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文献詳細

雑誌文献

胃と腸47巻5号

2012年05月発行

文献概要

特集 図説 胃と腸用語集2012 疾患〔腸〕

腸管スピロヘータ症(intestinal spirochetosis)

著者: 岩下明德1 田邉寛1

所属機関: 1福岡大学筑紫病院病理部

ページ範囲:P.797 - P.797

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 ヒト腸管スピロヘータ症(human intestinal spirochetosis;HIS)は,螺旋状を呈するグラム陰性嫌気性菌のBrachyspira属を原因菌とする大腸感染症である.梅毒(syphilis)と混同されることがあるが,梅毒の原因菌であるTreponema pallidumとは全く異なる弱毒性の菌である.1967年にHarlandとLee1)が初めて命名し,本邦では1998年にNakamuraら2)が最初の報告をして以来,近年増加している.ヒトへの感染はB. aalborgiとB. pilosicoliの報告例があり,B. pilosicoliはヒトだけでなく様々な動物に広く感染がみられ,人畜共通感染症として注目されているが,B. aalborgiはヒトと高等霊長類のみに感染が認められている.本邦での感染は,多くがB. aalborgiである.感染経路は主に糞便を介した経口感染と推測されており,感染形態は家族内あるいは部族内に広範囲に感染をみる発展途上国の感染様式と,AIDSなどの免疫不全患者に発生する欧米の日和見感染様式の大きく2種類とされているが,本邦の感染形態はいずれにも属していないと思われる.

 スピロヘータ(spirochetes)は病理組織学的に大腸上皮表面に好塩基性で毛羽立ち状に付着した特徴ある菌塊として観察され(Fig. 1),そのままでは病原性を発揮しない.最近の多数例の集積・検討結果3)4)から,その多くは大腸腺腫や過形成性ポリープなどに偶然存在が確認され,臨床的,また病理組織学的に明らかな症状や炎症所見を呈さない例,つまり保菌者であろうと考えられている.換言すると腸管スピロヘータ症を臨床的,内視鏡的に診断することはほとんど不可能に近く,病理組織学的にも見落とされる場合が多いので,その診断には注意深い丹念な検鏡が必要である.臨床的,病理組織学的に腸炎の所見がみられ,その原因がスピロヘータ以外特定できない症例も少数例あり,それらは本菌が病原性を発揮している本当の意味での感染症が疑われる.しかし,基本的にスピロヘータの感染のみで強い炎症像を呈することはほとんどないため,その際は他疾患の合併,特にアメーバ性腸炎などの合併を考慮し再評価する必要がある.

参考文献

1)Harland WA, Lee FD. Intestinal spirochetosis. Br Med J 3 : 718-719, 1967
2)Nakamura S, Kuroda T, Sugai T, et al. The first reported case of intestinal spirochaetosis in Japan. Pathol Int 48 : 58-62, 1998
3)中村眞一.細菌・真菌・クラミジアによる消化管障害─腸管スピロヘータ.臨消内科 26 : 969-977, 2011
4)田邉寛,岩下明徳,原岡誠司,他.腸管スピロヘータ症─自験176例からみた臨床病理学的意義.Intestine 15 : 60-66, 2011

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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