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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸48巻13号

2013年12月発行

雑誌目次

今月の主題 好酸球性消化管疾患の概念と取り扱い 序説

好酸球性消化管疾患の考え方

著者: 松井敏幸

ページ範囲:P.1849 - P.1852

 本特集号のねらい

 好酸球性消化管疾患(eosinophilic gastrointestinal disorders ; EGID)は,消化管に好酸球が浸潤する慢性炎症性アレルギー疾患の総称とされ,最近では全消化管の罹患部位にかかわらず,好酸球浸潤が基本となる病態にこの概念が用いられるようになった1).ただし,EGIDの同義語としては,EGIDの他にeosinophilic gastrointestinal diseases(Furutaら,2008)2),eosinophil-associated gastrointestinal disorders(DeBrosseら,2008)3),primary eosinophilic disorders of the gastrointestinal tract(Yanら,2009)4),eosinophilic digestive diseases(Shiffletら,2009)5),eosinophilic diseases of the gastrointestinal tract(Lucendoら,2012)6)などの記載が最新の英文論文にある.

 また,この訳語としては,“好酸球性胃腸疾患”7),“好酸球性消化管障害”8),“好酸球増加症候群”9)などがあり,必ずしも本邦で統一されておらず,今後は呼称の統一が望まれている.その先駆けとして,厚労省研究班 : 消化管を主座とする好酸球性炎症症候群(正式名称 : 好酸球性消化管疾患)の診断治療法開発,疫学,病態解明に関する研究班(研究代表者 野村伊知郎)9)では,本特集号で用いる「好酸球性消化管疾患」をEGIDの正式の呼称とすることを決定した.その理由としては,EGIDの概念には,病態が異なる疾患が多数含まれるとの認識による.EGIDの病態解明が進めば,欧米での呼称と概念も統一されるものと推測する.

主題

好酸球性消化管疾患の診断基準

著者: 木下芳一 ,   大嶋直樹 ,   石村典久 ,   相見正史 ,   石原俊治

ページ範囲:P.1853 - P.1858

要旨 好酸球性消化管疾患は好酸球性食道炎と好酸球性胃腸炎に分類されている.これらの疾患は臨床像と病理組織学的所見を組み合わせて診断を確定するべき疾患であり,それぞれの診断基準が作られている.好酸球性食道炎に対しては,2007年に米国でConsensus Recommendationが出版され,2011年には改訂版も出版されている.好酸球性胃腸炎に対しては,1990年にやはり米国でTalleyらが臨床研究に用いた基準が長く診断の基準として用いられてきた.厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)では,2010年にこれらの2疾患に対する診断指針案を作成し,2012年には一部の改訂作業を行っている.今後は症例の集積を行い,指針の改訂が引き続き必要と考えられる.

好酸球性消化管疾患の概念―好酸球性消化管疾患の病理

著者: 平橋美奈子 ,   小林広幸 ,   恒吉正澄 ,   古賀裕 ,   熊谷玲子 ,   長田美佳子 ,   熊谷好晃 ,   河野由紀子 ,   高橋俊介 ,   瀧澤延喜 ,   一瀬理沙 ,   小田義直

ページ範囲:P.1859 - P.1871

要旨 好酸球性消化管疾患の病理組織学的特徴を探るため,好酸球性食道炎が疑われた食道生検組織12例34切片,好酸球性胃腸炎を疑われた5例30切片と,粘膜への好酸球浸潤を伴いやすいNSAID腸炎1例3切片,collagenous colitis 1例9切片,寛解期の潰瘍性大腸炎1例12切片において,上皮内ならびに粘膜間質内に浸潤する好酸球数,およびその浸潤パターンや組織の反応性変化,他の炎症性細胞の浸潤程度などを観察評価した.結果,好酸球性食道炎とみなしうる生検組織の特徴は,(1)上皮内に30~40/HPFを超える高度な好酸球浸潤があること,(2)浸潤する好酸球は上皮表層優位に,比較的斑状に,あるいは集簇巣を形成して存在すること,(3)上皮は炎症により浮腫を来し,時に上皮の落屑を伴うこと,(4)上皮基底細胞の反応性過形成を示すことの4点にまとまった.一方,好酸球性胃腸炎における粘膜組織の特徴は,食道炎ほど明確にはまとまらなかったが,食道炎同様,上皮に好酸球浸潤を認めることがひとつの特徴と考えられた.加えて,粘膜間質に20/HPFを超える好酸球が浸潤し,リンパ球や形質細胞など他の炎症性細胞の比較的密な浸潤を伴うこともその特徴のひとつと考えられた.

