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胃と腸46巻13号

2011年12月発行

雑誌目次

今月の主題 難治性潰瘍性大腸炎─診療・治療の新たな展開 序説

潰瘍性大腸炎における難治例は変化したか

著者: 松井敏幸

ページ範囲:P.1907 - P.1910

はじめに

 本誌2005年10月号で「難治性潰瘍性大腸炎─診断と治療の新知見」が取り上げられた.そのときの話題として,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の難治因子としてのCMV(cytomegalovirus)感染と,新たな治療法として白血球除去療法と免疫抑制剤などが取り上げられた.その後,薬物療法はさらに進歩を遂げ,新たな治療薬(高容量メサラジン,タクロリムス,インフリキシマブ),白血球除去療法・集中治療などが使用できるようになった.強力な治療薬剤の登場でUCの臨床が大きく変化したが,それぞれの治療効果の比較ないし,相対的使用順序,治療アルゴリズムなどは明らかではない.しかしながら,ステロイド抵抗例の相当数が寛解に導かれていると思われ,難治例の考え方も少し変わりつつあると思われる.

 本号では,これらの新知見とともに画像所見の解析を取り入れて,最近のUC診療の進歩が読み取れる号になることを期待している.

主題

難治性潰瘍性大腸炎に対する最新の治療法―本邦と欧米の現況

著者: 平田一郎

ページ範囲:P.1913 - P.1920

要旨 本邦では,難治性潰瘍性大腸炎(UC)の急性期寛解導入治療としてシクロスポリン持続静注,タクロリムス経口投与,インフリキシマブ(IFX)点滴静注,血球成分除去療法などが選択される.シクロスポリン(CsA)は効果発現が早いため,迅速な判断が要求される重症度の高い症例に推奨される.血球成分除去療法は重症度がそれほど高くない中等症に推奨される.欧米では,急性期寛解導入治療には主としてCsAとIFXが用いられている.難治性UC活動期の救済治療としてCsA,タクロリムス,IFXの短期成績は良好で,改善率はそれぞれ約80%,約70%,約70%とする報告が多いが,今後さらなる検証が必要である.いずれの薬剤においても長期成績は良好とは言えず,半数に及ぶ症例が最終的に手術を余儀なくされている.難治性UCの寛解維持治療としてはアザチオプリンや6-MPが原則として使用されるが,IFXで寛解導入ができた例では寛解維持にIFXの8週ごとの維持投与が選択可能である.

難治性潰瘍性大腸炎の特徴像―内科の立場から

著者: 藤田浩史 ,   長坂光夫 ,   平田一郎 ,   鎌野敏彰 ,   小村成臣 ,   柴田知行

ページ範囲:P.1922 - P.1937

要旨 クロストリジウムディフィシル(CD)腸炎やサイトメガロウイルス(CMV)腸炎は潰瘍性大腸炎(UC)の経過中に発症する感染症として一般的であり,特にUCに合併したCD腸炎,CMV腸炎での手術率や死亡率は一般集団に比べ増加傾向にある.両者の発症危険因子は類似しており,宿主の免疫低下状態との関連が深い.両者の診断に難渋する症例も多く,複数の診断手法を用い精度を高めることが重要である.また,難治性UCにおける上記腸炎は併発することも多いと考えられ,常に両者の混合感染に注意を払うことが大事である.

難治性潰瘍性大腸炎の特徴像―外科の立場から

著者: 杉田昭 ,   小金井一隆 ,   辰巳健志 ,   荒井勝彦 ,   山田恭子 ,   二木了 ,   黒木博介 ,   木村英明 ,   鬼頭文彦 ,   福島恒男

