胃と腸47巻8号

2012年07月発行

早期胃癌研究会症例

直腸早期低分化腺癌（pSM微小浸潤癌）の1例

著者： 吉井新二¹ 石垣沙織¹ 小平純一¹ 岡原聡¹ 奥田博介² 松本岳士¹ 高橋宏明¹ 穂刈格¹ 塚越洋元¹ 久須美貴哉³ 細川正夫³ 藤田昌宏⁴ 佐藤利宏⁴ 佐藤忠弘⁵

所属機関： ¹1）恵佑会札幌病院消化器内科 ²2）恵佑会札幌病院腫瘍内科 ³3）恵佑会札幌病院外科 ⁴4）恵佑会臨床病理学研究所 ⁵5）さとう内科医院

ページ範囲：P.1284 - P.1292

文献概要

要旨　患者は70歳代，女性．スクリーニング目的に大腸内視鏡検査を施行された．通常内視鏡観察で下部直腸にIIa＋IIc病変を認め皺襞集中像を伴っていた．拡大観察ではIIa部にIII_L型pit patternがみられ，IIc部にはV_I型高度不整pit patternや点状模様所見がみられSM深部浸潤癌と診断した．術前生検では小型細胞が胞巣状に増生し低分化腺癌の所見であった．腹会陰式直腸切断術が施行され，病理所見ではIIa部は高分化管状腺癌でIIc部は低分化腺癌であった．深達度は低分化腺癌の領域も含めて大部分がpMでわずかな領域にpSM微小浸潤（350μm）を認めるのみであった．粘膜下層には高度な線維化を認めひだ集中の原因と考えられた．大腸低分化腺癌の初期像，診断において示唆に富む症例と考え報告する．

参考文献

1）安富正幸，松田泰次，肥田仁一，他．大腸癌分類規約と疫学．日臨 46 : 356-365, 1988

2）斉藤裕輔．大腸低分化腺癌の初期像とその進展─主題症例・主題関連症例のまとめ : 臨床の立場から．胃と腸 45 : 1830-1832, 2010

3）坂本琢，松田尚久，松本美野里，他．大腸低分化腺癌の内視鏡的特徴．胃と腸 45 : 1750-1756, 2010

4）黒河聖，今村哲理，本谷聡，他．早期盲腸低分化腺癌の1例．胃と腸 45 : 1777-1784, 2010

5）大腸ESD標準化検討部会（編）．ESD : Endoscopic submucosal dissection─Technique for colon and rectum．オリンパスメディカルシステムズ，2008

6）北川晋二，下田悠一郎，梶原哲郎，他．表面型早期大腸腫瘍のX線診断．臨放 40 : 1305-1315, 1995

7）豊永高史，広岡大司，大地宏昭，他．表面型大腸腫瘍に対する生検の問題点について．Gastroenterol Endosc 39 : 984-989, 1997

8）斉藤裕輔，多田正大，工藤進英，他．通常内視鏡による大腸 sm 癌垂直浸潤距離 1,000μm の診断精度と浸潤所見─大腸癌研究会「内視鏡摘除の適応」プロジェクト研究班結果報告．胃と腸 40 : 1855-1858, 2005