好酸球性消化管疾患の診断と治療―好酸球性食道炎

著者: 友松雄一郎 ,   芳野純治 ,   乾和郎 ,   若林貴夫 ,   片野義明 ,   小林隆 ,   三好広尚 ,   小坂俊仁 ,   山本智支 ,   松浦弘尚 ,   成田賢生 ,   鳥井淑敬 ,   森智子 ,   安江祐二 ,   黒川雄太 ,   細川千佳生

ページ範囲:P.1873 - P.1881

要旨 好酸球性食道炎(EoE)は,食道上皮に好酸球浸潤を認める慢性のアレルギー疾患である.当院で診断された17例のEoEを対象として,臨床像,内視鏡像,治療について検討した.平均年齢は49歳,男性が70.6%を占めた.主訴は胸やけが最も多く,次いで嚥下困難,つかえ感が続いた.内視鏡所見は縦走溝が最も多く,他に輪状溝,白斑を認めた.病理組織学的所見では,食道上皮に著明な好酸球浸潤(≧15/HPF)を認めた.治療は,PPIを第一選択とし,有効4例,無効6例であった.PPIが無効であった6例のうち,4例にステロイド治療を実施したところ,全例に有効であった.近年,本疾患の罹患率は増加している.日常診療において本疾患に遭遇する機会は増すと考えられ,今後,内視鏡医や病理医には,本疾患に対する認識を高めていくことが求められる.

好酸球性胃腸炎の診断根拠―福岡大学における実態

著者: 石川智士 ,   松井敏幸 ,   二宮風夫 ,   高津典孝 ,   久部高司 ,   長濱孝 ,   高木靖寛 ,   平井郁仁 ,   八尾建史 ,   植木敏晴 ,   今村健太郎 ,   太田敦子 ,   田邉寛 ,   池田圭祐 ,   原岡誠司 ,   岩下明德 ,   阿部光市 ,   青柳邦彦

ページ範囲:P.1883 - P.1896

要旨 好酸球性胃腸炎の診断にはTalleyらの基準が用いられてきた.本邦では近年,木下らが全国調査アンケートを集計し,新たな診断指針を提唱した.今回筆者らは,福岡大学(福岡大学病院,福岡大学筑紫病院)での2012年までの好酸球性胃腸炎症例を木下らの診断指針で再検討し,従来の基準と比較した.その結果,19症例のうち木下らの診断指針で確診例とした症例は8例であった.除外症例は組織学的に好酸球浸潤を証明できない症例,好酸球浸潤を認めるが他疾患を鑑別できない症例であった.EGEの病変部位は胃,小腸,大腸ではある程度頻度は高いものの,食道病変の合併は少なかった.診断のためには内視鏡生検を複数箇所で行うことが必要と考えられた.

小児における好酸球性消化管疾患の概念―小児と成人における異同に主眼を置いて

著者: 野村伊知郎 ,   新井勝大 ,   清水泰岳 ,   高橋美恵子 ,   正田哲雄 ,   大矢幸弘 ,   斎藤博久 ,   松本健治

ページ範囲:P.1897 - P.1903

要旨 好酸球性消化管疾患(EGID)は,乳児における新生児-乳児消化管アレルギー,1歳以上~成人における好酸球性胃腸炎,好酸球性食道炎などの総称である.いずれも病態に好酸球性炎症が少なからず関与しており,食物により誘発される患者が多いことが判明しつつある.また,本邦では新生児-乳児消化管アレルギーが急激に増加しつつあり,欧米の類縁疾患とphenotypeに大きな差があること,好酸球性食道炎の頻度が低く,好酸球性胃腸炎が多いことなどの特徴がある.本邦でのEGID,特に小児と成人の違いについて論述する.

