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文献詳細

雑誌文献

胃と腸48巻2号

2013年02月発行

文献概要

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編集後記

著者: 斉藤裕輔1

所属機関: 1市立旭川病院消化器病センター

ページ範囲:P.249 - P.249

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 2012年4月から保険適用となった大腸ESDの特集が,「胃と腸」誌でも組まれることとなった.本特集号の目的は,大腸ESDについて,大きさの面からではなく“診断学の面"から適応について理解し,最新の処置具を含む治療技術の詳細と成績について学び,大腸ESDにおける今後の一般化をどのように進めるか,について読者に感じ,考えていただくことである.和田論文では大腸ESDの診断学からみた適応の重要性について述べており,まず大腸ESDの適応とならないSM深部浸潤癌の肉眼的特徴が述べられた.またLST-NGでは多中心性にSM浸潤を来し,術前に(NBI)拡大観察を用いても浸潤部位の診断が困難であること,強い線維化がみられる例があることから,ESDの絶対適応病変であることを記憶すべきとともに,EMRを行う際には癌を疑う部分を分断しないように切除すべきであることを再認識した.豊永論文では,具体的な成績などは示されていなかったものの,大腸ESDの具体的な技術,特に出血の予防策について解説されており,大腸ESDにおいても,胃のESDと同様,粘膜切開深度および剝離深度の調節により出血の予防が可能となり,SM浸潤距離,脈管侵襲が確実に評価可能な質の高い病理標本が得られるとの利点が強調された.既に大腸ESDを行って(苦労して)いる読者のstep upにつながることが十分に期待される.浦岡論文では大腸ESDの困難性を増加させる線維化への対策について解説がなされており,SMの線維化は大腸ESDにおける最も障害となるもので,術前の線維化の有無の予測が重要であることが強調されている.ただし,高度線維化例の対応は大腸ESDの熟達者でもかなり困難な現状であることが理解できた.同様に井野論文では,操作性の低下によって困難性の増す大腸ESDの克服法について解説がなされており,バルーン内視鏡やSAFEKnife Vの使用が推奨されている.これら2論文から,強度の線維化が予測される病変,特殊なdeviceを用いて行う必要性の高いESDは現状では一般に行われるべきではなく,専門のセンター病院で行われるべきであると考える.為我井論文では歯状線に接する病変の切除におけるESDの経肛門的切除に対する根治性と安全性における優位性が解説されており,肛門部の局所解剖,ESDの適応と,これまでの成績,さらには疼痛対策と出血対策などの技術的側面についても詳細に記載されており,編者も大変勉強になる内容であった.岡論文ではEMR併用ESD(ハイブリッドESD)の有用性および具体的方法について述べられており,スネアに病変が入る40mm程度までの病変の切除が,比較的短時間かつ少ない偶発症の頻度で行えるという利点が強調されている.本法は所要時間の短いEMRの利点と,完全切除率が高いESDの利点を合わせ持った,比較的容易に行える手技であり,ESDのサルベージオプションとしても今後広く普及すべき手技と考えられる.また,主題研究として中島論文では,大腸癌研究会のプロジェクト研究結果について報告されており,一般病院ではなく全国のセンター病院での成績ではあるが,ESDはEMRに比較して,治療時間は長いものの,一括切除率は高く,合併症率に差はない.また,ESDの問題点として,大きさ40mm以上の病変では切除時間が長いため,センター病院での切除が望ましい,という前向きのデータが掲載され,大腸ESDの最先端の現状が明らかとなった.

 本特集号は当初の企画のねらいが十分に達成された内容である,と編者は感じている.つまり,診断の重要性から一般的なESDの技術,さらにステップアップするための名人の秘技,センター病院で行われるべき困難例の特徴と予測,下部直腸のESD,ハイブリッドESD,日本の先端施設における大腸ESDに関する科学的データといった要素が凝縮されており,大腸ESDに関する現状,さらに,序説で田中先生がおっしゃっておられる“大腸ESDの安全で効率的な一般化"に向けての問題点と対策(の一部)が明らかになっていると考える.次回,本誌で大腸ESDの特集が企画されるときには,本法がさらに進化し,安全で効率的な一般化がなされ,EMR,ESD,外科手術の役割分担が綺麗に完成していることを期待する.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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