ページ範囲:P.1938 - P.1946

要旨 潰瘍性大腸炎に対する手術適応は重症(31%),難冶(59%),大腸癌またはdysplasia(10%)で,難治が最も多かった.難治例の手術術式は病変をすべて切除する大腸全摘,回腸囊肛門吻合術,また肛門管を温存して排便機能を良好にする回腸囊肛門管吻合術が標準であり,肛門機能低下例には大腸全摘,回腸人工肛門造設術を行う.手術適応からみた難治例とは,“内科治療に抵抗し,潰瘍性大腸炎自体やその治療のために長期にわたり著しくQOLの低下した状態”であり,臨床的には寛解導入または維持困難例(頻回の再燃,慢性持続型),ステロイドの重症副作用発生例またはその可能性がある例,難治性腸管外合併症併発例(難治性壊疽性膿皮症,小児成長障害)に加え,排便障害で社会生活が困難な例(特に便意切迫),適切な内科治療を受けた後に就職などのために再発のない治療を希望する例と考えられる.切除標本からみた難治性の特徴は腸管壁の肥厚,狭小化,短縮があり,粘膜には深い潰瘍はなく,萎縮性であることが多かった.本症に対する治療の目的は社会復帰を含めたQOLの改善である.難治例では患者の生活状況に十分留意して注腸造影検査,大腸内視鏡検査などを併用し,上記の手術適応がある例には時期が遅れることなく手術を行うことが重要である.

難治性潰瘍性大腸炎の組織学的特徴―初発時の生検組織像による難治化症例の予測

著者: 江頭由太郎 ,   藤井基嗣 ,   西田司 ,   阿倍洋介 ,   村野実之 ,   梅垣英次 ,   芥川寛 ,   樋口和秀

ページ範囲:P.1947 - P.1955

要旨 ステロイド治療に抵抗を示した難治性潰瘍性大腸炎(UC)24例とステロイド治療が奏効した非難治性UC 25例の初発時生検組織の病理学的因子を比較検討した.単変量解析にて潰瘍性大腸炎の難治化と有意な相関を示したのは“粘膜筋板肥厚”,“びらん”,“炎症細胞浸潤(高度~中等度)”,“好中球/好酸球≧1”,“杯細胞減少(高度~中等度)”,“虫垂開口部病変”,直腸炎型”であった.下線で示した4種の因子は難治化の危険因子で,他の3種の因子は難治化の抑制因子であった.多変量解析で,有意な独立性の認められた因子は“直腸炎型”だけであった.これらの結果よりUC難治化のリスク予測基準案を作成した.この基準の感度は100%,特異度は76.0%,総正診率は87.8%であり,精度の高い予測が可能となると考えられた.

難治性潰瘍性大腸炎に対するタクロリムス急速導入療法の治療効果と安全性

著者: 村野実之 ,   井上拓也 ,   楢林賢 ,   能田貞治 ,   石田久美 ,   川上研 ,   阿部洋介 ,   村野直子 ,   時岡聡 ,   梅垣英次 ,   江頭由太郎 ,   樋口和秀

ページ範囲:P.1957 - P.1968

要旨 タクロリムスは難治性潰瘍性大腸炎(UC)に対する新たな治療法として寛解導入効果など有効性が実証された薬剤である.しかしながら,その使用法に関して血中トラフ濃度コントロールや用量調節方法など課題点が存在する.今回,筆者らは難治性UCに対するタクロリムスの短期治療効果について,さらにタクロリムス急速導入療法(RI)の有用性と安全性について検討した.RIにより,短期奏効率は83.3%(25/30)と非常に高い有効性を示していた.また重篤な有害事象も認めず,安全性が確認された.早期トラフ到達性は投与4日以内に93.3%の症例で至適トラフ値に到達した.また,4週後の改善度(CAI減少度)は2~3週間目の中期平均トラフ値と相関を認めた.さらに安定した中期トラフ値をもたらすのは,タクロリムス投与後5日以内の初期トラフを上昇させることが有用であると考えられ,RIが4週後の症状改善に有効であると考えられた.以上のように,タクロリムスは難治性UCの寛解導入・維持において有効な薬剤であるが,症例の選択や導入時期投与期間,および併用薬剤などの問題,また重篤な副作用もあるため慎重に適応症例を検討し,厳重な管理のうえでの投与が必要であると考えた.