小児における好酸球性消化管疾患の診断

著者: 山田佳之 ,   中山佳子

ページ範囲:P.1904 - P.1910

要旨 本邦における小児の好酸球性消化管疾患(eosinophilic gastrointestinal disorders ; EGID)では,好酸球性食道炎の報告は少なく,好酸球性胃腸炎の報告が多い.また,アレルギーとの関連が注目されている.小児のEGIDは,内視鏡所見や病理所見では成人との共通点も多いが,年齢による変化は多彩である.小児の消化管内視鏡検査が十分に行える施設が限られていることからも,消化器症状を認めた小児において,本疾患群を疑い検索することは必ずしも容易ではない.本稿では,小児特有の病態も含め,小児のEGIDについて概説する.

好酸球性消化管疾患のトピックス―GERDと好酸球性食道炎

著者: 阿部靖彦 ,   野村栄樹 ,   佐藤剛司 ,   佐々木悠 ,   吉澤和哉 ,   岩野大輔 ,   八木周 ,   作田和裕 ,   渋谷りか ,   西瀬祥一 ,   猪股芳文 ,   加藤勝章 ,   飯島克則 ,   上野義之

ページ範囲:P.1911 - P.1920

要旨 好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis ; EoE)の診断には,他に好酸球浸潤を来しうる疾患を除外することが必要で,実臨床ではGERDとの鑑別が重要となる.EoEの典型的な症状は食物のつかえ感であるが,胸やけなど逆流症状を主訴とする場合も多いため,症状のみから両者を鑑別することは困難である.GERDでも軽度の好酸球浸潤を来しうることを考慮し,臨床症状に加えて,生検で好酸球が15個/HPF以上であること,PPIが無効であること,異常酸逆流がないことを満たす場合にEoEと診断する基準が用いられてきた.内視鏡的に縦走溝,輪状溝,白色滲出物などの特徴的な所見を示す典型例ではGERDとの鑑別は比較的容易であるが,所見が乏しい場合もあるため,生検を行って好酸球浸潤の有無を確認することが重要である.米国における最新の診断ガイドラインによれば,臨床および組織所見からEoEが疑われた場合にはPPI投与を行い,PPIに反応しない例をEoEと診断し,PPIで所見が消失してしまう例はPPI-responsive esophageal eosinophiliaとしてEoEとは区別するように提唱されている.

好酸球性消化管疾患のトピックス―好酸球増多症候群と好酸球性消化管疾患

著者: 森山智彦 ,   江㟢幹宏 ,   加藤光次 ,   竹中克斗 ,   一瀬理沙 ,   熊谷好晃 ,   平橋美奈子 ,   松本主之

ページ範囲:P.1921 - P.1929

要旨 好酸球増多症候群は,好酸球性消化管疾患の鑑別診断として考慮すべき病態である.本症候群における好酸球増加の機序が明らかになるに伴い,診断には好酸球増加を来す疾患の除外とともに,FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子の検索と骨髄検査が必須となっている.治療はステロイドやヒドロキシカルバミド,インターフェロンαなどが中心となるが,FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子陽性例ではイマチニブが奏効する.好酸球性消化管疾患において,末梢血好酸球増加を有する症例やステロイド不応例,ステロイド離脱困難例では好酸球増多症候群の可能性を考慮し,遺伝子診断とリンパ球の機能解析に加えて,全身臓器の検索,特に心血管系・中枢神経系の評価が必要である.

主題症例

難治性多発性深掘れ潰瘍を呈した好酸球性胃腸炎の1例

著者: 西下正和 ,   仲田文造 ,   江頭由太郎 ,   谷川徹也 ,   宮嵜孝子 ,   横松秀明 ,   渡辺憲治 ,   藤原靖弘 ,   荒川哲男

ページ範囲:P.1931 - P.1937

要旨 患者は27歳,男性.主訴は心窩部痛,嘔吐,体重減少.他院でH2ブロッカーの内服治療を数か月受けたが,症状が改善しないため,当院を受診した.上部消化管内視鏡検査では胃および十二指腸に多発性深掘れ潰瘍を認めた.プロトンポンプ阻害薬(PPI)を約2年間投与したが,潰瘍病変は寛解と再燃を繰り返した.好酸球性胃腸炎を疑い,アレルギー検査を行ったところ,卵白,牛肉,豚肉に陽性を示し,胃生検の病理組織学的所見では,粘膜固有層に20個/HPF以上の好酸球浸潤を認めたため,好酸球性胃腸炎と診断した.プレドニゾロン(PSL)の内服加療を開始したところ,潰瘍は速やかに瘢痕化した.その後PSLを漸減中止したところ,約1か月で再燃した.現在,少量のPSLとPPIの継続投与を行っている.

