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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸48巻6号

2013年05月発行

雑誌目次

今月の主題 微小胃癌の診断限界に迫る 序説

微小胃癌の診断限界に迫る

著者: 長南明道

ページ範囲:P.781 - P.784

はじめに

 本誌における微小胃癌に関連する特集は,5巻8号(1970年)「診断された微小胃癌」,14巻8号(1979年)「微小胃癌」,23巻7号(1988年)「微小胃癌診断─10年の進歩」,24巻12号(1989年)「小さな未分化型胃癌─分化型と比較して」,30巻10号(1995年)「微小胃癌」,31巻12号(1996年)「未分化型小胃癌はなぜ少ないか」,とたびたび取り上げられてきた.そして41巻5号(2006年)「陥凹性小胃癌の診断─基本から最先端まで」が主題に取り上げられてから7年が経過した.この間,若年世代のHelicobacter pylori感染率の低下,中高年世代のHelicobacter pylori除菌の拡がりにより,胃癌を取り巻く環境は大きく変化しつつある.また,診断面ではハイビジョン内視鏡や拡大内視鏡,NBI(narrow band imaging)などのIEE(image-enhanced endoscopy)が開発され,診断精度が高くなり,微小胃癌の見逃し病変の減少,あるいはこれまで発見が困難であった病変の診断能向上が期待されている.このような新たな状況を踏まえ,微小胃癌を取り巻く問題点を整理し,序説としたい.

主題

微小胃癌診断の時代的変遷

著者: 長井健悟 ,   竜田正晴 ,   松浦倫子 ,   伊藤貴史 ,   松井芙美 ,   藤井基嗣 ,   山階武 ,   鼻岡昇 ,   山本幸子 ,   竹内洋司 ,   東野晃治 ,   上堂文也 ,   石原立 ,   飯石浩康 ,   冨田裕彦

ページ範囲:P.785 - P.793

要旨 1980年代以降,早期胃癌は60歳以上の高齢者に好発するようになり,そのなかでも大きさ30mm未満で,分化型のM癌がおよそ80%を占めるに至っている.さらに,画像強調内視鏡(IEE)が導入された現在では,内視鏡所見のより乏しい,より小さい,より分化度の低い癌が発見できるようになり,5mm以下の微小胃癌を正確にとらえることが可能となった.しかし,IEE導入後に微小胃癌の発見数は増加したが,発見頻度には大きな変化が認められなかったことから,現状のIEEによる微小胃癌のスクリーニングには限界があると考えられる.

微小胃癌の病理―分化型微小胃癌の臨床病理学的および分子病理学的特徴

著者: 上杉憲幸 ,   菅井有 ,   織笠俊輔 ,   杉本亮 ,   遠藤昌樹 ,   鈴木一幸

ページ範囲:P.794 - P.808

要旨 【目的】微小胃癌(5mm以下)の臨床病理学的および分子病理学的特徴の意義を明らかにするため,非微小胃癌(10mm以上)と比較検討した.【対象と方法】内視鏡的に切除された微小胃癌86例と非微小胃癌83例を対象とし,臨床病理学的事項,腫瘍グレード,背景粘膜および粘液形質について比較した.また,p53,MLH-1,β-cateninおよびKi-67について免疫組織化学的に解析した.さらに,癌および背景粘膜におけるDNAメチル化解析をLOX,MINT31,RUNX3,ELMO1,THBD,NEUROG1,SOCS1,p16,hMLH1の9遺伝子について行い,Yagiらの2パネル法に従って,DNAメチル化状態を分類した.【結果】微小胃癌では,(1)胃下部発生,(2)0-IIb型,(3)低グレード癌を示す症例が多かった.背景粘膜には両者に差はなかった.微小胃癌の粘液形質は胃型が少なく,小腸型が多かった.p53およびMLH-1発現は両者に差はなかったが,微小胃癌ではβ-cateninの核内蓄積の頻度が低かった.また,Ki-67陽性細胞の頻度と分布は両者に差はなかった.DNAメチル化では,微小胃癌は非微小胃癌と比較し,低メチル化状態の頻度が高く,高メチル化状態の頻度が低かった.背景粘膜のDNAメチル化に差はなかった.【結語】微小胃癌と非微小胃癌では,DNAメチル化の蓄積状態に差異があることが明らかとなった.

