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特集 図説 胃と腸用語集2012 病理
K-ras
著者: 上田博文1 内山和久2
所属機関: 1獨協医科大学病理学(人体分子) 2大阪医科大学一般消化器外科
ページ範囲:P.845 - P.845
文献購入ページに移動遺伝子変異が癌で高頻度に認められることがわかると,それを検出することでそれぞれの癌の診断に応用しようという試みが多くなされている.K-ras遺伝子の単塩基変異を検出する方法には,制限酵素断片長多型法(restriction fragment length polymorphism;RFLP),サザンブロット法,オリゴヌクレオチド・ライゲーション法,アレル特異的PCR(polymerase chain reaction)法やダイレクトシークエンス法などがある(Fig. 1).さらに次世代シークエンサーを活用した検出も開発されている.次世代シークエンサーとしてはultra-deep pylosequencingやHRM(high resolution melting analysis)などがある.従来の方法に比べてコストも安く,しかも大量の配列検索が可能とされている.大腸癌における分子標的治療の対象を絞り込む目的で,迅速かつ高感度のras遺伝子の変異検索の手技が求められているのが現状である.rasもしくはraf遺伝子変異大腸癌では,EGFR(epidermal growth facter receptor)を分子標的にした治療に抵抗性であることから,米国の転移性大腸癌のガイドラインでは,EGFRを分子標的にした治療を行うにはrasとraf遺伝子の変異検索が必要であるとされている1).HRMは近年開発されたPCR解析であり,目的の領域をPCRで増幅した後でそのPCR産物の溶解曲線の解離の違いから野生型と変異型とを分ける手法である.一方,pylosequencingはルシフェラーゼ発光を利用した手法で正常組織に含まれる少量の癌細胞における変異の検出に適しているとされている.1975年から,組み替えDNAでの遺伝子研究,さらにはヒトゲノム時代を経由して,2010年以降,生命現象の包括的理解のためのゲノム時代が,手法の簡素化とともに始まったと言える.ras遺伝子と大腸癌の解析も発癌機序を目的にした解析から分子標的遺伝子治療(バイオマーカによる個別化治療)へと変遷している.いずれにしても,重要なことはそれぞれの検出方法を用いたときの偽陰性への精度管理である.腺管分離法(microdissection)などによる腫瘍だけを対象にしている場合と生検や手術標本の組織を一部採取する(macrodissection)などのように腫瘍と間質が同時にサンプルに含まれている場合とでは,結果が異なることがあるので,注意が必要である.
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