好酸球性食道炎の1例

著者: 小田丈二 ,   入口陽介 ,   水谷勝 ,   高柳聡 ,   冨野泰弘 ,   小山真一郎 ,   岸大輔 ,   藤田直哉 ,   山里哲郎 ,   大村秀俊 ,   板橋浩一 ,   中河原亜希子 ,   山村彰彦 ,   細井董三

ページ範囲:P.1939 - P.1944

要旨 患者は44歳,男性.胃もたれを主訴に当センターを受診した.内視鏡検査にて,胸部食道中心に畳目模様より幅が広く,太まった輪状溝および数条の縦走溝を認めた.明らかな逆流性食道炎は認めなかった.NBI拡大観察では,IPCL(intra-epithelial papillary capillary loop)が減少していた.好酸球性食道炎を疑い,数か所生検したところ,高度な好酸球浸潤を認め,好酸球性食道炎と診断した.嚥下困難,つかえ感,胸やけなどの症状は認めず,無治療で経過観察とした.その後も内視鏡所見は変化なく,症状も出現していない.

好酸球浸潤が目立つ原因不明の慢性大腸炎の1例

著者: 阿部光市 ,   青柳邦彦 ,   二村聡 ,   冨岡禎隆 ,   山口真三志 ,   江口浩一 ,   岩下明德 ,   向坂彰太郎

ページ範囲:P.1945 - P.1952

要旨 患者は26歳,女性.腹痛,下痢,血便のため入院した.大腸内視鏡検査にて,盲腸からS状結腸にびまん性の顆粒状粘膜がみられ,生検にて著明な好酸球浸潤を認めた.病変は大腸に限局し,上部消化管と小腸には異常を認めなかった.好酸球性胃腸炎におけるTalleyらの診断基準および木下らの診断指針(案)から好酸球性腸炎(大腸炎)の可能性を考慮したが,肉眼的に発赤,浮腫,びらんではなく顆粒状粘膜が主体であること,病理組織学的に好酸球以外の炎症細胞が高度かつびまん性に浸潤していること,好酸球の上皮内浸潤像が観察されないことから,いわゆる好酸球性胃腸炎とは異なる疾患と考えられた.アレルギー性腸炎の可能性は否定できないが,各種食物アレルゲン検査は陰性であった.大腸に好酸球が浸潤する原因は多彩であり,特に炎症性腸疾患は経過を経て典型例に移行することもあることから,診断には慎重な配慮が必要と考えられた.

早期胃癌研究会症例

大腸ESDにて治癒切除と判断され,1年後に粘液癌で局所再発した早期大腸癌の1例

著者: 鷹尾俊達 ,   山口裕一郎 ,   伊藤以知郎 ,   池原久朝 ,   堀田欣一 ,   鷹尾まど佳 ,   田中雅樹 ,   角嶋直美 ,   滝沢耕平 ,   松林宏行 ,   小野裕之 ,   下田忠和

ページ範囲:P.1954 - P.1960

要旨 患者は70歳代,男性.下部直腸に30mm大で丈高の隆起性病変を認めESDを行った.病理結果は,carcinoma in tubulovillous adenoma,M,ly0,v0,HM0,VM0であり治癒切除と判断したが,1年後の経過観察内視鏡で,初回ESDの瘢痕近傍になだらかに立ち上がる15mm大の隆起性病変を認めた.診断目的に再ESDを行ったところ,mucinous adenocarcinoma,SM-M以深,ly0,v0,HM0,VM1と診断された.初回ESD病変の深切り切片を再評価したところリンパ管侵襲を指摘されたため,初回ESD病変の局所再発であると考えた.断端陰性一括切除された深達度Mの早期大腸癌が粘膜下腫瘍様の形態を呈する粘液癌で局所再発した症例は,筆者らが検索しえたかぎりではこれまでに報告がない.絨毛性腫瘍は割を入れると細かく分断され薄く切れないため,脈管侵襲を発見するためには多段階の深切りによる病理学的検索が重要と考える.