微小胃癌の病理―微小胃癌の臨床病理学的特徴─未分化型微小胃癌の画像診断のために

著者: 江頭由太郎 ,   芥川寛 ,   梅垣英次 ,   樋口和秀

ページ範囲:P.809 - P.820

要旨 早期胃癌1,319病変のうち,腫瘍径5mm以下の微小胃癌229病変(17.4%)を対象に病理組織学的特徴とマクロ所見の特徴を検討した.組織型は分化型が68.6%,混在型が8.3%,未分化型が23.1%であった.未分化型癌はM領域,前後壁に位置する頻度が高く,肉眼型は0-IIc型を呈する病変が多かった.未分化型0-IIc型癌の特徴は,円形・類円形,表面色調は,正色調,胃小区不明瞭化・消失,光沢感消失であった.マクロ的同定困難微小胃癌の頻度は,43病変(18.8%)で,未分化型に頻度が高かった.未分化型の同定困難微小胃癌の特徴は,M領域,小彎,萎縮性胃炎の程度(軽度),癌巣周囲粘膜(中間帯あるいは胃底腺),癌巣周囲の腸上皮化生(軽度)であった.

微小胃癌に対するX線診断の現状と課題

著者: 入口陽介 ,   小田丈二 ,   水谷勝 ,   高柳聡 ,   冨野泰弘 ,   小山真一郎 ,   山里哲郎 ,   岸大輔 ,   大村秀俊 ,   板橋浩一 ,   中河原亜希子 ,   藤田直哉 ,   今村和広 ,   高西喜重郎 ,   松本潤 ,   山村彰彦 ,   細井董三

ページ範囲:P.822 - P.834

要旨 過去5年間に,当センターで経験した5mm以下の微小胃癌80例106病変を対象として,発見方法,組織型,腫瘍径と描出率,X線像を中心に,画像診断,特にX線検査の拾い上げについて検討した.検査方法別の病変数と平均腫瘍径は,X線検査:5病変,4.7mm,内視鏡検査:40病変,3.8mmであった.また,術後の全割標本による病理組織学的検査で診断された病変は,35例61病変,2.8mmで,すべて多発胃癌の副病変であった.組織型は,分化型97病変(tub1:90病変,tub2:7病変),未分化型9病変(sig:8病変,por1>tub2:1病変)で,分化型が多かった.X線検査の腫瘍径別描出率は,5mmでは50%と高率であり,付着ムラのないX線撮影が行われていれば,検診でも微小胃癌を的確に診断していた.したがって,微小胃癌をX線検査で発見するためには,付着ムラのない写真を撮影し,読影では,微小胃癌のX線所見の特徴である不整形の小バリウム斑と,辺縁の微細な棘状陰影や微細顆粒状の辺縁隆起について熟知して拾い上げることが大切である.

微小胃癌における通常内視鏡診断の限界に迫る

著者: 角嶋直美 ,   小野裕之 ,   田中雅樹 ,   澤井寛明 ,   川田登 ,   萩原朋子 ,   滝沢耕平 ,   今井健一郎 ,   鷹尾俊達 ,   堀田欣一 ,   山口裕一郎 ,   松林宏行

ページ範囲:P.835 - P.842

要旨 当院で術前に指摘し,内視鏡的切除術を施行した微小胃癌118例の発見契機,内視鏡所見について,肉眼型別・組織型別に検討した.発見契機は,隆起型微小胃癌では隆起,陥凹型微小胃癌では組織型にかかわらず色調の変化が最も多かった.内視鏡的特徴は,隆起型病変では発赤調の表面平滑で不整形な隆起,分化型陥凹型病変では,発赤した境界明瞭な不整形陥凹で辺縁隆起を伴うもの,未分化型病変は色調の変化を伴う領域または小陥凹であった.微小胃癌の発見には,胃内の丁寧な洗浄と観察に加え,色素観察によりわずかな変化をとらえることが重要である.

