部消化管病変の臨床と経過―頻度と経過を中心に

著者: 久部高司 ,   松井敏幸 ,   宮岡正喜 ,   頼岡誠 ,   西村拓 ,   村上右児 ,   長浜孝 ,   高木靖寛 ,   平井郁仁 ,   八尾建史 ,   津田純郎 ,   池田圭祐 ,   岩下明徳 ,   二見喜太郎 ,   眞武弘明

ページ範囲:P.449 - P.460

要旨 潰瘍性大腸炎(UC)に合併した上部消化管病変を以下のごとく定義し,その頻度,臨床像および経過について検討した.①びまん性で大腸病変に類似する.②抗潰瘍剤に抵抗性でUCの治療により改善する.③病理所見でUCに類似する.④Helicobacter pyloriの関与がない.⑤他疾患が否定できる.この5つの項目のうち①を必須項目としその他2項目以上を有するものとした.この定義に合致した上部消化管病変は上部消化管検索を行いえたUC患者158例中8例(5.1%)であった.病型は8例すべて全大腸炎型で,それぞれ全大腸炎型70例中6例(8.6%),大腸全摘後24例中2例(8.3%)に認めた.病理組織学的所見はびまん性炎症細胞浸潤や陰窩炎などUCに類似した所見であった.病変範囲は胃から十二指腸に病変を認めたものは2例,胃から小腸に認めたものは1例,十二指腸にのみ認めたものは5例であった.治療はステロイド剤で改善したものが5例,ステロイド剤と白血球除去療法が1例,粉末mesalazineが2例であり,全例内科的治療により病変は改善した.また上部消化管病変の活動性は大腸病変の活動性と相関する傾向にあった.今後,UCの診断治療に際しては上部消化管病変の存在も考慮していかなければならない.

Crohn病の胃・十二指腸狭窄性病変に対する内視鏡的拡張術の有用性

著者: 松井敏幸 ,   別府孝浩 ,   平井郁仁 ,   高木靖寛 ,   西村拓 ,   池田圭祐 ,   小野陽一郎 ,   松尾静香 ,   矢野豊 ,   久部高司 ,   長浜孝 ,   津田純郎 ,   東大二郎 ,   二見喜太郎

ページ範囲:P.461 - P.476

要旨 炎症性腸疾患のうち,Crohn病(CD)では重大な消化管狭窄が多く出現する.腸管では既に内視鏡的拡張術が良好な成績を収めている.胃幽門部と十二指腸にも狭窄性病変が出現し,ときに手術適応とされる.しかし,低侵襲である内視鏡による拡張術の適応と効果は明らかでない.本論文では,胃・十二指腸狭窄に対する内視鏡的拡張術の短期および長期成績を検討する.対象は,11例の幽門狭窄症状を呈するCD患者.内視鏡的拡張術は10例で短期的に成功した.狭窄が長い例では短期的な拡張術が不十分であった.拡張術に起因する合併症はなかった.長期的(105か月観察)には,再発例を含めて拡張術後の手術回避率は1年で82%,3年で72%,5年で72%である.長期的成功ができなかった例の狭窄部位長は長い傾向にあったが有意ではなかった.内視鏡的拡張術は,手術を要する腸管狭窄の一部に対し有効で,長期成績も良好である.したがって本法がCDの胃・十二指腸狭窄に対する治療の標準的治療の1つになりうると考えられる.

Crohn病の胃・十二指腸病変に対する外科治療

著者: 杉田昭 ,   木村英明 ,   小金井一隆 ,   大槻恭子 ,   二木了 ,   福島恒男 ,   鬼頭文彦

ページ範囲:P.477 - P.484

要旨 Crohn病に合併する胃・十二指腸病変に対する外科治療の頻度を自験腸管手術例に占める割合でみると7%(26/374例)であった.Crohn病自体の病変をprimary lesion,他病変から胃・十二指腸に波及した病変をsecondary lesionとすると,後者が69%(18/26例)と多くを占めた.手術例のうち,胃では結腸,回腸結腸吻合部からの瘻孔が多く(3例),原発巣切除と瘻孔部楔状切除を行い,十二指腸では第1部~第2部の長い狭窄(7例)に対して胃空腸吻合術,secondary lesionであることが多い十二指腸瘻(17例)に対しては病変切除後の欠損部が小さければ単純閉鎖,大きければ十二指腸空腸Roux-Y吻合術が適しており,各手術の術後経過は良好であった.secondary lesionについてはこれらの病変を併発する前に原発病変の外科治療を行うことが必要である.