症例

食道表在癌にpyogenic granulomaを合併した1例

著者: 大林友彦 ,   丹羽康正 ,   田中努 ,   田近正洋 ,   近藤真也 ,   水野伸匡 ,   原和生 ,   肱岡範 ,   今岡大 ,   山雄健次 ,   菅野雅人 ,   谷田部恭

ページ範囲:P.1961 - P.1966

要旨 患者は60歳代,女性.上部消化管内視鏡検査にて,胸部食道に病変を指摘された.白色光観察では,径25mm大の発赤調の陥凹性病変の内部に,白色調の隆起成分を認めた.NBI併用拡大内視鏡観察では,陥凹部のIPCLは日本食道学会分類でType B1,隆起部のIPCLは不明瞭であった.隆起部は結節状で,EUSにより深達度はSM2と判断した.CTではリンパ節腫大,遠隔転移を認めず,cT1bN0M0,Stage Iと診断し,JCOG0508に登録のうえ,ESDを施行した.病理上,陥凹部はSCC,pT1a/LPM,20×19mm,ly0,v0,HM0,VM0で,隆起部は炎症細胞浸潤を伴った毛細血管の増生と拡張を認め,表面は白苔で覆われており,病理学的にPG(pyogenic granuloma)であった.これまで癌の内部にPGが発生した報告はなく,文献的考察を含めて報告した.

術前側方進展診断が困難であった未分化型早期胃癌の1例

著者: 土山寿志 ,   辻重継 ,   吉田尚弘 ,   竹村健一 ,   山田真也 ,   稲木紀幸 ,   片柳和義 ,   車谷宏 ,   山田哲司

ページ範囲:P.1967 - P.1976

要旨 患者は70歳代,女性.早期胃癌ESD後のサーベイランス目的に施行した上部消化管内視鏡検査で,胃体下部後壁に10mm大の陥凹性病変を認め,生検にてGroup 5(sig)と診断された.白色光観察では,陥凹周囲に境界不明瞭な褪色領域を認めたが,同部位のNBI併用拡大内視鏡観察では胃炎との鑑別が困難であった.ESDにて一括切除し,病理診断では陥凹面より大きく側方進展する随伴IIb病変を認めた.陥凹面のみで癌が表面に露出しており,随伴IIb面では癌の露出は認められず,粘膜固有層から粘膜筋板近くに癌浸潤を認めた.未分化型癌では,このような進展形式のため,NBI併用拡大観察による側方進展診断が困難な例があり,白色光観察を重視し,周囲生検を必須と考える.

今月の症例

直腸4型大腸癌(muconodular,lymphangiosis混合型)の1例

著者: 小山真一郎 ,   入口陽介 ,   小田丈二 ,   水谷勝 ,   高柳聡 ,   冨野泰弘 ,   山村彰彦

ページ範囲:P.1845 - P.1848

 〔患 者〕 60歳代,男性.2012年4月頃から排便時出血を認めたため,近医を受診し,精査目的で当センターに紹介され,受診となった.

 〔既往歴〕 1993年に直腸癌手術.RS,pType 2,30×25mm,pSS,tub1>tub2,ly0,v0,pPM0,pRM0,pN0(0/5).

私の一冊

45巻7号「低異型度分化型胃癌の診断」(2010年)

著者: 飯石浩康

ページ範囲:P.1930 - P.1930

 内視鏡検査では,色調の異常から0-IIcあるいは0-IIbが強く疑われるにもかかわらず,生検ではGroup 5と診断してもらえない癌の代表として,“低異型度分化型胃癌”があります.当センターでは,病理の石黒先生が早い時期から“腺窩上皮型胃癌”に注目されていましたので,特に手つなぎ型の低異型度分化型胃癌にはなじみがありましたが,一般的に知られるようになったのは最近です.NBI(narrow band imaging)拡大内視鏡などがなかった時代,腺窩上皮型胃癌については,通常観察では病変が認識できたにもかかわらず,インジゴカルミンを撒布するとかえってみえにくくなることを経験したり,内視鏡切除の際に範囲診断に苦慮したりすることが多く,診断に苦労した記憶があります.

 最近は腺窩上皮型胃癌を含めた低異型度分化型胃癌が広く知られるようになりました.その知見の集大成とも言うべき特集が,45巻7号「低異型度分化型胃癌の診断」です.