難治性潰瘍性大腸炎に対するタクロリムス急速飽和療法の短期・長期治療成績

著者: 高津典孝 ,   平井郁仁 ,   佐藤祐邦 ,   大門裕貴 ,   矢野豊 ,   小野陽一郎 ,   久部高司 ,   長浜孝 ,   高木靖寛 ,   松井敏幸

ページ範囲:P.1970 - P.1980

要旨 タクロリムス(TAC)急速飽和療法により治療した,難治性潰瘍性大腸炎(UC)42例を対象に,短期治療成績・長期治療成績を検討した.平均DAIスコア11.1と重症例が多かったが,短期有効率69.0%,短期手術回避率83.0%であり,短期治療成績は良好であった.長期治療成績に関しては,80か月後の累積非手術率59.5%と,比較的多くの症例が経過観察中に手術となっていたが,TACの短期反応性が良好である群は有意に手術回避率が高かった.以上より,TACの短期治療反応性により,その後の経過をある程度予測できるものと思われた.

難治性潰瘍性大腸炎に対する新しい内科治療―インフリキシマブの効果と位置づけ

著者: 井上詠 ,   岩男泰 ,   松岡克善 ,   三好潤 ,   三上洋平 ,   筋野智久 ,   久松理一 ,   岡本晋 ,   金井隆典 ,   日比紀文 ,   緒方晴彦

ページ範囲:P.1981 - P.1991

要旨 当院でインフリキシマブ投与を行った難治性潰瘍性大腸炎28例の導入療法効果および維持療法の成績,安全性を検討した.インフリキシマブ投与は導入に0,2,6週の3回投与,維持投与は8週ごとの投与を基本とした.追跡不能1例を除いた27例全体での導入療法の有効率は63.0%,投与目的別ではタクロリムス不応・再燃40.0%,ステロイド抵抗85.7%,ステロイド依存57.1%,そのほかの難治例100%の有効率を示した.計画的維持投与を行っている症例では,導入療法で寛解となった8例中6例が寛解を維持しており,2例は再燃を認めたが,再導入療法や投与期間短縮にて再び寛解を維持している.副作用は1例で投与時反応により投与を中止した.以上の結果から,インフリキシマブは難治性潰瘍性大腸炎に対する治療として,寛解導入および寛解導入例での寛解維持に有用な薬剤であることが示された.

難治性潰瘍性大腸炎に対するチオプリン製剤の寛解維持効果―再発関連因子の検討

著者: 河内修司 ,   江㟢幹宏 ,   藤岡審 ,   久保倉尚哉 ,   江頭一成 ,   池上幸治 ,   松本主之 ,   北園孝成

ページ範囲:P.1992 - P.2001

要旨 潰瘍性大腸炎の臨床経過を遡及的に検討し,チオプリンによる寛解維持効果と再発関連因子を評価した.(1)チオプリン投与109例における6か月および12か月後の累積寛解維持率は77%と57%であった.(2)再発関連因子の検討では,ステロイド抵抗性(p=0.0008)と喫煙(p=0.003)が再発と有意に関連していた.しかし,再発例と非再発例でチオプリン維持投与に先行する寛解導入前の再発時大腸内視鏡所見に差はなかった.(3)チオプリン投与開始前に内視鏡を施行した48例において,チオプリンの寛解維持効果と有意に関連する内視鏡所見はなかった.以上より,潰瘍性大腸炎に対するチオプリンの寛解維持効果はステロイド反応性や喫煙習慣などの臨床像により異なることが明らかとなった.

難治性回腸囊炎の病態と治療

著者: 福島浩平 ,   小川仁 ,   羽根田祥 ,   渡辺和宏 ,   神山篤史 ,   鈴木秀幸 ,   三浦康 ,   柴田近 ,   佐々木巌 ,   日當愛美 ,   小森祐奈 ,   佐々木佳織 ,   高橋賢一 ,   舟山裕士

ページ範囲:P.2003 - P.2008

要旨 潰瘍性大腸炎術後に発症する回腸囊炎のうち,10数%程度は抗菌薬治療抵抗性あるいは依存性のいわゆる難治性回腸囊炎に含まれると推測される.難治例の内視鏡所見の特徴を記述することは,臨床上極めて重要と考えられるが,難治の定義が定まらない現状では,それが十分に解析されているとは言い難い.まして,なぜ難治になるのかといった,根本的な命題に対する解答は全くもちあわせていない.本稿では,厚生労働省「難治性炎症性腸管障害調査研究班」(渡辺班)で改訂された「Pouchitis内視鏡診断アトラス」,「診断基準」,「治療指針」の内容を紹介するとともに,難治性回腸囊炎に対する治療内容の現状について記述する.

