胃と腸47巻9号

2012年08月発行

早期胃癌研究会症例

隆起型の肉眼型を呈した非充実型低分化型胃癌の1例

著者： 池田英司¹ 大野康寛¹ 桑田健²³ 設楽裕行⁴ 布施望¹ 小島隆嗣¹ 三梨桂子¹ 池松弘朗¹ 矢野友規¹ 吉野孝之¹ 田原信¹ 土井俊彦¹ 佐竹光夫⁴ 落合淳志²³ 金子和弘¹ 大津敦¹

所属機関： ¹国立がん研究センター東病院消化管腫瘍科 ²国立がん研究センター東病院臨床開発センター臨床腫瘍病理部 ³国立がん研究センター東病院病理科・臨床検査科 ⁴国立がん研究センター東病院放射線診断部

ページ範囲：P.1435 - P.1445

要旨　患者は67歳，女性．市の胃がん検診にて異常を指摘され，前医を受診．上部消化管内視鏡検査にて胃体中部に1型胃癌を指摘され，精査・加療目的にて当科へ紹介され受診となった．胃X線検査では，胃体中部大彎に35mm大の急峻な立ち上がりを示す1型病変とその周囲に浅い陥凹性病変の拡がりが認められた．上部消化管内視鏡検査においても，胃体中部大彎に粘液の付着を伴う40mm大で発赤調の隆起性病変と周囲に拡がる浅い褪色調の陥凹性病変が認められ，病変全体は軽度の隆起上に存在していた．NBI拡大観察では，隆起部分には口径不同を伴わないネットワーク状の太い血管が観察され，周囲の陥凹部には口径不同を伴う螺旋状の細い血管が観察された．生検組織において，隆起部分では低分化腺癌が，周囲の陥凹部では中分化管状腺癌が認められた．深達度はMPと診断し，幽門側胃切除術，およびD2リンパ節郭清を施行した．切除標本において，隆起病変部は粘膜下層での著明な線維化を伴う非充実型低分化腺癌細胞の増殖により形成されており，病変の表面は肉芽組織で覆われていた．また，隆起病変部辺縁から周囲の陥凹性病変部の粘膜固有層内には中分化管状腺癌を認めた．深達度はSEであった．本症例のように非充実型低分化腺癌が潰瘍形成を伴わない隆起型進行癌を呈する例は非常にまれであり，その病理組織学的所見について文献的考察を含めて報告する．

参考文献

1）松村幸次郎，田中千凱，伊藤隆夫．分化型胃癌と低分化型胃癌の臨床病理学的比較検討．癌の臨 31 : 277-281, 1985

2）小山田裕一，竹腰隆男，藤井彰，他．未分化型隆起性胃癌の臨床的検討．Prog Dig Endosc 消内視鏡の進歩 30 : 153-158, 1987

3）馬場保昌，清水宏，武本憲重，他．胃癌組織型分類とX線・内視鏡所見．胃と腸 26 : 1109-1124, 1991

4）中村恭一．胃癌の構造，初版．医学書院，pp 33-35，1982

5）太田博俊，高木国夫，大橋一郎，他．早期胃癌1000例の検討─肉眼分類を中心に．日消外会誌 14 : 1399-1408, 1981

6）竹下公矢，中島昭，森重夫．組織型別にみた早期胃癌の内視鏡的特徴．Gastroenterol Endosc 24 : 440-447, 1982

7）佐野量造．胃疾患の臨床病理．医学書院，pp 4-5，1974

8）中原慶太，渡辺靖友，田宮芳孝，他．早期胃癌の肉眼型─決め方・考え方とその典型像 : 0I型，0IIa型．胃と腸 44 : 507-521, 2009

9）安西春幸，高木国夫，太田博俊，他．未分化型腺癌の組織像を示す隆起型早期胃癌の臨床病理学的検討．日消外会誌 21 : 2094-2098, 1988

10）菅野晴夫，中村恭一．II．隆起型早期胃癌．常岡健二（編）．早期胃癌のすべて（内科シリーズNo. 8）．南江堂，pp 59-70，1972

11）草野敏臣，吉田茂昭，河村譲，他．未分化系腺癌を呈した隆起性早期胃癌の内視鏡像について．Prog Dig Endosc 消内視鏡の進歩 15 : 86-89, 1979

12）川浦幸光，金子芳夫，岩喬．隆起性胃癌の内視鏡所見と組織型の比較．Gastroenterol Endosc 23 : 686-690, 1981

13）安達洋祐，森正樹，遠城寺宗知．I型早期胃低分化腺癌の臨床病理学的観察．胃と腸 23 : 577-581, 1988

14）Sakane M, Kashiwagi R, Mitsutsuji M, et al. A case of poorly differentiated early adenocarcinoma of the stomach forming a protruded type lesion. Dig Endosc 9 : 300-304, 1997

15）富松久信，井手一敏，古賀俊彦，他．印環細胞癌の組織型を呈した2c＋1型早期胃癌の1例．Gastroenterol Endosc 33 : 562-566, 1991

16）真口宏介，折居裕，峯本博正，他．IIa集簇型を呈した未分化型胃m癌の1例．胃と腸 26 : 209-215, 1991

17）高橋信雄，坂本眞，松葉周三，他．隆起型を呈した胃の印環細胞癌の1例．日消誌 93 : 30-33, 1996

18）高見元敞，花田正人，木村正治．病巣の中心部にポリープ状隆起を生じた胃の印環細胞癌の1例．胃と腸 19 : 1139-1146, 1984

19）市吉裕二，朔元則，前川宗一郎，他．胃過形成性ポリープより発生した低分化腺癌の1例．胃と腸 27 : 695-699, 1992

20）田中久雄，堀江聡，柏木亮太，他．ポリポーシス様所見を呈した胃低分化腺癌の1例．Gastroenterol Endosc 46 : 1051-1056, 2004

21）Adachi Y, Yasuda K, Inomata M, et al. Pathology and prognosis of gastric carcinoma : well versus poorly differentiated type. Cancer 89 : 1418-1424, 2000

22）大辻英吾，栗生宜生，金修一，他．充実型および非充実型胃低分化腺癌の臨床病理学的検討．京府医大誌 112 : 855-858, 2003

23）百瀬達夫，百瀬貞子，唐沢洋一，他．胃穹窿部隆起性癌の1例．胃と腸 15 : 1323-1328, 1980

24）細川治，海崎泰治，林裕之，他．食道胃接合部に発生し隆起型を呈した未分化型sm癌の1例．胃と腸 36 : 703-707, 2001

25）森山友章，福田好世，谷口英人，他．低分化腺癌を主体にして亜有茎性隆起を形成した1型進行胃癌の1例．胃と腸 39 : 827-832, 2004

26）Nakayoshi T, Tajiri H, Matsuda K, et al. Magnifying endoscopy combined with narrow band imaging system for early gastric cancer : correlation of vascular pattern with histopathology（including video）. Endoscopy 36 : 1080-1084, 2004

27）竹内洋司，上堂文也，飯石浩康，他．狭帯域フィルター（narrow band imaging ; NBI）併用拡大内視鏡所見からみた胃分化型SM1癌の診断．胃と腸 42 : 111-120, 2007

28）竹内洋司，上堂文也，飯石浩康，他．陥凹性小胃癌の診断─NBIの立場から．胃と腸 41 : 804-810, 2006

29）仲吉隆，郷田憲一，貝瀬満，他．毛細血管像からみた胃癌の特徴─陥凹型早期胃癌を中心に．消内視鏡 16 : 1699-1703, 2004