内視鏡的経過例からみた早期胃癌の深達度と時間的推移―特にM癌からSM癌への発育進展速度に関与する遅速因子について
著者:
長浜孝
,
松井敏幸
,
槙信一朗
,
別府孝浩
,
八尾建史
,
武市昌郎
,
宮岡正喜
,
高木靖寛
,
高津典孝
,
松尾静香
,
諸隈強
,
小野陽一郎
,
二宮風夫
,
村上右児
,
久部高司
,
平井郁仁
,
津田純郎
,
田邉寛
,
岩下明徳
,
宇野博之
ページ範囲:P.1735 - P.1751
要旨 内視鏡的に6か月以上経過観察しえた早期胃癌105病変を対象とし,壁深達度が進展する速度について検討した.(1)M癌,SM癌の進展頻度と進展速度:M癌の平均観察期間は46か月で進展頻度は30.0%(M癌からSM癌16.7%,M癌から進行癌13.3%)でSM癌の平均観察期間は23か月であり,SM癌から進行癌73.3%でSM癌の進展頻度が有意に高かった(p=0.001).M癌の進展期間にはSM癌と比較して大きな幅があり,早期癌における発育進展の多様性はM癌の時期に規定されると推定した.(2)早期癌の累積進展率:累積進展率50%に要する推定時間はM癌からSM癌で85か月,SM癌から進行癌で31か月で,SM癌から進行癌への進展はM癌からSM癌への進展と比較して進展速度が有意に速かった(p<0.0001).(3)M癌からSM癌への進展に影響する因子:年齢,肉眼型などの臨床病理学的因子別に累積進展率を比較したが,すべての因子において有意差は認めなかった.そこで,M癌のうち4年未満に進展した急速発育群(RG群)11病変と4年以上進展しなかった遅発育群(SG群)15病変を抽出し臨床病理学的因子別に頻度を比較した結果,組織型で高・中分化型腺癌主体群と低分化型腺癌・印環細胞癌主体群に頻度差はなく,超高分化型腺癌主体群は他2群と比較してSG群の頻度が有意に高かった(p=0.02, 0.006).以上の成績より,内視鏡的にM癌からSM癌まで要する平均的な時間は7年程度,SM癌から進行癌まで2~3年程度と推測した.各種の臨床所見よりM癌の発育進展の予測因子は特定できなかったが,sub解析では病理組織学的に超高分化型腺癌,あるいはそれを主体としたM癌においては極めて遅い発育進展がありうると推測される.