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文献詳細

雑誌文献

胃と腸43巻12号

2008年11月発行

今月の主題 早期胃癌発育の新たな分析─内視鏡経過例の遡及的検討から

主題

内視鏡的経過例からみた早期胃癌の深達度と時間的推移―特にM癌からSM癌への発育進展速度に関与する遅速因子について

著者: 長浜孝1 松井敏幸1 槙信一朗1 別府孝浩1 八尾建史1 武市昌郎1 宮岡正喜1 高木靖寛1 高津典孝1 松尾静香1 諸隈強1 小野陽一郎1 二宮風夫1 村上右児1 久部高司1 平井郁仁1 津田純郎1 田邉寛2 岩下明徳2 宇野博之3

所属機関: 1福岡大学筑紫病院消化器科 2福岡大学筑紫病院病理部 3福岡成人病センター消化器科

ページ範囲:P.1735 - P.1751

文献概要

要旨 内視鏡的に6か月以上経過観察しえた早期胃癌105病変を対象とし,壁深達度が進展する速度について検討した.(1)M癌,SM癌の進展頻度と進展速度:M癌の平均観察期間は46か月で進展頻度は30.0%(M癌からSM癌16.7%,M癌から進行癌13.3%)でSM癌の平均観察期間は23か月であり,SM癌から進行癌73.3%でSM癌の進展頻度が有意に高かった(p=0.001).M癌の進展期間にはSM癌と比較して大きな幅があり,早期癌における発育進展の多様性はM癌の時期に規定されると推定した.(2)早期癌の累積進展率:累積進展率50%に要する推定時間はM癌からSM癌で85か月,SM癌から進行癌で31か月で,SM癌から進行癌への進展はM癌からSM癌への進展と比較して進展速度が有意に速かった(p<0.0001).(3)M癌からSM癌への進展に影響する因子:年齢,肉眼型などの臨床病理学的因子別に累積進展率を比較したが,すべての因子において有意差は認めなかった.そこで,M癌のうち4年未満に進展した急速発育群(RG群)11病変と4年以上進展しなかった遅発育群(SG群)15病変を抽出し臨床病理学的因子別に頻度を比較した結果,組織型で高・中分化型腺癌主体群と低分化型腺癌・印環細胞癌主体群に頻度差はなく,超高分化型腺癌主体群は他2群と比較してSG群の頻度が有意に高かった(p=0.02, 0.006).以上の成績より,内視鏡的にM癌からSM癌まで要する平均的な時間は7年程度,SM癌から進行癌まで2~3年程度と推測した.各種の臨床所見よりM癌の発育進展の予測因子は特定できなかったが,sub解析では病理組織学的に超高分化型腺癌,あるいはそれを主体としたM癌においては極めて遅い発育進展がありうると推測される.

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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