文献詳細
今月の主題 胃癌の経過
綜説
内科的にみた陥凹型早期胃癌の経過―特にⅡcの変化を中心として
著者: 堀之内幸士1 古賀安彦1 岡部治弥1
所属機関: 1九州大学医学部勝木内科
ページ範囲:P.7 - P.14
文献概要
胃癌がどのようにして発生し,どのような発育進展の経過をたどるのか,このきわめて重要な,しかしながらきわめて困難な問題の解明のための方法の1つとして,筆者らは数年前から胃癌患者の検査資料を過去に遡って集めること(retrospective follow up study)を行なっている.この研究方法は,いわば誤診の積み重ねともいうべき,したがってきわめて不完全な資料に基づく方法ではあるが,動物実験で胃癌の経過を観察することの不可能な現在,筆者らに残された人胃癌の経過観察のための数少ない手懸りの1つである.以下に述べる成績も,主としてこのretrospective follow up studyによって集められた症例の検討によって得られたものである.
陥凹型早期胃癌の経過は,Ⅱc部分の変化とⅡcの中の潰瘍(Ⅲ)の動きとに大別して考えることができる.このうちⅡcの中の潰瘍の動きにっいては,すでにこれまでの報告で筆者ら2)~7)は,①陥凹型早期胃癌においては(癌浸潤が比較的浅い時期においては)癌病巣内潰瘍の縮小増大などの動きが内視鏡像,もしくはX線像に明瞭に捉えられることの少なくないこと,②このような場合潰瘍縮小の主役を演ずるのは潰瘍辺縁の非癌性再生粘膜のようであること,③したがって潰瘍の縮小ということだけでは(潰瘍の)良悪性鑑別の標識になり得ないこと,④さらに悪性サイクルにおいて,開放型→聖域型→地層型→(癌上皮型)→開放型なるprocessの可能性を示唆する若干の所見の認められることなどについて繰り返し述べてきた.そしてこのような報告は臨床的にtrialtreatmentに対する警鐘として注目をあびる一方,病理組織学的にも潰瘍癌の組織学的判定基準をめぐる論争に新たな問題を提起し,一段と活発な論議をもたらしてきた8)~12).さらにこの問題は1968年4月,福岡における日本消化器病学会および日本内視鏡学会の合同シンポジウム13)にとりあげられ,以来数多くの研究者の注目を集め今日におよんでいるが14)~17),内視鏡上濃いBelagの出没として,またX線上ニッシェの出没として明瞭に捉えられるⅡcの中のⅢの動きにくらべ,Ⅱcの範囲を臨床的に明瞭にとらえることの困難さのために,Ⅱc部分の変化についての報告は殆どこれまでなされていないようである18).そこで今回は陥凹型早期胃癌の経過のなかで特にⅡc部分に焦点をあわせ,主としてその内視鏡像の推移についての検討を行なった結果について症例を供覧しながら述べてみたいと思う.
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