ノート

難治性潰瘍性大腸炎と5-ASA製剤―大量療法を中心に

著者: 渡辺憲治 ,   新藤正喜 ,   塚原卓矢 ,   伊藤良恵 ,   森本謙一 ,   野口篤志 ,   杉森聖司 ,   鎌田紀子 ,   十河光栄 ,   町田浩久 ,   岡崎博俊 ,   谷川徹也 ,   山上博一 ,   富永和作 ,   渡辺俊雄 ,   藤原靖弘 ,   荒川哲男

ページ範囲:P.2009 - P.2015

要旨 潰瘍性大腸炎の治療の基本となる各種5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤の特徴と,それらの高用量投与による寛解導入療法,寛解維持療法について述べた.5-ASA製剤も今後新規薬剤の導入が見込まれるが,サラゾスルファピリジンも副作用さえ生じなければ有用性が残されている.5-ASA製剤による治療のキーワードは送達性と用量であり,安全性が高く用量依存性の5-ASA製剤による高用量投与は,寛解導入療法のみならず寛解維持療法においても有用性を発揮する可能性があり,ステロイド,血球成分除去療法,免疫調節剤の使用前に試みておくべき治療法である.

難治性潰瘍性大腸炎と白血球除去療法―intensive therapyを中心に

著者: 上小鶴孝二 ,   福永健 ,   松本誉之

ページ範囲:P.2016 - P.2021

要旨 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の治療は免疫統御療法や抗TNF-α療法の保険適用など大きな飛躍を遂げた.白血球系細胞除去療法(cytapheresis ; CAP)も,2010年には,UCに対して,週における治療スケジュールの回数制限がなくなり,CAPのintensive therapyが可能となった.当院の検討でも,GMA,LCAPとも副作用なく,週1回法と同程度の割合の寛解導入がより速やかに可能であった.CAPのintensive療法は安全に効果を出すことが可能であるので,適用症例には積極的に行うべきと考える.

早期胃癌研究会症例

著明な狭窄を伴う全周性の潰瘍を呈した腸結核の1例

著者: 上田渉 ,   大川清孝 ,   佐野弘治 ,   有本雄貴 ,   三宅清花 ,   末包剛久 ,   久保勇紀 ,   井上健 ,   江頭由太郎

ページ範囲:P.2024 - P.2030

要旨 患者は20歳代,女性.腹痛,下痢,微熱を主訴に来院した.注腸X線検査では,回盲部に著明な狭窄を呈した.下部内視鏡検査で狭窄部に全周性の潰瘍を認めた.潰瘍底は顆粒状で白苔はみられず,潰瘍辺縁になだらかな周堤を伴っていた.潰瘍肛門側辺縁には発赤が認められた.病変部からの生検培養と便培養にて結核菌を認め,また肺結核も認められたため,続発性腸結核と考えられた.抗結核療法後,腸閉塞を呈し右半結腸切除術が施行された.通常腸結核の潰瘍は浅いが,本症例はUl-IIIからUl-IVの深い全周性潰瘍を呈しており,画像所見から腸結核を疑うことは難しかった.本例は深い潰瘍と膿瘍を形成することで,筋層から漿膜下層にかけて強い線維化を来したために,腸壁の肥厚と著明な狭窄を来したと考えられた.

粘膜下腫瘍様の形態を呈した直腸粘液癌の1例

著者: 田畑拓久 ,   小泉浩一 ,   桑田剛 ,   原精一 ,   来間佐和子 ,   江頭秀人 ,   藤原崇 ,   神澤輝実 ,   江川直人 ,   藤原純子 ,   荒川丈夫 ,   門馬久美子 ,   松本寛 ,   堀口慎一郎

ページ範囲:P.2031 - P.2038

要旨 患者は57歳,男性.検診で便潜血陽性を指摘され,精査目的に当院を受診した.大腸内視鏡検査で直腸に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.表面に浅い陥凹を有し,陥凹内に粘液開口部と思われる小さな結節状隆起を複数認めた.粘膜面に明らかな上皮性腫瘍成分を指摘しえなかったが,開口部からの生検では粘液癌が強く疑われた.直腸癌,Rb,Type 5,MP,N0H0P0M0,cStage Iの診断のもと,超低位前方切除術と所属リンパ節郭清(D2)が行われた.組織学的には粘膜下層~固有筋層にかけて多数の粘液結節が形成され,粘液内に不整な腺管構造をとる腫瘍細胞が浮遊し,高分化型粘液癌の所見であった.