Narrow-band imaging併用拡大内視鏡による微小胃癌の診断能と限界

著者: 八尾建史 ,   藤原昌子 ,   長浜孝 ,   金光高雄 ,   八坂太親 ,   高木靖寛 ,   松井敏幸 ,   田邊寛 ,   今村健太郎 ,   岩下明德

ページ範囲:P.843 - P.856

要旨 【背景】微小胃癌を白色光通常内視鏡(C-WLI)のみで診断することは困難であり生検組織診断が必要である.また,狭帯域光観察併用拡大内視鏡(M-NBI)の微小癌に対する有用性は明らかでない.そこで,M-NBIの微小胃癌に対する有用性と限界を検討した.【方法】胃微小病変129病変(癌36病変,非癌93病変)を対象とし,C-WLIとM-NBIによる感度,特異度,正診率を求めた.さらに,確信度別に両検査法の感度,特異度,正診率を求めた.限界を求めるために,M-NBIにより高い確信度をもって診断されたにもかかわらず誤診された例について検討した.【結果】C-WLI vs. M-NBIの感度はそれぞれ41.0%(24.9~57.1%)vs. 75.0%(95%CI:61.4~88.6%),特異度は82.0%(74.2~89.8%)vs. 91.0%(85.2~96.8%),正診率は,71.0%(63.2~78.8%)vs. 87.0%(81.2~92.8%)であった.M-NBIの感度・正診率は,C-WLIのそれらより優れていた.また,M-NBIはC-WLIより高い確信度をもって診断されていた.高い確信度をもって診断されたにもかかわらず,誤診された病変数は,8病変であった.その内訳と理由は,偽陰性5病変については,2病変は生検により癌組織が減少したこと,2病変は,拡大内視鏡診断の限界,1病変は読影ミスであった.擬陽性3病変については,1病変は生検による拡大内視鏡所見の修飾,2病変は拡大内視鏡診断の限界であった.【結論】M-NBIの感度,診断能はC-WLIに比較して優れていた.本研究結果により微小胃癌に対する内視鏡診断のstrategy(案)を作成した.

微小胃癌の拡大内視鏡診断の限界に迫る―未分化型微小胃癌の診断

著者: 藤崎順子 ,   岡田和久 ,   富田英臣 ,   山本智理子 ,   清水智久 ,   堀内裕介 ,   松尾康正 ,   吉澤奈津子 ,   大前雅実 ,   石川寛高 ,   石山晃世志 ,   平澤俊明 ,   山本頼正 ,   土田知宏 ,   五十嵐正広

ページ範囲:P.857 - P.868

要旨 2005年4月~2012年10月までに,当院でESDが施行された未分化型癌のうち,5mm以下の微小胃癌43症例45病変と小胃癌53症例54病変を比較し,微小胃癌45病変のNBI拡大内視鏡像と病理組織像との対比について検討した.SM癌は,微小胃癌で2例(4.4%),小胃癌では7例(13%)にみられた.組織像は,微小胃癌でsigの割合が高く42例(93.3%),porは3例(6.7%),小胃癌ではsigが39例(72.2%),porは15例(27.8%)であった.肉眼型は,微小胃癌で0-IIb型11例(24.4%),0-IIc型34例(75.6%),小胃癌で0-IIb型4例(7.4%),0-IIc型50例(92.6%)で,微小胃癌で0-IIb型の割合が高かった.微小胃癌の検討では,NBI拡大内視鏡像で明らかな血管パターンの異常がなく,窩間部開大のみのものをS Type,血管パターンに異常があるものをV Typeとした.組織像では,粘膜内の癌の浸潤程度で全層,中~上層,中層,上層に分類した.窩間部開大を示し,異常血管の所見がないS Typeが23例,血管パターンに異常がみられたV Typeが22例であった.V Typeを呈した22例中17例(77.3%)で,全層もしくは中~上層に癌の発育がみられた.S Typeは23例で中層にのみ限局したものが23例中14例(61.0%)にみられた.病変範囲のonline markingは6症例,9ポイントに行われ,5/9ポイント(55.6%)が正診されていた.

微小病変に対する内視鏡生検

著者: 岸埜高明 ,   小山恒男 ,   友利彰寿 ,   高橋亜紀子 ,   篠原知明 ,   宮田佳典 ,   國枝献治 ,   武田晋一郎

ページ範囲:P.869 - P.879

要旨 生検は癌の確定診断に必要な手技であるが,5mm以下の微小病変から複数の生検を採取すると,病変が分断されてしまい,治療時の正確な範囲診断が困難となる.また,1か所のみの生検でも病変の中央から採取すると病変が消失してしまうことがある.微小病変に対する生検は,病変の欠損が最小限となるように,病変の辺縁から小生検鉗子で1個のみ採取するのが原則である.したがって,微小病変では生検の至適部位がわずかであり,適切な生検を行うには,まず病変を正確に診断し,適切な生検採取部位を同定する診断力が必要である.次に,標的部位から正確に生検を採取する精密な技術が必須である.生検が不適切な部位から採取されると正しい診断が困難となるため,視野確保が不十分な状態での生検採取は慎むべきであり,先端フードを用いた再検にて正確な生検を試みるべきである.

