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今月の主題 胃癌の経過 展望
癌の化学療法
著者: 仁井谷久暢1
所属機関: 1国立がんセンター内科
ページ範囲:P.91 - P.97
文献購入ページに移動はじめに
現状では早期診断,手術こそ制癌への最良の方策である.診断技術の驚異的な進歩は,より早期の癌の発見,治療を可能にして来た.伊藤の報告1)によれば粘膜内,粘膜下層に限局するいわゆる早期胃癌224例の摘出胃の組織学的検索では,8%に血管浸潤,22%に所属リンパ節転移が認められているにもかかわらず,これらの5年生存率は90%以上の好成績を示している.これは時宜にかなった早期診断,早期手術が迅速に行なわれたことを意味している.しかし,以上の成績はひとたび時期を失すれば,たちまち周囲他臓器への浸潤,転移を来たしうる要因をはらんでいるものとして,癌を局所の疾患として扱うことの困難さをも示している,事実,過去7年間,国立がんセンターで行なわれた胃癌手術例中,早期胃癌は15%に過ぎず1),執拗な浸潤・転移の様相は癌を全身疾患として把握しなければならない立場に立っことを余儀なくしている.全身治療を行ないうる可能性を持っている化学療法への期待は絶大なものがある.期待の実現化のために努力の方向をどこに求むべきか,現在のわれわれに課されている大きな問題である.
薬剤による癌征服への戦略には,2つの道が考えられる.1つは発癌機構を明かにし,そこで得られた知見を治療に向けようとするものである.しかし,正常細胞と異なる腫瘍細胞の特徴が解明されない限り,現状では腫瘍細胞のみを崩壊せしめ,正常細胞にはなんらの障害を与えることのない薬剤を求めることは,不可能である.他の1つはこうした制約のなかで,さまざまな工夫のもとに,現在使用することのできる薬剤の効果をより一層高めようとする努力である.われわれ臨床家の努力は多く後者の立場から払われている.
現状では早期診断,手術こそ制癌への最良の方策である.診断技術の驚異的な進歩は,より早期の癌の発見,治療を可能にして来た.伊藤の報告1)によれば粘膜内,粘膜下層に限局するいわゆる早期胃癌224例の摘出胃の組織学的検索では,8%に血管浸潤,22%に所属リンパ節転移が認められているにもかかわらず,これらの5年生存率は90%以上の好成績を示している.これは時宜にかなった早期診断,早期手術が迅速に行なわれたことを意味している.しかし,以上の成績はひとたび時期を失すれば,たちまち周囲他臓器への浸潤,転移を来たしうる要因をはらんでいるものとして,癌を局所の疾患として扱うことの困難さをも示している,事実,過去7年間,国立がんセンターで行なわれた胃癌手術例中,早期胃癌は15%に過ぎず1),執拗な浸潤・転移の様相は癌を全身疾患として把握しなければならない立場に立っことを余儀なくしている.全身治療を行ないうる可能性を持っている化学療法への期待は絶大なものがある.期待の実現化のために努力の方向をどこに求むべきか,現在のわれわれに課されている大きな問題である.
薬剤による癌征服への戦略には,2つの道が考えられる.1つは発癌機構を明かにし,そこで得られた知見を治療に向けようとするものである.しかし,正常細胞と異なる腫瘍細胞の特徴が解明されない限り,現状では腫瘍細胞のみを崩壊せしめ,正常細胞にはなんらの障害を与えることのない薬剤を求めることは,不可能である.他の1つはこうした制約のなかで,さまざまな工夫のもとに,現在使用することのできる薬剤の効果をより一層高めようとする努力である.われわれ臨床家の努力は多く後者の立場から払われている.
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