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今月の主題 胃癌の経過 興味ある経過を示した症例
2年間続いた胃潰瘍が40日間にBorrmannⅡ型の進行癌になった症例
著者: 種子田哲郎1 石井学1 島本福雄1
所属機関: 1鹿児島大学医学部佐藤内科
ページ範囲:P.69 - P.73
文献購入ページに移動「早期胃癌の経過追跡に関する研究」という厚生省田坂研究班が全国18施設と協同で,症例を持ちより早期胃癌の経過あるいは癌発育形式の綜合的な研究を行なっているが,教室でも協同研究者の1員として,現在まで発見した早期胃癌130例について,retrospectiveに集めた資料,手術拒否例,あるいは確診のっかないままに,3カ月以上7年にわたり経過を追跡しえた早期胃癌13症例と,結果的には進行癌であったが,興味ある経過を示した3症例を合せて16症例,17病変の経時的変化について,レ線像および内視鏡像を検討した.
16症例の年齢・性別・観察期間・観察回数・病変の位置・病変の大いさ・内視鏡分類・深達度・期間中の変化は表1に示すごとくである.年齢的には,35歳から72歳におよび,男子12症例,女子3症例,観察期間は3カ月ないし7年,その間の平均観察回数は4回,病巣の大いさは,長径3cm以下9例,3cm~4cm 6例,4cm以上2例である.胃癌の内視鏡分類では,Borrmann Ⅱ型1例,Ⅲ+Ⅱc5例,Ⅱc10例,Ⅱa+Ⅱc1例で,重複癌に見られたⅡaの1例を除きすべてが陥凹性病変であった.
昭和42年度内科学会総会のシンポジウムで述べたように内視鏡像のみによる早期胃癌診断の限界は,表2のごとくである.質的診断が不可能で,ただ存在診断のみ可能な症例が16%もあり,存在診断のみにおわった18症例,19病変の内視鏡の読みは,3表のごとくで,Ⅱcの病変,良性びらん,Ⅱcを伴わないⅢの内視鏡診断がむずかしいという結果を得ている.
病変の拡がりでも表4のごとく,長径3cm以上の病変が14例(73%)もあり,表5のごとく深達度でも5mⅢの症例が19例中5例(26%)もあり,必ずしも小さい浅い病変の診断がむずかしいとは言いかねる成績を得ている.
早期胃癌経過追跡症例が多いということは誤診例が多かったということにもつながり,決して名誉なこととは思わないが,教室では誤診の確定した時点でできるだけ,retrospectriveに集められうる資料を集め癌の発育形式についての手掛りをえようと努力している.
16症例17病変の胃癌の追跡中の変化を見ると表6のごとくであり,消失あるいは縮小傾向を示した病変は,7例(41%),形態学的に著明な変化を示さなかった病変が7例(41%),不可逆性で一方的に増悪傾向しか示さなかった病変は3例(18%)にすぎず,従来常識化していた潰瘍の縮小傾向をもって良性潰瘍の診断基準の指標としてきた考え方は誤りであることが最近指摘されるようになったが,これを裏付ける結果となっている.
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