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文献詳細

雑誌文献

胃と腸43巻9号

2008年08月発行

今月の主題 colitic cancer/dysplasiaの早期診断─病理組織診断の問題点も含めて

症例検討

colitic cancer/dysplasiaの病理組織診断の現状と実際―解説とまとめ

著者: 味岡洋一1 松本誉之2 日比紀文3

所属機関: 1新潟大学大学院医歯学総合研究科分子・診断病理学分野 2兵庫医科大学総合内科学下部消化管科 3慶應義塾大学医学部消化器内科

ページ範囲:P.1343 - P.1368

文献概要

はじめに

 本邦でも潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)の罹患率が増加しており,その合併症としての大腸癌(colitic cancer)の早期発見と治療が臨床的課題となっている1).従来より欧米では,colitic cancer早期発見と治療のための内視鏡的サーベイランスが行われてきているが2),近年本邦でも,欧米の方法に準拠しつつも,内視鏡的狙撃生検を用いた独自のサーベイランスプログラム3)が考案・施行されている〔主題の樋田論文(1335頁)を参照〕.内視鏡的サーベイランスの最終目標は,生検で発癌早期の腫瘍(粘膜内癌もしくは前癌病変)を診断することにある.したがって,サーベイランスの成否や精度が,生検組織の病理診断に左右されることは論を待たない.

 UCの大腸粘膜には種々の異型を示す炎症・再生上皮が存在し,それらと発癌早期の粘膜内腫瘍とを鑑別することは困難なことも多い.欧米ではUCの発癌早期病変をdysplasiaと呼び,その診断ガイドライン(炎症・再生異型上皮との鑑別点や異型度分類基準)が提示されてきた(dysplasia分類4)).しかし,dysplasiaの病理診断の再現性は,必ずしも高くないことが指摘されている5).一方本邦では,消化管腫瘍の病理診断基準が欧米とは異なることから,UC粘膜に発生する異型上皮に対して独自の病理組織分類が提案されている(厚生労働省研究班分類6),以下厚労省研究班分類).また,炎症粘膜を発生母地とした腫瘍と,同粘膜に偶発した腺腫(sporadic adenoma)とでは異なる臨床的対応が必要とされているが7),両者の鑑別基準はdysplasia分類,厚労省研究班分類のいずれにおいても整理・明示されていない.こうした状況のもと,本邦の病理医は,UCの異型上皮に対して用いるべき分類や用語の選択,UCの発癌早期病変と炎症・再生異型上皮,sporadic adenomaとの鑑別,に苦慮しているのが現状ではないだろうか.本企画では,アンケートと実際の症例の診断をもとに,本邦の消化管病理を専門とする病理医が,UCの異型上皮をどのように診断しているのかを提示・解析したい.

参考文献

1)鈴木公孝,渡辺聡明,畑啓介,他.潰瘍性大腸炎の癌化とサーベイランスの検討.日本大腸肛門病会誌,56:62-69, 2003
2)Itzkowitz SH. Inflammatory bowel disease and cancer. Gatroenterol Clin North Am 26:129-139, 1997
3)松本誉之.潰瘍性大腸炎長期経過例へのサーベイランスシステムの確立─狙撃生検を中心としたサーベイランスによる早期発見の可能性に関する研究.厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(日比班)」平成15年度研究報告書.pp69-70, 2003
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7)Engelsgjerd M, Aarraye FA, Odze RD. Polypectomy may be adequate treatment for adenoma-like dysplastic lesions in chronic ulcerative colitis. Gastroenterology 117:1288-1294, 1999
8)Schlemper RJ, Itabashi M, Kato Y, et al. Differences in the diagnostic criteria used by Japanese and western pathologists to diagnose colorectal carcinoma. Cancer 82:60-69, 1998
9)棟方昭博.潰瘍性大腸炎診断基準改定案.「厚生省特定疾患難治性炎症性腸管障害調査班(下山班)」平成9年度研究報告書.pp 96-99, 1998

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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