今月の症例

特異な形態を呈した早期大腸癌の1例

著者: 鴫田賢次郎 ,   上田裕之 ,   木村茂 ,   永田信二 ,   大越裕章 ,   金子真弓 ,   日高徹 ,   嶋本文雄

ページ範囲:P.1902 - P.1905

 〔患 者〕 60歳代,男性.

 〔主 訴〕 便潜血陽性.

 〔既往歴・家族歴〕 肝内胆管癌術後.

 〔現病歴〕 2008年X月,便潜血陽性のため大腸内視鏡検査を施行し病変を指摘された.

画像診断レクチャー

内視鏡診断(拡大観察・NBIを中心に)―Barrett食道癌の内視鏡診断

著者: 藤崎順子

ページ範囲:P.2039 - P.2046

はじめに

 最近,本邦ではSSBE(short segment Barrett's esophagus)に発生したBarrett食道癌の報告が増加しており,内視鏡治療が施行されている症例も報告されている1)2).また,Barrett食道癌における拡大内視鏡診断の有用性に関する報告もみられる1)~6)

 今回,筆者らは2010年6月の画像診断レクチャーで発表した内容,すなわち2005~2009年までに経験し,ESD(endoscopic submucosal dissection)手術を施行した表在型Barrett食道癌12例を対象に,その内視鏡像の特徴,拡大内視鏡所見について述べる. なお,Barrett食道癌の定義は「食道癌取扱い規約」7)に沿って行った.

形態診断に役立つ組織化学・分子生物学

―消化管感染症の病理―形態診断に役立つ病理組織所見

著者: 砂川恵伸 ,   堤寛

ページ範囲:P.2047 - P.2054

はじめに

 消化管は口腔から始まり肛門まで外界と交通している.大腸内には常在細菌叢が形成されている.呼吸器系と同様に,無菌野ではないため,培養のみが施行され病原体が検出されたとしても,“汚染菌”か“真の感染原因菌”を培養検査結果のみから鑑別することは困難である.病理組織診断法は,感染症病原体の同定に加えて,既存組織の出血,壊死,潰瘍形成の有無などから“真の感染症”が診断可能である.本稿では,消化管感染症の形態診断に役立つ病理組織所見を中心に述べる.

胃と腸 図譜

胃粘膜下異所腺

著者: 萩原朋子 ,   角嶋直美 ,   小野裕之

ページ範囲:P.2056 - P.2058

1 概念,病態

 胃粘膜下異所腺とは,本来胃粘膜固有層内に存在する胃腺組織が,異所性に胃粘膜下に認められるものである.切除胃の4.0~10.71)2)に認められると報告されている.40~60歳代に好発し,男性に多い.部位は胃体部に多い傾向がある.背景粘膜に萎縮性胃炎や腸上皮化性を示すことが多く,平坦なものから,polypoid状,粘膜下腫瘤様など様々な肉眼形態をとる.

 発生機序は,胃粘膜のびらん・再生を繰り返している間に,粘膜下層に異所腺を生じるという後天性炎症説を有力視している報告が多い.一方,異所腺は先天的な過形成であるという説もあり,若年者の報告もまれではあるが存在す3)

学会印象記

第81回日本消化器内視鏡学会総会

著者: 勝木伸一

ページ範囲:P.2059 - P.2060

 第81回日本消化器内視鏡学会総会は,吉田茂昭会長(青森県立中央病院)のもと8月17日から3日間,「消化器内視鏡の可能性─検証と挑戦─真のプロフェッショナルをめざして」をメインテーマに名古屋国際会議場で開催された.

 本来であれば,本年4月21日に青森で開催予定であったが,東日本大震災のため繰り延べ開催となった. 名古屋の夏は非常に暑く,蒸していて,北海道出身の私にとってはとても厳しい学会となった.幸い,会場内は,ノーネクタイでの出席が許されており,座長,演者も含めて,ほとんどの参加者が軽装で参加していた.