主題症例

小腸造影検査が有用であった小腸型Crohn病の1例

著者: 山野泰穂 ,   黒田浩平 ,   吉川健二郎 ,   佐藤健太郎 ,   野元雅仁 ,   藤田穣 ,   細谷寿久

ページ範囲:P.485 - P.492

要旨 症例は14歳,女性.10歳ごろから腹痛等の症状が出現していたが看過され,標準から-2SDを示す成長障害を伴い当科紹介された.上部消化管内視鏡検査にて胃にたこいぼびらん,竹の節上外観,十二指腸にアフタ様病変,Kerckring皺襞にnotch様外観などCrohn病の副所見を認め,また食道にも縦列傾向を示した微小なアフタ様病変を認めたが,これらからの生検では非乾酪性類上皮肉芽腫を断定できなかった.しかし小腸造影検査を施行したところ下部空腸から回腸にかけて著明な腸管の直線化,狭小化を認め,また偽憩室化した部分も認められ,縦走潰瘍やcobblestone appearance等のCrohn病の典型像が明瞭に描出された.以上から上部消化管病変を伴った小腸型Crohn病と診断した.Crohn病の診断,画像所見について若干の文献的考察を加えて報告した.

竹の節状外観を呈したCrohn病の1例

著者: 桑木光太郎 ,   光山慶一 ,   富安信夫 ,   増田淳也 ,   山崎博 ,   高木孝輔 ,   鶴田修 ,   佐田通夫

ページ範囲:P.493 - P.497

要旨 症例は28歳,男性.17歳時より痔核を認め,腹痛,体重減少,軟便を主訴に紹介受診となった.入院後,大腸内視鏡検査,注腸X線検査で小腸大腸型Crohn病と診断された.同時期に行った上部消化管内視鏡検査で,胃体部小彎側を中心に腫大した粘膜ひだに沿って垂直方向への切れ込み像,いわゆる“竹の節状外観”を認めた.経腸栄養療法で緩解となった.その後,主病変は緩解再燃を繰り返すも,胃病変に変化は認められなかった.比較的典型的な“竹の節状外観”を呈した症例を経験したので,内視鏡所見を中心に報告する.

上部消化管内視鏡にて“竹の節状外観”を呈した全大腸炎型潰瘍性大腸炎の1例

著者: 長坂光夫 ,   平田一郎 ,   藤田浩史 ,   長谷川申 ,   有馬裕子 ,   嶋崎宏明 ,   吉岡大介 ,   丸山尚子 ,   田原智満 ,   中村雅彦 ,   神谷芳雄 ,   中村正克 ,   岩田正己 ,   柴田知行 ,   高濱和也 ,   渡邊真 ,   有沢富康 ,   中野浩

ページ範囲:P.499 - P.504

要旨 患者は36歳,女性.23歳ごろより軽度の下痢,軟便を認めていた.35歳時下痢に続いて下血を認め全大腸炎型潰瘍性大腸炎と診断された.5-ASA,5-ASA注腸にて治療開始するも高熱,高炎症反応にて治療に難渋し,入院後抗菌薬と顆粒球除去療法にて症状は軽快し緩解した.その後外来にて緩解維持していたが上腹部痛を訴えたため,上部消化管内視鏡検査を施行しCrohn病に特有のいわゆる“竹の節状外観”を認めた.今回IBD(inflammatory bowel disease)の胃病変に関して文献的考察とCrohn病の自験例を踏まえて報告する.

十二指腸病変を合併した潰瘍性大腸炎の2例

著者: 藤澤律子 ,   松本主之 ,   中村昌太郎 ,   古賀秀樹 ,   矢田親一朗 ,   江崎幹宏 ,   王寺裕 ,   八尾隆史 ,   壬生隆一 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.505 - P.512

要旨 〔症例 1〕は29歳,女性.主訴は上腹部痛.17歳時発症の全大腸炎型潰瘍性大腸炎で19歳時に劇症化のため大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術を受けた.29歳時に上腹部痛が出現し,上部消化管内視鏡検査で十二指腸球後部から第2部にびまん性の粗ぞう粘膜と多発潰瘍を指摘された.UCの十二指腸病変と判断しmesalazineとranitidineの投与を開始したが,18か月後の上部消化管内視鏡検査では改善は認められていない.〔症例 2〕は69歳,男性.2005年1月に潰瘍性大腸炎を発症し当科に入院した.大腸内視鏡検査では全大腸炎型潰瘍性大腸炎でステロイドの全身治療を開始した.上部消化管内視鏡検査では十二指腸球後部から第2部に多発する小潰瘍を認め,大腸病変の改善に伴って十二指腸病変の瘢痕化が確認できた.潰瘍性大腸炎ではびまん性十二指腸病変を合併することが知られているが,この病変は多彩な経過を示す可能性が示唆された.