主題症例

診断過程で示唆に富む微小胃癌の3例

著者: 小澤俊文 ,   和知栄子

ページ範囲:P.881 - P.886

要旨 〔症例1〕は,60歳代の男性.検診にて,胃体上部に発赤調陥凹性病変を散在性に認めた.NBI拡大観察にてWZの消失した不整な微細血管とDLを伴う3mm大の病変を1つ認めた.〔症例2〕は,70歳代の男性.胃癌EMR後にEGDを受け,胃体中部後壁に2mm大の発赤調陥凹を指摘された.NBI拡大観察ではDLと不整微細血管を有し,WZの消失した陥凹であった.〔症例3〕は,胃癌精査目的で紹介された50歳代の男性.近位前庭部大彎に多発する発赤を多数認めた.NBI拡大観察にて,後壁側の発赤調陥凹性病変内にWZの不整ないし消失,不整な微細血管およびDLを認めた.いずれの病変も分化型粘膜癌と診断し,生検を省略しESDにて切除した.組織学的にも治癒切除であった.

早期胃癌研究会症例

成人の大腸segmental hypoganglionosisの1例

著者: 村上右児 ,   西俣伸亮 ,   高木靖寛 ,   別府孝浩 ,   長浜孝 ,   松井敏幸 ,   田辺寛 ,   岩下明德 ,   佛坂正幸

ページ範囲:P.887 - P.894

要旨 患者は30歳代,男性.2007年1月下旬から便秘となり,腹痛が出現したため当院外来を受診した.腹部X線検査などにより腸閉塞と診断され,緊急入院した.大腸内視鏡検査所見にて下行結腸に潰瘍性病変を認めた.大腸X線検査所見では,下行結腸からS状結腸移行部に母趾圧痕像を思わせる所見や攣縮様の所見が存在し,同部は狭小化していると思われた.また,送気により伸展することから器質的な狭窄ではないと考えた.入院後,腸閉塞が改善しなかったため,約20cmにわたる狭小部の大腸部分切除を施行した.同部の病理組織学的所見において,大腸の神経叢は全体的に萎縮し,神経節細胞数も著明に減少していた.以上から,segmental hypoganglionosisと診断した.

今月の症例

食道pyogenic granulomaの1例

著者: 池谷賢太郎 ,   丸山保彦

ページ範囲:P.776 - P.778

 〔患 者〕 60歳代,男性.

 〔主 訴〕 心窩部不快感.

 〔既往歴〕 高血圧症.

 〔現病歴〕 2010年10月,心窩部不快感を自覚.同年11月近医にて上部消化管内視鏡検査を施行したところ,食道に異常を指摘され,当科に紹介となった.身体所見,検査所見に特記所見は認められなかった.

画像診断レクチャー

最新・胃X線撮影法の魅力

著者: 中原慶太

ページ範囲:P.895 - P.903

これまでの胃X線検査の問題点 これまでの胃X線検査の問題点は,胃がん検診に代表されるスクリーニング検査法と精密検査法との間で,撮影器材や検査手順,組み立て方が大きく異なっていたことである.

 従来の術前精密検査は,主に胃液抜きを行う胃ゾンデ法1)2)によって高画質画像が得られていたものの,スクリーニング検査と全く異なる複雑な手順を要し,高度な手技の修得に難があったため,習熟した後継者も少なく全国的な普及には至っていない.

消化管組織病理入門講座・1【新連載】

【胃】正常と慢性胃炎

著者: 平橋美奈子

ページ範囲:P.904 - P.911

はじめに

 胃の組織は,生検標本ならびに手術標本でも最も遭遇頻度の高いものの1つである.胃は,日々の消化活動に伴うさまざまな物理的・化学的刺激によって慢性的に炎症細胞浸潤にさらされている臓器であり,なかでも胃粘膜の炎症による変化は,時に良・悪性の判断に難渋することもあるが,その理解度は意外と高くない.本稿では,病理医のみならず臨床医にも日々の診療で役立つと思われる胃の正常ならびに,Helicobacter pylori(H. pylori)感染胃炎やそのほかの慢性胃炎の病理組織を簡単に解説する.