Coffee Break

おもいこみ(3)─シンポとパネルはどう違う?

著者: 岡﨑幸紀

ページ範囲:P.2022 - P.2023

 ある日,医局である学会のプログラムをみていた若い医局員たちから「先生,シンポジウムとパネルディスカッションとはどんな違いがあるのですか?」と声をかけられた.思わず,えっ,そんなことも知らないのか,と思ったが,以前からの気懸り事項であったので,かくかくしかじかと説明した.では,ワークショップは,フォーラムは,と質問が続いた.

 いささか気になったので,その後,中堅クラスの医局員に発表形式の違いを聞いてみたところ,「シンポもパネルも同じようなものじゃないですか」「内容のいいほうからシンポ,パネルと選ぶんではないですか」,「ワークショップも同じようなものでしょう」,「格からいえばシンポ,パネル,ワークとなりますね」,「演者になると評議員や指導医になるとき有利とか」と返事がかえり唖然とした.

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欧文目次

ページ範囲:P.1901 - P.1901

第18回「白壁賞」論文募集

ページ範囲:P.1911 - P.1911

 「胃と腸」編集委員会では,故白壁彦夫先生の偉業を讃え,「白壁賞」を設け,優秀な研究・論文を顕彰しております.今回は「白壁賞」の論文を下記の要領で公募いたしますので,奮ってご応募ください.英文誌に発表された消化管の形態・診断学に関する論文が応募の対象となります.

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1955 - P.1955

 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

お知らせ「早期胃癌研究会9月度例会 開催について」

ページ範囲:P.2023 - P.2023

 日々,早期胃癌研究会に絶大なるご支援を頂戴し誠にありがとうございます.

 去る9月21日,早期胃癌研究会開催に当たりまして,台風直撃の状況下,研究会開催を強行致しまして先生方に大変ご迷惑をお掛け致しましたこと,深くお詫び申し上げます.

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.2060 - P.2060

早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

学会・研究会ご案内

ページ範囲:P.2061 - P.2065

投稿規定

ページ範囲:P.2066 - P.2066

編集後記

著者: 江頭由太郎

ページ範囲:P.2067 - P.2067

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)難治例の寛解導入に対してサイクロスポリンAや白血球除去療法が使用されていたが,近年,新たにタクロリムス,インフリキシマブの投与が保険承認となった.さらに,寛解維持におけるアザチオプリン,6-MPの使用例が増加し,薬剤放出機序の異なる新たな5-ASA(5-aminosalicylic acid)製剤も保険承認を受けている.また,UCの難治化に関与する因子の検討では,併存する腸管感染症(Clostridium difficile, cytomegalovirusなど)が難治化要因として注目されている.本号の企画の目的は,最新の治療法の位置づけや組み合わせ,難治化の要因を含めた難治性UCの治療の進歩と問題点を整理し,総合的に考える機会を提供することである.

 松井は序説にて,UC患者数と難治例の動向,UC難治例の定義と特徴を概説し,UC難治例診療の問題点を浮き彫りにした.平田論文では,難治性UCの最新の治療法の概要を本邦と欧米で比較して解説されている.そのなかで,難治性UC活動期の救済治療として,シクロスポリン,タクロリムス,インフリキシマブはいずれも,短期成績は良好であるが,長期成績は良好とは言えず,約半数が手術治療を余儀なくされると述べられている.藤田論文では,UC難治化要因の1つであるClostridium difficile感染,cytomegalovirus感染について,診断法と内視鏡所見を中心に解説された.両者ともに発症要因に免疫低下状態が関与していることや,難治性UCには両者の混合感染の頻度が高いことも指摘されている.杉田論文では,外科の立場から難治性UCの手術適応について,実際の症例を供覧しながら詳述されている.また,難治性UCの切除標本からみた特徴像として,腸管壁の肥厚,狭小化,短縮および深い潰瘍を伴わない粘膜の萎縮が挙げられている.江頭論文では,初発時の生検組織像と難治化の関連を検討した.その結果,複数の有意な難治化の危険因子と抑制因子を抽出することができ,初発時の生検組織像によるUC難治化予測の可能性を示せたものと考える.

次号予告

ページ範囲:P.2068 - P.2068

「胃と腸」第46巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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