Coffee Break

見る 12.神の手から人へ

著者: 長廻紘

ページ範囲:P.1953 - P.1953

 医学の歴史は見えないもの聞こえないものを,いかに「見聞」するかの歴史であった.外から視る(視診)触れる(触診)打つ(打診)などといった方法で,いわば群盲像をなでるといった風に診断するしかない時代が長く続いた.比較的客観性をもって人体内の出来事が分かるようになったのは,心臓や肺の音を聞くことができる聴診器の開発まで待たねばならなかった.聴診器を有効に使いきれるようになるには長年の修練,努力が必要で,使える人に名医の名が冠された.

 現代では,人体内部も形だけでなく働きまで丸見えと言ってよい状態にまで至った.まず実用化されたのは身体の中へ入って行って内腔をくまなく見る内視鏡.癌が,しかも早期の癌がたくさん診断され,大きな驚きをもって世に迎え入れられた.次いで,身体の外から内部を,内視鏡の入ることのできない実質臓器の中を診る,CT(コンピューター断層検査),MRI(磁気共鳴イメージング),PET(ポジトロンCT),超音波検査などによって,身体の奥,隅々まで詳細に見うるようになった.手術のうまい外科医に神の手という尊称が奉られることがある.特殊な才能は少数の人しか救えない.すべての人を救える技術にこそ「神の」という形容がふさわしい.

「見る」まとめ 終るにあたって

著者: 長廻紘

ページ範囲:P.1953 - P.1953

「見る」まとめ 終るにあたって 12回にわたって診断学とくに内視鏡において基礎となる「見る」ことについて考えてきました.人間の歴史とは,大げさにいえばあらゆる分野で,見えないものを見えるようにしてきた歴史といっても過言ではありません.人の大脳の60~70%がなんらかの形で視覚に関わっています.内視鏡について言えば,外から見えない体内へ道具を入れるという長い長い助走期があり,次いで胎内を照らす技術の完成までの長い試行錯誤が続きました.よく見えるようになっても,そこに止まらず,色素撒布などによってはっきりしないものを明瞭に,超音波による表面からはうかがい知れない深部の観察を可能にしてきました.生検もよく見る努力の一環といっていいでしょう.

 見視観といいます.意識を集中して見る努力を続けると,よく見えるようになります.しかし,観はその延長線上にはなく,超えることのできない一線が多くの人に立ちはだかります.そうではあっても,いま現に見ているのは目で,脳で,あるいは心で見ているのかが分かっていることは大事な留意点です.医者は他の職業人以上に見視観に関わるそれぞれの器官(観に携わる器官は心,すなわち全身)と,得られたものの分析能力を磨くことが求められています.なにかを見るとは,つまるところ自分を見ることに還ってきます.見るとは知るです.物や事には幾重にもヴェールがかかっています.事物を見る人にも同じくヴェールがかかっています.人が自分にかかっているヴェールを剝ぎとる程度に応じて,事物のヴェールもとれてきて,真相に近づけます.

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欧文目次

ページ範囲:P.1843 - P.1843

第19回白壁賞は山野泰穂氏らが,第38回村上記念「胃と腸」賞は菅井有氏らが受賞

ページ範囲:P.1978 - P.1979

 残暑厳しい中にもようやく秋の風を感じ始めた2013年9月18日(水),東京の笹川記念会館で開かれた早期胃癌研究会の席上にて,第19回白壁賞と第38回村上記念「胃と腸」賞の授賞式が行われた.第19回白壁賞は山野泰穂・他「右側大腸における鋸歯状病変の内視鏡的特徴」(「胃と腸」47 : 1955-1964, 2012)に,第38回村上記念「胃と腸」賞は菅井有・他「胃腺腫と腫瘍グレードに基づいた分化型粘膜内胃癌の臨床病理学的および分子病理学的解析」(「胃と腸」47 : 203-216, 2012)に贈られた.

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1848 - P.1848

 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

第20回「白壁賞」論文募集

ページ範囲:P.1871 - P.1871

 「胃と腸」編集委員会では,故白壁彦夫先生の偉業を讃え,「白壁賞」を設け,優秀な研究・論文を顕彰しております.今回は「白壁賞」の論文を下記の要領で公募いたしますので,奮ってご応募ください.英文誌に発表された消化管の形態・診断学に関する論文が応募の対象となります.