早期胃癌研究会

2012年11月の例会から

著者: 山野泰穂 ,   小山恒男

ページ範囲:P.912 - P.916

 2012年11月の早期胃癌研究会は2012年11月21日(水)に笹川記念会館国際会議場で開催された.司会は山野泰穂(秋田赤十字病院消化器病センター)と小山恒男(佐久総合病院胃腸科),病理は江頭由太郎(大阪医科大学病理学教室)が担当した.

第13回臨床消化器病研究会

「消化管の部」の主題のまとめ

著者: 後藤田卓志 ,   山本博徳 ,   斉藤裕輔 ,   田中信治 ,   井上晴洋 ,   小山恒男

ページ範囲:P.917 - P.925

 2012年7月28日に第13回臨床消化器病研究会がグランドプリンスホテル新高輪で開催された.「消化管の部」と「肝胆膵の部」に分かれ,「消化管の部」では主題1.胃:「ESD時代における胃癌側方進展範囲診断の基本」,主題2.大腸:「大腸SM癌の浸潤度診断~基本とピットフォール」,主題3.食道:「隆起を呈する食道病変の鑑別診断」の3セッションが行われた.

Coffee Break

見る 5.癌の声を聞く

著者: 長廻紘

ページ範囲:P.880 - P.880

 南泉和尚のもとで長く修行していた長官がある時,“「天地は我と同根,万物と我と一」という言葉がありますが不思議でございます.”と言った.南泉はそばにある花を指して「皆さんは,此の一株の花を目にしていても,まるで夢を見ているようなものである(本当に見たとはいえない)」と言った.「人は花を見,花は人を見る」でなければ花を目の前にしても,夢を見ているようなものである(如夢相似).見る者があり,見られるものがあり,この両者の結合こそが見るということの本質である.花を真に「この花」として観るには,花と一体にならなければ見えない.そのとき花が何かを語りかけ,花が「この花」として見え,花がいろいろなことを語りかけてくれる.見る,見られる,それらの結合は三(神,キリスト,聖霊)にして一,一にして三というキリスト教における三位一体に通じるものがある.分かりやすい喩えで言えば,「愛するものと愛されるもの,その結合が愛の本質である」.

 内視鏡検査では見ているものが正常か異常か,異常なら病的か否か,病的ならどんな病気かと診断を進める.病変を一つ見つけても,他にもあるはずという注意を忘れず,全体と部分を循環させて検査を進める.全能力を挙げて,全経験を動員して視る.「心の働きは形がなく,十方に通貫す.眼にありては見るといい,耳にありては聞くといい,鼻にありては香を嗅ぎ云々.もとよりこれ一つの心が分かれて六つになったものである(『臨済録』)」.視る準備ができていると相手も答える,病気が「ここです」と声を出してくれる.胃腸粘膜が術者に依存している,すなわち内視鏡医が来るのを癌が待っているときに診断ができる.そのことを「癌の声を聞く」と表現した.身心を挙げて色(たとえば胃腸粘膜)を見取し,身心を挙げて(癌が発している)声を聴取する.癌を何としてでも見つけよう,という主体性とともに,粘膜が語りかけてくるのをじっくり待つような面もないと小さな癌は見つけ難い.自己を空(くう)にして相手が語りかけてくるのを辛抱強く待つという胃粘膜との対話.よく知ろうとするからには人間同士の場合と同じで相手に対し関心があるはずである.愛情をもって見る者に対して,胃腸粘膜は答えてくれる.(長廻紘 : 癌の声を聞く.文光堂,2007)

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欧文目次

ページ範囲:P.775 - P.775

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.808 - P.808

 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.894 - P.894

早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

学会・研究会ご案内

ページ範囲:P.926 - P.929

投稿規定

ページ範囲:P.930 - P.930

編集後記

著者: 長浜隆司

ページ範囲:P.931 - P.931

 本号の企画“微小胃癌の診断限界に迫る”を長南,菅井,長浜の3名で企画した.

 微小癌を解析することにより,病理学的にその初期像,組織発生,発育進展がどのようなものであるのか,また臨床的には近年の機器の進化でその診断能がどのように進歩,変遷していったのか,さらに各々のモダリティーでの診断能,診断限界を明らかにすることを目的にした.

次号予告

ページ範囲:P.932 - P.932

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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