早期胃癌研究会

2007年1月の例会から

著者: 平田一郎

ページ範囲:P.513 - P.515

 2007年1月の早期胃癌研究会は1月17日(水)に一ツ橋ホールで開催された.司会は平田一郎(藤田保健衛生大学消化管内科)が担当した.早期胃癌研究会運営委員長・浜田勉(社会保険中央総合病院消化器科)より新春の挨拶があり,引き続き3例の症例検討が行われた.

Coffee Break

大腸学事始め―(10)帰国,そして日本の大腸学の幕開け

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.498 - P.498

 1972年6月,いよいよ帰国のときが迫って来た.帰国前の思い出に,一家でイタリア一周旅行を計画したが,予定した2週間ではどうしても足りない.なにしろ4歳の娘が一緒なので,パリからはすべて電車の旅.予約なしに3時ごろ目的地に到着して宿を探し,病気にでもなれば直ちに引き返すという旅であるから,2週間ではローマあたりまでしか行けない.Dr. Morsonに恐る恐る3週間の休暇を願い出たら,“Oh, holiday is most important”と直ちにOKが出た.当時の英国人は9時に出勤して午前10時にはティータイムで30分休み,12時からは1時間の昼食休憩のあと午後3時から30分のティータイム,5時には帰宅というのが1日のスケジュールで,まともに働いている時間はほとんどないようなものであった.ただし,これは病理部の技術員の話で,外科医は朝7時から忙しく働いているのが常であった.フランス人ほどではないにしても,イギリス人も休暇を大変重要視しており,そのお蔭で一生の思い出に残るイタリア旅行ができたことに感謝している.

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欧文目次

ページ範囲:P.377 - P.377

書評「内科学」

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.402 - P.402

 医学書院から最近刊行された金澤一郎,北原光夫,山口徹,小俣政男4氏の総編集による『内科学』の書評を頼まれ,お引き受けしたところ,早速『内科学I・II』が私の事務室に送られてきたが,まずその量が膨大なのに驚いた.執筆者の数も同様に膨大である.

 その内容を見てみると,I巻のIの「社会のなかの内科学」の見出しが目にとまった.確かに医学は理系の学問の中では社会との接点が最も幅広い学問分野であり,その中で内科学が中心であることは周知の如くである.その意味で内科学書の最初の項目として,このような幅広い問題を取り上げたことは高く評価されるべきであろう.

編集後記

著者: 松井敏幸

ページ範囲:P.518 - P.518

 本号は狭義のIBD(Crohn病と潰瘍性大腸炎)における上部消化管病変の新たな展開を受け,企画された.その意義は,診断面では,上部消化管病変が,①診断契機となる,②Crohn病と潰瘍性大腸炎鑑別困難例の確定診断の補助となる,と思われる.また,治療的な意義は,③Crohn病の高度病変は治療対象となる,にあると思われる.潰瘍性大腸炎の上部消化管病変は極めて興味ある主題である.この問題は,病態生理面では,消化管病変の広がりからIBDの定義に関わる可能性がある.特にCrohn病は全消化管の病変との認識がある.一方,潰瘍性大腸炎では,炎症が大腸に限局することが本症の大きな特徴とされてきたが,手術後の回腸嚢炎に加え,上部消化管病変の頻度が高くなればCrohn病と病態生理を区別することが困難となる.その臨床的な意義はどのように理解されるべきであろうか? 潰瘍性大腸炎の上部消化管病変の病理学的あるいは臨床的な特徴像は本号で初めて明らかにされよう.長期的に見てこの病変がいかに進展するのかを見極めることが「胃と腸」に課せられた命題のように思える.本号では食道病変,胃・十二指腸病変の推移が詳述されている.また,Crohn病上部病変の内科的ならびに外科的治療にも新たな展開が期待できる.本号の論文がこれらに応えていると評価されるなら,本号の企画は成功したと言えよう.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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