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.1896 - P.1896

早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

書評「がん哲学外来コーディネーター」

著者: 礒部威

ページ範囲:P.1938 - P.1938

 がん患者の支援が必要

 がんは日本人の死亡原因の第1位であり,二人に一人はがんに罹患する時代である.しかし,がん患者の支援体制は十分とは言えない.患者・家族の思いは,病気のこと,治療のこと,薬のこと,生活のことなど,多岐にわたる.インターネットや書籍は情報を満載しているが,どの情報が正しいのかわからない.また,がん患者は高齢化が進んでおり,インターネットなど使ったこともないという人も多い.一方で,日常の診療では,医師を含めて医療従事者は見るからに多忙そうで,ゆっくり話をするような雰囲気がない.そして,不安や疑問を抱えたままで治療が進んでいく.

 がん対策基本法に基づき策定されたがん対策推進基本計画においては,がん患者を含めた国民,医療従事者,医療保険者,学会,患者団体を含めた関係団体とマスメディア等が一体となってがん対策に取り組み,「がん患者を含めた国民が,がんを知り,がんと向き合い,がんに負けることのない社会」の実現を目指すことが目標として掲げられている.2012年から開始されたがんプロフェッショナル養成基盤推進プラン(文部科学省大学改革推進事業)においても,オールジャパンレベルでのがん医療人の養成が進んでいる.

学会・研究会ご案内

ページ範囲:P.1980 - P.1983

投稿規定

ページ範囲:P.1984 - P.1984

編集後記

著者: 芳野純治

ページ範囲:P.1985 - P.1985

 好酸球性消化管疾患(eosinophilic gastrointestinal disorders ; EGID)は消化管に好酸球が浸潤する慢性炎症性アレルギー疾患の総称である.EGIDは好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis ; EoE),好酸球性胃腸炎(eosinophilic gastroenteritis ; EGE),好酸球性大腸炎(eosinophilic colitis ; EC)に分けられる.EGIDは「胃と腸」誌において,本号で初めて主題として取り上げられた.EoEは,本邦ではFurutaらにより2006年に初めて報告されている.本症は,早期胃癌研究会では2010年2月に丸山ら(藤枝市立総合病院)によって初めて症例が提示され,「胃と腸」46巻10号(2011年)に掲載された.その症例は「早期胃癌研究会2010年最優秀症例賞」を獲得している.その後,同様の症例が散見されるようになり,筆者らの施設でも2010年に初めて診断して以来,3年間で17例を経験した(友松論文).

 EoEは正常では好酸球がみられない食道粘膜に発生し,EGEあるいはECは少数の好酸球が存在する胃・腸にみられる.本邦のEoEの診断指針(案)は厚生労働省班会議(2010年)で報告され,EGEの診断指針(案)は2012年に報告されている.いずれも,生検において20/HPF以上の好酸球浸潤が存在し,生検を数か所で行うことが必要とされる.診断指針(案)をまとめた木下らは本号にてその作成経緯と今後に改訂すべき問題点をまとめている.石川論文はTalleyらの基準により診断されたEGE 19例を同診断指針(案)と対比している.病理学的に好酸球が浸潤する疾患としては,EGIDの他に,食道では胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease ; GERD),膠原病など,胃・腸では好酸球増多症候群(hypereosinophilic syndrome ; HES),NSAIDs腸炎,潰瘍性大腸炎などがある.平橋論文はEoE疑い12例とEGE疑い5例を用い,これらの疾患との病理学的な差を述べている.すなわち,EoEでは上皮内に高度の好酸球浸潤がみられ,特に上皮表層に優位にみられることや,これらの所見が下部食道だけでなく,中部・上部食道にもみられるとしている.一方,胃,特に前庭部では,成人でも20/HPF以上の好酸球浸潤が正常でも認めることがあるとしたうえで,EGEでは腺窩上皮内への好酸球浸潤を認めることなどが特徴としている.阿部論文ではEoEとGERDとの鑑別について臨床的・病理学的な差について述べ,その中で,米国のガイドライン〔ACG(American College of Gastroenterology)clinical guideline〕にて,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI)により症状や組織所見が改善する食道好酸球浸潤はPPI-REE(PPI-responsive esophageal eosinophilia)として狭義のEoEと区別することが必要であるとされていることを強調している.また,末梢血の好酸球数が1,500/μl以上を示す好酸球増多症候群について,森山論文が紹介している.そして,本症候群とEGIDとの詳細な鑑別が,現在のところ十分にされていないと述べている.

次号予告

ページ範囲:P.1986 - P.1986

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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